【完結】転生した悪役令息は、お望み通り近付きません

カシナシ

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 清々しい朝日を浴びて、ディディアの素晴らしい一日が始まる。

 ここには人を粗大ゴミと勘違いし、職務を放棄する使用人など居ない。また、出会い頭に『ヒィッ!』などと寸劇を始める少年もいなければ、存在ごと無視を決め込む、血の繋がっただけの同居人もいない。


 清泉の守人を補助するためであろう、【猫童子ねこどうじ】を召喚すると、スタン。

 二足歩行をし、花柄エプロンを身につけた猫が軽やかに現れた。


「サクラ」

「おはようございますニャ~」

「おはよう。今日もよろしくね」


 桜の耳飾りを着けているから、何も考えずサクラと名付けたこの猫童子。ディディアの髪を櫛削くしけずり、温かいホットタオルで洗顔させ、爪の先まで丸く整えて、朝食と食後のお茶まで用意をしてくれる。

 部屋の中に設備があり、食材はディディアのスキル【貯蔵庫】にあるものを使わせている。その中には、ゲーム内で購入したり、獲得したすべてのアイテムが、手付かずの状態であったのだ。


 BLゲーム“極天”では、攻略対象と共にダンジョンへ潜り、彼を癒したりイベントをこなすことで好感度とレベルを上げられた。シルエットしか分からない裏キャラをどうしても出したくて、寝る間も惜しんで大人気おとなげなくやり込んだ。

 その大人気ない結果が、これである。


「キングトラフトサーモンのムニエルと幻の山菜三種の味噌スープ、つやつやライスにクロックバードの黄金卵のオンタマ添えですニャ」

「ありがとう、サクラ。最高だよ」

「食後は美肌のハイビスティーを用意しますニャー」


 それは実家――ファントム侯爵家でも食べられなかったような、豪華な内容になっている。

 キングトラフトサーモンは一年に一度しかこの国の近辺に出没しない大型魔魚で、漁師でも捕獲に手こずる。幻の山菜は断崖絶壁を超えた未開の地にあるもの。近付くと消えるので、高度な【気配隠蔽】が扱えなくてはならない。

 クロックバード自体は良く存在する魔物だが、高レベルスキル保持者が飼い慣らすことによって生み出す黄金卵は、度々王に献上されるほどレアなもの。

 味付けもディディア好みであり、言うことは何もない。

 優雅に食べ終わり食後のひと時を楽しむなんてのは、寮暮らしの特権だ。軽くストレッチや柔軟、筋トレをこなし、うっすらとかいた汗はシャワーで流す。


(なんて充実しているんだ。やっぱり家を出て正解だった)


 ファントム侯爵家では、周りを気にしてスキルを使えなかったところ。特に親にスキルがバレると、間違いなく面倒なことになる。これまで無視してくれたのだから、これからも放っておいて欲しい。

 一通りルーティンを終えたディディアは、ほどほどの時間帯に登校する。


 あまり早すぎても、遅すぎてもいけない。レイヴンがディディアを監視していることを知っているので、存分に眺めさせ、冤罪をかけられないように気を配っているのだ。


(これまでは監視するまでもなくディディアの方が突っかかっていたからね……)


 ディディアの方は不快な虫を視界に入れることなく、労せず証人ゲット。と、そう思っていたのだ。






 バタンッ!カッ、カッ、カッ……




 荒々しい革靴の音が近付いてきたと思えば、ディディアの体が椅子から引きずり上げられる。パシンという破裂音と共に、横っ面に衝撃を受けた。


「お前と言う奴は!一体どんな手を使った!?そこまでしてラシェルが憎いのか!?」


 レイヴンが、ディディアの胸ぐらを掴み張り手を食らわせたらしい。

 殴打のダメージで視界がぐらつく。口の中が気持ち悪くなりプッ、と唾を吐くと、血と共に歯が抜けた。



(あーあ……)



 レイヴンはそれを見てギョッとしている。流石に歯まで折る気は無かったらしい。

 ディディアが冷め切った目で見れば、徐々に力が抜けていった。胸ぐらを掴んでいた手を外させれば、動揺しているのかすぐに解放された。


「…………だ、大体お前が悪いんだ、あれほどのことをするなど……」

「これはなんの騒ぎかな?レイヴン」


 聞こえてきた声に、レイヴンはいよいよピシリと固まった。


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