【完結】転生した悪役令息は、お望み通り近付きません

カシナシ

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 そのうちに学園は卒業パーティーだけを残して、長期休暇へと入った。

 ディディアは『資産を増やしたい』という名目で、雪山の開拓に集中することにした。
 もし仮にだが、王室入りをするとしたら、資金源はあればあるほど良い。


(もし、のことを考えてだから。うん)


 雪山の拠点から少し南下した場所に、二つ目の拠点を作った。自分が住む訳ではないため、カントリー風の小屋をいくつか建てて────これも【拠点】スキルだ────、小さめの温泉も湧き出させたのだ。

 これらは、魔物目当てにやってくる傭兵に無償提供するものだ。こういうちょうど良い休憩所(秘湯付き)があれば、彼らは危険で有名な雪山でも喜んで飛び込んでくる。

 そこから、傭兵への売買を目的とした商人や民が移住してくれば、やがて人は増える。そして人が増えれば、今はまだ眠るミスリル鉱脈を掘る人間も確保できるというもの。

 雪山の気候は、ディディアが来てから随分とゆるやかになった。新たな温泉に早速浸かる野猿を見て、ほっこりする。
 山の裏側は温泉も設置していないためまだまだ厳しい雪山なのだが、あえてそのまま残しておく予定だ。


「サクラー、ちょっと魔物が多いから間引いてくれるかなー?」

「はいですニャー」

「その後は旅館作りね、あと温泉饅頭も作って」

「猫使い荒いですニャ」

「えへへ、いつもありがとうね?」


 細々と【猫童孫】や【猫童子】サクラに指示をするディディアの横で、自称最上級エリート魔術士ランセムが唸っていた。


「うわぁ、えげつない……猫チャンがホワイトウルフ倒してる…………下剋上なの?」

「どうしました?」

「ううん、なんか……同情しただけです。雪山系魔物が絶滅しそうで」

「ふふ、そんな心配は要りませんよ。ちゃんと裏山部分は残してあるので」

「養殖ですか!?馬鹿過ぎて天才なんですか!?」


 そんなことを言われたので、ディディアはその口の悪さにカチンときてしまう。


「むむ。それ、褒めてます?」

「半々ですね……あはは」


 ランセムもまた、レイヴンと同じ【空間魔術】のスキルを持っている。
 彼は側近になるよりも、魔術士として生きることを選んだ。純粋に魔術の稀有な才能を磨き続けてきた、三十代のいい大人である。

 ディディアがランセムに雪玉を投げれば、ランセムはニカッ!と笑い、ゴリゴリに固めた痛めの雪玉をぶつけてきた。

 イラッとしたディディアは雪玉(猫童孫入り)を投げつけ、ランセムに飛び掛からせる。するとランセムは猫パンチを軽々と避け、辺り一帯の雪を空間ごと切り取り、圧縮し、岩玉のような雪玉を作ってディディアへ放った。


「ひゃあ!」

「あははは!」

「この!」


 魔術の巧みさを、見せつけられている。

 そうむむっとしたディディアは、魔力の豊富さを活かし、さらに大きな水を作り出して氷へと変化させた。一軒家ほどになった立派な氷玉をランセムへぶち当てると、ランセムは光輝きながら地底へ埋もれていった。


「……はっ。ねぇ!大丈夫、ランセム?え、大丈夫だよねっ?」


 慌てて掘り起こそうとした穴の中から、這い上がってきたランセムは、無傷でも薄汚れていた。


「……………………分かりました。はい。ディディア様。ぼくじゃなければ死んでますからね。気をつけてくださいよ、ほんと勘弁してください。あと、この下ミスリル見つけちゃいました」

「えええっ!?すごい、ランセム!あと数年はかかると思ったのに」

「いや、あの、ぼくというかディディア様のせいですからね?ぼくは落ちただけですからっ!」


 穴の奥には、虹色に光る鉱石がちらりと見えていた。








 遊んで程よく疲れた後は、拠点でゆったりと休む。

 アレクサンダーの同意も得て、ランセムもまた、この拠点への入場を許可された人間である。それからアレクサンダーの従者ガイルも。

 彼らはそれぞれに客室があてられて、猫童孫ににゃあにゃあお世話をされるのがとても嬉しいらしい。アレクサンダーも自由にしていていいとしていたが、ただ、温泉だけはディディアやアレクサンダーの入浴時間とはズラすように厳命していた。


「今日も充実していたようだね。ディア」

「はい!ミスリルの坑道を整備しました。それに、雪合戦も」

「そうか。雪玉を握るディアはそれは可愛いんだろうなぁ。見たかった」

「そうでしょうか。あまり握ってはいませんが」


 温泉に自然と入ってきたアレクサンダーは、ディディアの隣へぴったりとくっ付く。
 この拠点へランセムに【転移】で連れられた瞬間、アレクサンダーは元の姿を解放しているため、ディディアの二人分ほどもある分厚い体が腰を抱いてくるのだ。


「あの……アレク様。近いです……」

「そうかな?まだまだ、私は君が遠いと感じているのだけど?」

「んっ……」


 ちゃぷ。裸と裸の間には、熱い湯しかない。口付けは軽く、ディディアの唇を喰んで、離れて、また喰んで。


「はぁ……気持ちいいね……ディア……」

「はい……」




「ちょっと、その辺にしてくれる?教育に悪いから」

「!!」


 うっとりと余韻に浸っていたのに、ディディアは驚いて目が覚めた。予期せぬ子供の声に、アレクサンダーもディディアを抱きしめて警戒する。


「ああ、キミがここの創造主かぁ。ありがとうね、作ってくれて!はぁ、極楽ごくらくぅ」


 同じ温泉に勝手に浸かっていたのは、美少年だった。サラサラの金髪が天使のような、どこか人外を思わせる美少年ぶりに、本能が警告する。

 この少年は、神様だ。

 何故か美少年の周りには、黄色のひよこが無数にピヨピヨと浮いている。とても小さいひよこたちの群れは、気持ち良さそうにゆらゆら、波に揺れて楽しんでいた。


「あっ……ようこそ、いらっしゃいました。神様……ですね?」

「うん。そうだよ。シロウに聞いて来たんだ。いや、最高だね。もっと早く脅せば良かった」

「なんですって?」

「んーん、何でもない!そうだ、ヒナのことはヒナと呼ぶといい。それからそこのツガイくん。ここは神聖な湯を楽しむ場所なんだから、サカるなよ?」

「ぐ……」


 神に釘を刺されてしまったアレクサンダーは、謎の力でガチリ、固められてしまった。それを見てディディアは焦る。盛ってしまったのは自分だってそうなのだから。


「ひ、ヒナ様!今後気をつけます。その……この人を元に戻していただけませんか?大切な人なんです。どうか」

「……キミがそういうなら仕方ない。いいよ!」


 ヒナはあっさりと解除してくれた。ほっとした途端、自分の発言に気付いたディディア。


(あ。僕……、アレク様のこと、大切な人って……)


 真っ赤になってアレクサンダーを見れない。湯に潜ってぶくぶくさせていると、ヒナは面白がって真似し出した。ひよこ群もだ。まったく誰のせいなのかと憤りたくなる。


「ありがとう、ディア。私もディアがこの世で最も大切だ。盛るなと言ってもこれくらいなら許されるでしょう?」


 話せるようになったアレクサンダーはディディアはひょいと持ち上げ、自らの膝の上へ乗せ、後ろから抱きしめてきたのだ。

 逞しい太ももに、背中へ当たる雄っぱい。そして白い濁り湯では見えないが、当然のように硬い熱棒がディディアの尻に添えられている。

(あ、当たってる……!当たってますけど!?)


「全く人間は……まぁここでおっぱじめないならいいか。子供たちにはまだ早いし、ヒナはゆっくりしたいんだ。さあキミ、アイスとやらを出すといい」

「それもシロウ様に聞いたのですね……さ、サクラ!」


 やはり神様はもてなされたいらしい。

 もてなすのは主に猫童子のサクラだが、ヒナはディディアに構われたがった。

 美しい少年姿のヒナを眺めるのは、罪悪感にさいなまれる。そのため視線をどこかにやろうとするのに、ヒナは『ヒナを見ろ』と人差し指を振って、ディディアの視線を固定させるのだ。

 神様は横暴である。


 温泉に満足すると、神様が来た時のために新しく増築した、【神様用客室】へと案内をした。
 入浴中に用意させたぴったりと合う着流しに、ヒナは喜んでくれた。喜んでくれたのはいいが、『この子たち用の何かもたくさん用意しろ』と言う。ヒナの後ろをピヨピヨと付いてくる無数のひよこの分らしい。

 そのため、裁縫をする猫童孫に命じて、小さな風呂敷を多数作らせた。頭を包むように結べばほっかむりになるし、湯船から上がる時に体も拭ける。

 ただ、ひよこの数が多すぎる。全員分作るのには数ヶ月必要そうだ。


「これはいいね、うん!可愛い。やるじゃん。次来る時までにたくさん作っといてね」

「光栄です……ヒナ様……」

「ご飯も美味しいって聞いてね、楽しみにしてきたんだ。あ、でもヒナはあまり食べられないからさ」


 ヒナは異常なほど少食で、すべての食事はスプーンひと匙ずつを要求してきた。そのためサクラたちは随分苦心してひと匙に様々な食材を詰め込み、ミニチュアのように綺麗なひと匙を作り上げていた。

 さすが猫童子である。ディディアには無理だ。途中で気が狂ってしまう。

 そんな手間のかかるヒナの接待だったが、帰り際にはぽふん、と大きめなひよこの姿になったので納得した。

 だから子供姿で、ちょっと我儘で、心配になる程少食だったのかと。


「うむ、満足だった。これをやる」

「わっ……」


 そう言うなり、美しい夕焼け色に輝く羽根を一本、残して、仲間と共に飛び立っていったのだった。

(ひよこがいっぱい飛んでる……)

 違和感満載な光景にぼうっとしていると、その美しい羽根を、アレクサンダーが鑑定する。


「これは……私の目が正しければ、不死鳥の羽根、だね……」

「アレク様の目が正しくないなんてこと、ありませんよね……」


 一夜の接待で城をひとつ買えてしまう。
 神様たちは宿泊ごとにそれを置いていくので、ディディアは人知れず資産持ちになっていくのだった。




 そうして神遊山しんゆうざんの環境を整えて王都へ帰ると、迷惑なことが待っていた。


 レイヴンが、謝罪をしたいと茶会へ招待してきていた。














 
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