虚構の愛は、蕾のオメガに届かない

カシナシ

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第二章 二回目の学園生活

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「リスティア様~、最近会わないですね!自分の部屋に引きこもってばかりじゃ身体にも悪いですよ~!」

「お気遣いなく」


 かなりの早歩きで中庭を通り過ぎようとしたのにも関わらず、そこにいたフィルを筆頭とした集団に絡まれてしまった。ノエルとアルバートに早く会いたくて、横着して最短距離を行こうとしたのが悪かったらしい。

 マルセルクは何をしているのか。フィルをそのへんに放流しないで欲しい、と強く思う。

(……ああ、そうか。今日殿下は王城に用があるのだったか……一回目には無かった展開だ)


「もしかして、噂のせいで寂しかったんですか?ぼくがお友達になってあげるのに~!」

「結構ですよ。もうその噂は流れていないようですし……」

「そういえば元からリスティア様にご友人はいませんでしたね!ほら、ぼくのお友達はたくさんいますからぁ、よかったらご紹介しますよ!気に入ったら貸してあげるし~」


 フィルの後ろには、ニヤニヤとする令息たちがいた。男爵から侯爵まで、様々な爵位の貴族だが、一様に頭の悪そうな、愚鈍な顔つきでリスティアを取り囲んでいる。

 その中から一際身体の大きい令息を前に出すと、フィルはその腕に躊躇いなく抱きついた。令息は一層顔を蕩けさせ、だらしない面を晒している。


「イチオシは、このボブ!ほら、二の腕が僕の太ももより太くって格好いいでしょう!?でも見た目に似合わず優しい手つきでね、」


 ぺらぺらと話し続けるフィルは、リスティアにもボブの腕を触るように促してくる。肉付きの良い腕をとられているボブも興奮しだしたのか、鼻息が荒い。
 そんな風に掲げられても、リスティアは触れてみようとは思えない。じりじり、と後ずさっていると。


「失礼します」


 低い、心地よい声がして、外界の声が聞こえなくなった。

(あれ?)

 見上げると、アルバートが、その大きな手のひらでリスティアの耳を塞いでいた。

 アルバートの突然の登場に、ボブや令息たちの気持ちの悪い笑顔は消え去った。一気にピリピリした空気が伝わってくる。

(……なにも聞こえない。アルバートの手、おっきいなぁ……)


『男爵令息。この方の耳に貴様のような汚物の音声を聴かせるな。何故立場を弁えない。貴様の言動に吐き気を催した。賠償金を請求するぞ』

『なっ、なんでぇ!?もうっ、アルバート様もこっちにくればいいのに!これだからゲテモノ好きは嫌なんだ!』

 なにかフィルがキャンキャン言っていたものの、プンッとそっぽを向いて走り出していた。離れられたとほっとする。

 もうこちらに戻ってこないと確認したのか、アルバートは手を離してくれる。無口な彼は、一体何をフィンに言ったのだろうか。


「リスティア様。弱いコボルトほど良く吠えますから、あれの言葉は、一切、お気になさらず。気分を害されたでしょう。ノエルと茶菓子でもいかがですか」

「……優しいね、アルバート。とっても助かった……うん、お言葉に甘えさせてもらうよ」

「……」


 アルバートは珍しく、長く話しすぎたのだろう。
 それきり黙ってしまっても、耳に残った体温や、頼もしい広い背中を思えば、胸に温かさが広がっていく。

(……守って、くれたんだ……)

 リスティアの肩に乗ったチェチェは、フィルの背中が見えなくなるまでフシュー!と威嚇をしていた。

















 やっと、大錬金術師・ラヴァの本の概要が判明した。

 大まかに三部に分かれており、一つ目に魔道具、二つ目に薬草学と調合、最後に研究途中の事例集など、大錬金術師の経験したことがレポートの形式になって書かれていた。

 とりあえず全容を把握するためかなりの速度で読んでいたリスティアだが、その三部目にようやく辿り着けた。この本自体に亜空間収納の仕掛けがついているからか、ページは大量。じっくり読んでいてはあっという間に老人になってしまう。
 取り敢えず興味のあるページのみを速読で読んでいく。


「……ん?」


 深夜にも関わらず、目を通していたリスティアは、とある事例に手を止めた。

【魔力相性の不適合:異常な不快感】

 どきっとしたのは、一回目の結婚生活の際、マルセルクの魔力と全く合わず、苦しんだことを思い出したからだった。

 同じ人もいるのかと、さらに詳しく見ていく。

【男爵Aの夫人:オメガ男性Bの相談】

『彼ら夫婦は政略結婚と言えども、月に数回夫婦生活があり、子供も三人設けていた。三人目の子を妊娠中、少し間が空いて次の行為の時、Bは奇妙な不快感を覚えた。
 その後、回数を重ねる毎に不快感は強まり、約一年後には、行為の後に吐くようになった』

(これは……男爵の魔力が変質した?)

 リスティアと違い、三人目を授かるまで、特に何の問題もなく夫婦生活はあったということだが、その後の症状に、既視感を覚える。

『そこでBは薬師に相談したが、Bの体質・魔力共に変化は無し。それもそのはず、子を産み体力が無くなったとしても魔力に変化は無い。たまたま教会に慰問中の私の元へ相談に来られて、調査を開始した。
 Aは調査協力を拒否。仕方ないのでBから調査団の方へ依頼するよう指示』

(結構ラヴァ様は容赦ないんだ……)

 魔力の質というものはそうそう変わらない。稀に迷宮に潜り過ぎて狂ったり、魔力を弄る麻薬などを摂取し過ぎて狂った人間は魔力の質が変わることもあるらしいが、そうなってしまった場合はもう、魔力の質どころの問題では無いだろう。

 それは大錬金術師も同じ見解のようだ。
 どんな人間なのか興味が沸きつつ、続きを読み進める。

『Aは人気男娼にいれあげており、その期間はBが三人目を妊娠した頃と一致。そこになにかあると思い相手の男娼を調べさせると、Aのことなど覚えていない程に忙しい人気者で、ほとんど毎日行為をするらしい。娼館の方で、病気は無いことと、至って元気で健康な状態であることが保証されている。Aがどれほど通っているか、他に同じような男がいるかは、守秘義務があるとして教えてくれなかった』

 娼館なら、その対処は真っ当なものだろう。大錬金術師に対しても貫けるのなら、割としっかりした娼館なのかもしれないが、リスティアの気持ちとしては、そこは協力して欲しい所だった。


『その後、Bは閨を拒否することで吐き気の症状は収った。Aの方に異変は無く、娼館には継続して行っている。……………………その後原因は調査中』

(なんだ、原因はわからず仕舞い、か……)

 その下に書かれた日付は、十数年も前の日付だった。そういえば大錬金術師は不老という噂もあったな、とリスティアは思い出す。

(その男娼がきっかけで、男爵の魔力は変わった?でも何故無症状なんだ?ううん、性病のように、性別によって症状の出方が変わる病気もある。それで男爵の魔力を変質させた?……としても、情報が少なくてわからないな)

 しかしそれは我ながらいい線のような気もした。フィルが男娼並みに経験があることも想像できないことではないし、マルセルクは無症状。リスティアにだけ激しい吐き気の症状が出る。一回目の経験と一致する。

 違うのは、夫妻の魔力の相性は男娼に関わるまで問題なかったということ。

 リスティアがマルセルクと寝たのはフィルよりもずっと後のこと。

 つまり、マルセルクがフィルに関わらなければ、もしかしたら、リスティアも問題なく受け入れられたかもしれない。

 このレポートは、その可能性を、示唆していた。









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