虚構の愛は、蕾のオメガに届かない

カシナシ

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第三章 三人の卒業、未来へ

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 リスティアたち三人の旅立つ日がやってきた。

 もう、マルセルクもフィルも、然るべきところに移動して動くことは出来ない。リスティアとしては安心だ。


 フィルは死罪になるんじゃないか、と微妙な気持ちになっていたが、ノエルが『彼は最適の場所に行きますよ』とだけは言ってくれたので安心した。

 別に心配していた訳ではない、どころか、結構嫌いだが、知り合いが死ぬのはやるせない気持ちになるという、自分勝手な理由なだけだ。

 ミカ・パーカーももう余計なお節介をやけないよう、しっかり者の婚約者に監視されているらしい。リスティアから二人の恋人を取ろうとして、婚約者からの愛を冷まさせてしまったミカは、今、どんな気持ちなのだろう。

(……幸せになっても、今度はそれを手放さないように気をつけなきゃいけないよね)

 ミカのことは反面教師として、自分を律する糧となったのだった。
 










 リスティアとノエルの渾身の力作、『大賢者様発見装置』は、とても優秀だった。

 それを起動させると、国内でも南の方、それもうんと人里離れた所にいると判明した。
 数日間観察した結果、その場所からあまり遠くには動かないらしい。
 そのためリスティアたちも装備を整えて、南に向かって旅をすることとなった。


 旅の資金として、それぞれ十分な額を貰っている。当面稼ぐ必要はないが、いつ何が起こるか分からないので節約するに越したことはなく、リスティアたちは冒険者登録をし、三人組のパーティーで、道中依頼をこなして稼ぎながら進む。
 下級、中級、上級、S級、SS級……とあるが、もちろん登録したてなので下級冒険者だ。


「まだ下級だと全然いい依頼はないですね……」

「それは仕方ないよ。大賢者様の所に着くまで数ヶ月あるんだもの、ゆっくり昇級しようね」

「それにしても全然稼げんな……」


 とある町の冒険者ギルドにて、掲示板の前で三人ウンウン唸っていると、キャーッと黄色い声がした。
 誰か有名人でもいるのか?と見渡すと……女性冒険者たちが、一斉にノエルとアルバートを取り囲む!


「すごい格好いい!一緒に依頼、しません?」

「筋肉すっごぉい……!お兄さん、ちょっと飲まない……?」

「えっ連れ……?あ、でも番じゃないってことは、ただの仲間かぁ!やった、じゃあ、お茶でもしない?三対三で!」


 うわ……すごい熱量だ。
 貴族にはない、アグレッシブさに圧倒されていると、ノエルが動く。


「警告しますが……。そのやかましい口を閉じなさい。五、四、三……」


 腕を伸ばし、彼女らに向かって精密な魔術陣が構築されていく!見事な魔力操作に、リスティアはうっかり見惚れてノエルを見上げていた。多重魔術陣が美しい。
 しかし彼女たちには見えないのだろう。一向に構わず、我先にと押し合いしている。


「二、一、……零。【黙れ】」


 ヒュンッ……。

 ギルドが静まり返る。リスティアたちの目の前にいた女性冒険者達が、一瞬にして口を閉じたのだ。目の当たりにした周囲の冒険者たちは、青い顔でノエルを見ていた。


「……ノエル、彼女達は?」

「沈黙の魔術です。私たちの前では口が開けないようになっていますから、ここから去れば元通りになりますよ」

「そっかぁ。それなら安心だね」


 果たして安心なのかどうか、周囲に大きな疑問を抱かせてはいるものの、リスティアは安堵のため息を漏らした。
 上と下の唇同士がくっついて口の聞けない女性冒険者たちは、腫れ物にでも触るように逃げ出していった。
 そのおかげでゆっくり依頼を探すことが出来た。




 下級冒険者に相応しい、コボルトの討伐を選んだ。
 外壁から出ると、そこはもういつ魔物が出てもおかしくない。
 コボルトというのは一見犬のような魔物なのだが、四足歩行をしたり、人間のように二足歩行もする大きな犬。


「確か、コボルトは肉の匂いが好きだったかな……」


 リスティアはそう呟くと、携帯香炉を出し、数種類の薬草を少しずつ混ぜて燻す。


「さ、ノエル。この香りを風で運んで」

「肉の焼けるいい匂いがします……」

「腹が減るな、これは」


 知っている香りが出るように薬草を組み合わせるのは、調合技術の初歩的なものだ。そのくらいは難なく出来るようになった。
 肉なら焼けばいいとも思えるが、そうとも限らない。作った香りの方がより濃く、長く効果を発揮する。

 ノエルが風の魔術で香りをばら撒くと、狙い通り、コボルトの方からやってきた。


「行って来る」

「行ってらっしゃい。私はリスティアの側にいます」


 アルバートが長剣を手に掛け出した。速い……!
 焼肉の匂いの発生源であるリスティアたちに近付こうとするコボルトを、バッサバッサと切り捨てていく。
 ほとんど一撃で即死して、ちらりと見えたアルバートの横顔は興奮で笑っていた。戦闘狂だ……。

 後方からも忍び寄る影。ノエルは氷の巨大な刃を正確に落として、複数のコボルトを一度に処断している。さすがの技術だ。

 リスティアは、闘う彼らの邪魔になってはいけないと、いつぞや活躍した結界魔道具を取り出して起動させる。ノエルを含んだ周囲に、淡い膜が張られた。

「これは、いいですね。私も安心して魔術に集中出来ます。……もちろん無くとも、リスティアにかすり傷ひとつさせませんが」

「わ、う、……うん。ありがとう……っ」


 恋人の男前ぶりに、戦闘中の緊張感とは違う胸の高鳴りを感じてしまった。ノエルの余裕な感じは、リスティアを安心させてくれる。

 リスティアとて戦えない訳ではない。かろうじめ素人に毛が生えた程度。オメガだからこそ習ってきた、護身術くらいなものだ。
 無属性の魔力は攻撃に向いていないため、どうしても魔道具頼りになってしまう。

(今は、二人を信じて待っていよう)


 香炉の火を消してしばらくすると、コボルトの数も減ってきて、襲撃は落ち着いた。

 辺りはかなり、凄惨な現場になっていた。ノエルがコボルトの素材を風で集めたり、アルバートも忙しなく拾って来る。


「よし、じゃあ魔物の死骸用の魔法鞄に収納するよ」

「……一体いくつ魔法鞄があるのですか?」

「え?えと……生活用、貴重品用、魔物用、薬草用、食材用と、予備魔法鞄用魔法鞄だから……」

「最後ので数が分からなくなった……」


 えへへ、と笑って誤魔化した。
 魔道具の数など気にすることではない。




 ギルドに行くと『コボルトの町でも壊滅させたんか?』と解体師たちに苦笑された。あまり素材価値の無いコボルトとは言え、数が数だったため、それなりのお金にはなったのだった。





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