虚構の愛は、蕾のオメガに届かない

カシナシ

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第二章 二回目の学園生活

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 リスティアは、笑われるのは好きではない。
 少し胡乱な顔つきになったのを見たのか、ノエルは笑うのを辞め、『失礼致しました』と謝罪をした。
 一つ一つの所作が、丁寧で、柔らかい物腰。

 それでいて友好的な姿勢を崩さない。こういった所が友人の多い所以なのだろう。

 少し見惚れた後、慌てて、然程怒ってはいないと伝えた。


 しばらくそのまま、三人は黙々と自習に励んだ。
 ノエルは時折、アルバートの課題を教えてあげているようで、密やかな声と、重低音の相槌が、リスティアの耳に心地良い。

 彼らの醸し出す、そのゆったりと流れるような空気感は、悪くなかった。










 リスティアにつけられた使用人はマルセルクの手先だと認識し、さりげなく王城に戻るよう誘導した。使用人が居なくても特に困ることは無い。むしろ使用人を連れてきている学生など居ないのだから、特別措置だったのだ。

 それでも日頃の行いが功を奏し、怪しまれることはなかった。むしろ謙虚だと思われたのか、『王城ではそれこそ何でも仰ってください!』と熱意を露わに去っていった使用人に罪悪感を抱くほど。


 そこで思い当たったのは、自分の外聞が良すぎることだった。

(マルセルク様との婚約を解消するには、僕の評判を落とす必要があるな……)

 リスティアはそう思考していた。

 フィルはあくまでも愛妾候補。体の関係があっても見逃されてきたのは、リスティアとマルセルクは相思相愛で、婚姻することに問題なかったから。

 もしここでリスティアがマルセルクを拒み、婚約解消を望めば。――――それは悪手だ。

 マルセルクはリスティアを妻の座に座らせるため、躍起になるだろう。今代で自分ほど王太子妃にちょうど良い・・・・・・人物はそうそう見つからない。
 フィルに教養はない上、処女でもないため、リスティアが居なくとも第一の妃には出来ない。良くても第二以降の妃で、現に『愛妾』候補というだけ。


 リスティアでも、長年の婚約者に、愛妾ではなく『処理をする担当ただの子猫』で『愛するのはお前だけ』と繰り返し聞かされていなければ、断りたい物件である。

 貴族にアルファは多く生まれるが、オメガは少ない。その中でもリスティアほどに優秀なオメガは殆どおらず、また長年かけて教育を施す必要があった。

 オメガはどの爵位であっても引く手数多のため、殆ど婚約済み。愛妾付きのマルセルクに縁付かせるより、王位継承権第二位を狙うだろう。

 だからマルセルクは必ず、リスティアを手放さない。


 それならば、マルセルク以外、外部の人間によって、この地位から引き摺り下ろして貰わなければならない。

 例えば、『リスティアは次期王太子妃に相応しくない』――など。







 フィルはリスティアが男爵家に対して、賠償を求めたのがよっぽど気に食わなかったらしい。

『リスティアに話しかけたら賠償金を請求された』や、『贈り物をしても突っ返される、冷酷な人』『冷徹非情』という噂を、ぐすんぐすんと泣きながら流していた。愚かな側近二人も同調して、まるで真実かのように言いふらす。

 そもそもリスティアに話しかける人が少ないのだから、それを実証することは不可能。それなのに、リスティアの揚げ足でも取ったかのように、人々は囃し立てた。それ程までに、リスティアは完璧な人形のように振る舞っていたために。

 さすがにこんな全方位に対して賠償を求めることは出来ない。公爵家も『そのくらい収めてみせろ』というと想定出来たし、リスティア自身、そう思った。

(今までなら、味方内で茶会でも開いて払拭に動いていたところだけど……)





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