虚構の愛は、蕾のオメガに届かない

カシナシ

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第二章 二回目の学園生活

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 今日は学園のガゼボでの茶会。いくつかガゼボはあるため、ちらほらと生徒たちの姿も見える。植え込みの隙間から、好奇心の塊になって聞かれているに違いなかった。


「さぁ、リスティア、おいで」

「失礼します」

「ふふっ、今日もつれないな。私のオメガは」


 ぐい、と腰を引かれて、あっという間にマルセルクの膝の上に乗せられてしまった。慌ててどこうとするものの、マルセルクがぎゅうと抱き込んでくるため逃げられない。

 マルセルクの、甘やかなフェロモンの香りすら分かる距離。それを嗅ぐのは、過去の記憶を呼び覚ましてしまう。

 強引でも優しいマルセルクの手つきは、前回から変わらない。壊れ物でも扱うような、触り方。それだけは決して、演技では無かった。リスティアを大事にしようとしていた。……その後、フィルの元に行くとしても、それだけは本物だった。


「殿下、この距離は……」

「婚約者なんだ、いいだろう?……はぁ、やはりお前の香りは、いい」


 誰と比べてなのか。そう聞きたくなる口を抑え、リスティアは大人しくする。

(我慢。……もう少しの、我慢だ……)

 マルセルクの手が、そっと肩を撫で、腕に触れ、リスティアの手に触れる。それはオメガらしく細く華奢で、長い指。
 抱え上げて頬擦りをしたかと思えば、唇を寄せて押し付けてきた。


「ま、マルセルク様……」

「本当は唇にしたい。だが、止まれる自信も無い。それに、お前の理想、『ファーストキスは誓いのキスで』だろう?だからそこの味を知るのは、婚姻後の楽しみに取っておくよ」


 そう言って、ちゅ、ちゅうと、戯れる子犬のようにリスティアの手へ口付けを落とし続ける。まるで愛撫のように。

 リスティアは身体が熱くなってくるのを感じて、顔を背けた。かつて物語に出てきた結婚式を夢見て語った事を、マルセルクは覚えていてくれたことに、胸がツキンと痛む。この、あたかも愛しているようなマルセルクの行動に、どれだけ期待し、どれだけ傷付けられたのか。

 これ程のことをしていても、初夜を境に態度を変える。そういう男なのだ、マルセルクは。

 そう思うと自然と涙が浮かんだ。
 どうしてここまで人を欺けるのか。二回目なのに、やはり本気で愛してくれているようにしか見えないのだ。


「リスティア……っ!?すまない、やり過ぎたか……!?」

「……っく、ひっく……」

「……!!」


(どうして、裏切るの、マルセルク様。貴方の事はやっぱり、何一つも分からない……)

 涙を引っ込めようと唇を噛むリスティアに、マルセルクは一瞬硬直し、おもむろに抱きしめてくる。


「かわいい。かわいいかわいいかわいい……」

「……っ!?」

「あー、クソ、怖がらせてしまったようだ。リスティアは慣れてないからな……はぁ、我慢我慢……」


 そう言ってリスティアのネックガードを執拗になぞるマルセルクに、リスティアは何か失敗したような気がしてならなかった。

 悪寒に震えるリスティアを、初心すぎる故の恐怖に震えていると勘違いしたマルセルクは、終始でれでれとした様子だった。

 いっぱいいっぱいになっているリスティアは、その様子を草陰から見られていることにも気付かない。


(もうすぐ、婚約者でもなくなる。寂し……く、なんか、ない)



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