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第二章 二回目の学園生活
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しおりを挟むマルセルクの誕生日が近いことを口実に、リスティアはフィルを連れて登城した。
応接室に通され、一通り形式ばった挨拶の口上を述べて着席すれば、ニコニコとした国王と王妃殿下。
彼らは、次期王太子妃のリスティアと、愛妾候補のフィルが、仲良しだとでも思っているのだろう。二人とも、何ら疑問を持っていないようだった。
「して、リスティア。息子を愛する二人は、バースデーにどんなサプライズをしようと計画しておるのじゃ?」
その言葉の平和さに、リスティアは内心大笑いした。そんな、幼児向けの可愛らしいイベントではない。
「こちらのフィルさんから、特別な贈り物の用意があるのです。さぁ、あれを」
「はいっ!……見てください、これ」
フィルが意気揚々と掲げたのは、歴とした診断書だった。
もちろん、『妊娠中、安静に』という言葉が輝くように書いてある。
「…………っ!?」
「はっ……!?」
「それと、私からも、これを」
畳み掛けるように、二枚の書類を出した。
一つは婚約解消の届け。もう一つは貴族籍を抜ける申請書で、イレニアス公爵の署名入りのもの。やはりリスティアの読み通り、父親は簡単に署名してくれた。
「「…………っ!?」」
「マルセルク殿下の子供を宿したフィルさんには、必ず産んで欲しいと思っております。ああそうです、フィルさんが妊娠していることと、マルセルク殿下と関係を持っていることは、周知の事実ですから、間違っても、『事故』が起きないようにしないといけませんね」
「な、くっ、リスティア……!?何を……」
リスティアは言外に、『フィルを始末しようとしても駄目ですよ』と念押しをした。それが許されるのならば、独裁政治の始まり。貴族たちから集中砲火を浴びてしまうことが明白だ。
お手付きをされて捨てられても文句の言えないことと、同義になってしまう。そうさせないために、事前に周知したのだ。
「これは婚前契約書に明記されている、契約違反です。それでも、違約金は気持ち程度で結構です。これまで教育をつけて頂きありがとうございました」
「は……なんっ!?」
「この愛すべき子の未来に、私は不要です。今後私の後見人はキールズ侯爵家となりますので、宜しくお願い致します。あちらからも色々と申請書が届きますから」
キールズ侯爵家は盤石の地位を持つ。王家ですら蔑ろに出来ない。もう、無理やり婚約を結ばされることも無いだろう。
決意を固めた瞳で、王を見つめた。
「この子のために。私は殿下の前から消えさせて下さい。懐妊祝いの影でひっそりと消えれば、もう話題に上がることもないでしょう。どうか、承認を」
「しかし……あくまでも彼は、愛妾候補だ。リスティアには遠く及ばないだろう?」
食い下がる国王。それはもちろん、想定済みだ。フィルはぷくりと頬を膨らませたが、すぐにリスティアがそれらしい言葉を添える。
「彼には身を粉にして尽くしてくれる補佐がいます。それも二人、いえ、潜在的には何人も。彼らを総動員すれば、私など簡単に越えましょう。フィルさん本人が一言言えば、優秀な人間を数多く動かせられるのですから」
「なんと……」
「それに容姿も非常に整っています。それこそ、外交に出しても支障はありません。……ですので、私はひっそり、表舞台ではないところで彼らを祝福させてくださいませ」
そこで王妃がリスティアをはた、と見た。
慈愛のような、羨望のような、遠くを見る眼差し。
リスティアは身体を少し硬くしたものの、王妃から目を逸さなかった。前回は味方になってもらったが、今回どうなるかは、分からない。
(いざとなればあの秘密を……でも、あまりにもリスクが高い。出来れば出したく無い手だけど……)
リスティアの決意が伝わったのか、静かだった王妃が口を開く。
「陛下。リスティア……キールズ侯爵家を敵に回すのは宜しくない手ですわ。好意的に申し出て貰っているうちに、承諾すべきかと」
「そこまで……はぁ。そうか……。根回しは、終わっている、と。……………………リスティア、確かにこうなっては仕方あるまい。長年の苦労分、慰謝料はきちんと払う。……愚息が、済まなかった」
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