【完結】転生した悪役令息は、お望み通り近付きません

カシナシ

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 ディディアは温泉のある拠点が欲しくて作ったというだけなのに、アレクサンダーが『神も喜ぶ聖泉を召喚し、未開の雪山を一瞬で宝山へと変えた』などと新聞に書かせたものだから、ディディアはまるで神か神の遣いかのような扱いを受けることとなった。


「“神級スキル保持者は一代侯爵位”……っ?そんなの、聞いたことがありませんけど?」

「それは、ふふ、勉強不足だよ。まぁ、ものすごーく小さい字で書いてあるのだけど、そもそも神級スキルというものがそうそう無いから、仕方ないねえ」

「確信犯じゃありませんか」


 侯爵令息でありながら、自身にも侯爵位の与えられたディディア。と同時に【清泉の守人】というスキルを保持していることを公表することとなり、遠巻きにされる距離は、ドーナツ一つ分更に広がった。


(そりゃあみんな、気まずくて近付けないよね。ウンウン。スキル無しが感染するんじゃないかって恐れてたものね。うつるわけないのに)


 これまで蔑んでいた相手だ。誰もが恥入って声をかけられない。それも、アレクサンダー王太子が側で甲斐甲斐しく世話を焼いている真っ最中となれば、他の意味でも邪魔は出来なかった。

 レイヴンは休んでいるため、学園は非常に平和に包まれていた。ラシェルは何食わぬ顔をして登校しているものの、以前より肩身が狭いのか、レイヴンという盾が居ないからか、大人しくしているように見えた。


 ディディアはまだ、決めかねている。アレクサンダーの求婚の本気度は上がっており、ディディアもまた、アレクサンダーの唯一でありたいと願うようになっていた。

 しかし、それを言うにはまだ、怖い。アレクサンダーの『側近』なら迷うことなく頷けるのに、『婚約者』は、勝手が違う。


(王太子の隣なら、大きな後ろ盾が必要なはず。彼に見合う男になりたい……。侯爵位を貰っても、人脈も資産もまだまだ足りない)


 悩んでいるディディアに気付いていても、アレクサンダーは止まらない。


「ディア。さぁ、今日は私がお手製のランチを作ってきたんだ。私をクッションにして食べれば、きっと最高のランチになるはずだよ」

「ランチボックスは有難いですが、王太子クッションは遠慮させていただきます。不敬すぎます」

「いいのに……むしろ幸せなのに……」

「わ、美味しそうですね」


 ぶつぶつと下敷きにされたがるアレクサンダーは無視をして、ランチボックスを開けてみる。

 アレクサンダーは手先が器用なのだろう、美しく彩られたサンドウィッチには瑞々しいレタスや濃厚な卵など、豊富な種類の食材が詰められていた。
 間違いなく、材料から最高級。そして忙しいアレクサンダーの貴重な時間がかけられているのだ。

 この世界で最も価値の高いランチボックスに間違いない。


「んん……美味しいでふ……」

「いいんだよたくさんお食べ。そうして私の作ったものがディアを作るんだね。最高に興奮する」

「アレク様も、食べましょう?」


 時折変態発言をするアレクサンダーのあしらい方も、わかってきた。
 サンドウィッチをアレクサンダーの口元へ運び、食べさせてやった。するとアレクサンダーは本当に幸せそうな顔をして、噛み締めるように咀嚼している。それを見ていると、ディディアまで嬉しくなった。


「幸せだねぇ……。あ、ディア、付いているよ」


 アレクサンダーはディディアに顔を近付ける。小首を傾げるディディアの、口端についた小さな小さなパンくずを、唇を落として拾ったらしい。


「なっ……!なにを、アレク様!」


 サッと距離を取った。二人きりという訳でもない、学園のベンチ。そんなことをすれば、側近以上ということがバレてしまうのに(バレてる)。

 真っ赤に染まったディディアと、ニコニコするアレクサンダーを、一部の令嬢たちがきゃあきゃあと目を輝かせながら騒いでいた。












「ディディア様っ!」


 休憩時間。

 皆が尻込みする中、元気よく声をかけてきたのは侯爵令嬢だ。少々ふくよかな彼女はある意味でとても有名人であった。


「【清泉の守人】って、どのようなスキルなんですの?わたくし、あの凍りついた大地に保養所が生まれたと聞いて、居ても立ってもいられませんのっ!」

「それは光栄です。まだ手入れし切れていないのですが、いつか旅行にいらしてくださいね。温かい湯にゆったりと浸かり、美味しい食事に癒されたいのなら、大歓迎です」

「まぁ……!わたくし美食家ですけど、随分自信があるようですわね?」

「ええ、きっと満足なされると思いますよ。僕のスキルで作り出した温泉は、格別ですから」


 教室に居る皆が耳をそばだてているのを知りつつ、侯爵令嬢に販売促進をする。

 ディディアのスキルがいかに有用で、雪山の発展に寄与しているか。
 侯爵令嬢はかなりの美食家かつ旅行家で、珍しい美味しいものがあると聞けばすぐに向かうらしい。

 よほど期待してくれているのだろう。ウンウンと、良い聞き手に回ってくれていた所だった。


「ディディア様……ひどいじゃないですか。従兄弟いとこでもあるボクには、そんなスキルがあること、教えてくれなかったのに……」

「はぁ」

「それに……そんな優秀なスキルが、いつの間にか使えるようになる……?信じられません。何か魔道具でも使っているのでしょう?本当のことを言って下さい、ディディア様」


 ラシェルはか細い声を出しながらも、視線だけは強くディディアを睨みつけていた。まるで世界共通の敵を憎悪するかのような目。


「はて、僕はそのような魔道具は存じ上げません。僕の体を隅々まで探して、魔道具がないかどうか確認したいのですか?」


 ディディアは何気なくそう言い両手を上げると、教室の中の何人かがサッと顔を赤くした。
 なにを想像したのだろう。一目見ただけで、ディディアの体にそのような大仰な魔道具が取り付けられていないことは明らかであるのに。


「……それと、もう一つ忘れていますね。僕のスキルを確認し公表したのは、アレクサンダー王太子殿下です。僕のスキルが偽物だと言うなら、殿下のお言葉も疑うことになるのですが……」

「そ、それは……ディディア様が何かしたんでしょう!誘惑とか、魅了とか……!」

「おやめなさい、ポルカ子爵令息。見苦しいですわ」


 埒の明かない会話に、侯爵令嬢がため息を漏らす。彼女の頭の中はもう既に、雪山の中の旅館にあった。その素晴らしい光景を思い描く中で、ラシェルの言葉はノイズに他ならなかった。


(うん……分かる。僕からもっと情報を引き出したいのに、邪魔だよね)


「ひんっ……ぐすっ……だって……だって……」

「人のことより、ご自身の婚約者の心配をしたらどうです。【治癒】使いなら、婚約者が怪我をしたのですから毎日通い詰めるものかと思いましたが……?」

「……っ!うるさいっ!言われなくたって!」


 ラシェルはついに可憐の仮面を脱いでしまった。無様に泣きながら、ダン!ダン!と音を立てて帰っていく。

 その姿はどう見ても貴族令息の姿ではなく、皆が顔を見合わせて肩を竦めたのだった。


(みんなも気付いてる。ラシェルの【治癒】レベルが高ければ、とっくにレイヴンは復帰している所。そうでないのだから、彼のスキルレベルはたかが知れているよね……)


 絆創膏代わりにしかならない【治癒】。それでもラシェルを選んだのだから、レイヴンには良い薬になっただろう。









 
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