虚構の愛は、蕾のオメガに届かない

カシナシ

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第二章 二回目の学園生活

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 大錬金術師の本を読み進めた結果、一回目の結婚生活で『番欠乏症』になっていたと推測できた。

 頭痛、食欲不振、精神的不安定。

 本人も気付かぬうちに狂気に呑まれて、最期は自死してしまうことが多い。

 どれも心当たりがあった。しかし当時はマルセルクの魔力か、薬の副作用によって齎されたものだと思っていた。それに番欠乏症と言えば、事件に巻き込まれた被害者という印象が強く、一応は同じ城にいて、とりあえずは抱かれていたため、まさかという認識だった。

 元々、リスティアのフェロモンは近付いてやっと気付く程度。よく制御しているというよりも、制御しやすい程度なのだ。
 それが、番欠乏症によってさらに薄まっていた可能性もある。それで発情期にも関わらず、マルセルクを誘惑出来なかったと。

(……それでも、フェロモンがゼロになった訳じゃない。やっぱり僕って欠陥品なのかもしれない)

 自身の至らなさに、頭を抱えたが――――リスティアは、そう落ち込んでいる場合では無かった。











 本棚と本棚の間の、狭い通路。
 少しカビ臭く、陽も当たらない影の中で、リスティアはノエルに壁側へ押し付けられ、深いキスをされていた。


「……んっ、んぁ、ふ……」

「かわいい。はぁ、たまんな……」


 脚の間に足を入れられると、標本に打ち付けられた蝶のように、動けない。唾液を絡ませ合うようなキスは気持ち良くて、神経毒の如くリスティアの思考と力を奪う。


「少し、フェロモンが濃くなってきました。はぁっ、いい香り……」

「!?えっ、んん、んぅ?」

「あー、やば……あ、」


 とろとろにとけた頭でも、話し声が近付いてくるのに気付いた。それなのにノエルは、リスティアの腰のものに触れて、『硬くなってますね……』などと羞恥を煽るような意地悪を言う。


「だ、めっ、人が……」

「大丈夫です。防音と、幻影もかけてます。……触れられると、気付かれてしまいますが」


 それは大丈夫ではないのでは?と、そう思う前に、また口付けが降ってきて、それとともに、体に服を押し付けるように、弄られていた。
 器用な手は、シャツの上から背筋の窪みにつつつと触れて、いよいよ声が我慢できない。


「ひゃうっ……っ、ふ、……っ!」


 そうこうするうちに、真面目そうな二人組の生徒が来てしまった。ノエルは一瞬も気にすることなく、目の前の獲物に夢中だ。リスティアは懸命にフェロモンを引っ込ませ、押し込み、出ていかないように必死。

 リスティア側からしか見えないのも問題だった。ノエルが気付いているのかいないのか、はたまた気にすらしていないのかがわからない!

(気持ち、いい、けど……っ!)








『ふむ、司書によるとこの辺りの筈だけど……』

『もっと奥かな。脚立が要らないといいな』

 二人すれ違うだけの幅しかないここへ、二人組は近付いて来ていた。


「のえ、ああっ、んぅ~っ」

「私に任せて……」


 涙目で抗議しているリスティアだが、身体はふにゃふにゃに蕩けてしまっていた。腰は立たないし、感じてしまっている顔では、何の説得力もない。


『光属性と薬草の関係性……どこだろ……』

『もっと奥かもなぁ』


 その書籍は、偶然にもリスティアが探していたものと同じだった。自分も借りたかったが仕方ない。残念なような、ほっとした気持ちになった。

 なぜなら、それのある場所は本棚の半ばほどにある。
 リスティア達のいる奥まで来る必要はない。


(よかっ……、え?)


 そうだと言うのに、二人組は見逃したのか、どんどん近付いてきた!


「のえ、る、ど、どうしゅ……!んん~!」

「ん……」


 リスティアはもう気が気ではないのに、ノエルは相も変わらずリスティアの唇や、腰のあたりのピクピクする箇所を見つけて堪能している。
 いよいよ二人組の片方が、ノエルの背中に触れるか、という距離になって。

 クイッ

 ノエルがほんの少し、指を動かした。それと同時に、先ほど見つけた書籍が滑り落ち、パタンと音を立てる。


『え……』

『なんだ……?こっわ。これ探していたやつだ』

『まさかゴースト……な訳ないよな、昼だし……』


 二人組は困惑のまま、その本を拾い上げる。どんな魔力操作技術をしているのか、ノエルは離れたここから正確に抜き出したのだ。


『こんなの人間の魔術で出来……出来そうな人、一人くらいしか知らないぞ……』

『……ぼくもそう思う』


 二人組は青い顔で、リスティア達のいる奥の暗がりを見つめた後、あたふたと逃げるように去っていった。









「も……っ、のえる、あれ、絶対……っ!」

「分からせてあげたので、次からはここに近付かないでしょう、きっと」

「またする気……?」

「いいじゃないですか。リスティアもほら、こんなに興奮してます」

「~~っ」


 身体をピッタリと抱き寄せられて、互いの破裂しそうな欲望が擦れ合った。
 緊張感と、背徳感と、高揚感が混ざり合ってとんでもないことになっていた。


「…………僕は、ノエルだけに集中したかったよ……」


 ぽつり、リスティアが呟くと、ノエルは胸を抑えて崩れ落ちた。

 その日は、二人ともそれぞれ眠れぬ夜を過ごしたなんて、言うまでもなかった。











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