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21 茶会は(1)
レイヴンが、謝罪をしたいと茶会へ招待してきていた。
それもレイヴンの父親である、オランジュ公爵当主とともに。
きっとただの謝罪ではない。面倒に感じたディディアだが、応じなければ結局余計ややこしくなるだろう。
そう考えて、渋々、出席を決めた。
(早く終わるといいな……)
盛大な茶会が催されていた。
その中にはファントム侯爵の父や母、兄も、そしてド派手に着飾ったラシェルもいた。
しかしディディアの隣にはアレクサンダーがいる。『どれだけ盛大な土下座なのか、十点満点で評価してあげようね』などと笑うアレクサンダーとならば、どんな奴がいたとしても面白おかしく楽しめると思えた。
(……と、思える人って、どれだけ出会えるのだろう?)
エスコートしてくれる腕は、スラリとしている。物足りない。
物足りないが、ディディアの前でだけ『物足りるように』してくれるアレクサンダーは、不満そうなディディアを見てクスリと笑っていた。
その微笑みに、鼓動が速くなる。心地良い緊張感に、身を任せていた。
華やかなオランジュ公爵家の庭園は、燦々と降り注ぐ陽気に恵まれていた。ガーデンティーパーティーらしい。蝶々が卓の間を飛び遊び、色とりどりの花弁がひらひらと舞い落ちる…………幻想を、魔術士たちに演出させている。
それだけで金貨五十枚(五百万円ほどだろうか)ほどばら撒くような、ふんだんに豪勢な趣向を施した茶会だ。
段々と高く積み上げられたケーキの高さに、芳しい、本物の花で出来た像。使用人ですら肩に小鳥を止まらせて、『おや精霊のお導きが』なんて、劇団員のように演じらせている。
アレクサンダーとディディアの組を中心に、ティーテーブルがいくつか配置されていた。ディディアはアレクサンダーの隣であり、ランセムとガイルに背後を守られている。
歓談で姦しい茶会の雰囲気に合わせて、アレクサンダーや周囲の貴族たちと話していれば、不意に喧騒が止まった。
「ディディア」
怪我から完全に復帰したレイヴンが、大量の花束を抱えて登場した。
儚げな白と水色のフラワーは、涙を誘うように可憐に揺れる。しかし量は貰い手のことを配慮していない、重量級だ。
「どうして俺は、気付かなかったのだろう。俺の真実の愛は、君だった」
レイヴンは美形だ。花と美形は相性がいい。それに透き通るアクアマリンの瞳に、かつてどれだけ見つめられたかったことか。
しかしふわふわと揺れる金髪は、その頭の内容物の軽さを表しているようにしか見えなかった。
「スキル、容姿、能力。そんなのは関係ない。ラシェルなどと言う紛い物に、俺は騙されてしまったんだ」
ディディアは無い顎を二重顎にするほど、ドン引きしていた。
(関係ない?僕をスキル無しだって蔑んでいたくせに?)
目の前で繰り広げられる、めくるめくレイヴン劇場は止まらない。観客を置いてけぼりにして。
「許して欲しい。俺は……俺は、君が真珠のように無欠な輝きを人知れず持っていたのに、悪魔の囁きによって幻想の霧の中を彷徨っていて、気付けなかった。ディディア、君はいつも彗星のような眩しさで俺を見つめていてくれたのに」
「頭の具合は大丈夫ですか?」
つい、ディディアは口に出してしまった。言っている意味が全く分からない。同じ言語を使っているのに、不思議なほど入ってこない。
やはり怪我は完治していないのだろう。アレクサンダーに殴られた時に、頭のネジが飛んでいってそのままなのかもしれない。
「れ、レイヴン、さま…………っ!?なにを、していらっしゃるのです……?!」
ガシャン、と音を立ててラシェルが駆け寄ってくる。レイヴンは恍惚とした表情を消して一気に冷たい顔へ変化し、ラシェルの頭をがしっと鷲掴みにした。
「ラシェル。君の所業はファントム侯爵から聞いた。居候の身で、派手に立ち回ってディディアを陥れ、豪遊し、それにもう既に男を何人も咥え込んでいると」
「そんなっ……あり得ませんっ!ディディア様の罠です、ボクを信じてくださいレイヴン様っ!」
「ラシェル。儂は失望したよ。実に優秀な侍従殿の協力によって、全てを記録されている」
そこでファントム侯爵がコクリ、頷いて合図を出す。すると何故かガイルがススス、と進み出たのだ。
(え?ガイルさん?)
両手に抱えるほど大きな四角い何かを持って、中央へと置いた。
するとそこから放射された映像が、空へ浮かび上がる。
『あんっ♡きもちいっ♡きもちいっ♡ボク、すごいっ?』
それは男の上で腰を降りまくるラシェルの姿だった。撮影者がすごいのか、ギリギリ肝心な部分は壺に隠れている。
『さすがです、ラシェル、さまっ、結婚しても、可愛がってくださいねっ』
『うんっ!もちろんっ!でも、ボクはレイヴンさま、優先、だからぁっ♡あんっ♡』
「いやぁぁぁ辞めて!消えて!ぼ、ボクじゃないっ!こ、こんなの認めないっ!!」
ラシェルが顔を真っ赤にして、その魔道具を壊そうとするも、騎士によって羽交締めされていた。
わぁわぁと騒ぐ間にも場面は切り替わり、ディディアの母アイリーンとラシェルが、ジャラジャラと連なった宝石を選んでいる。
『アイリーンちゃんっ、ボクこれ、とっても素敵だと思う!ボクにも、アイリーンちゃんにも似合うよっ?』
『そうねぇこれを頂くわ。ディディアが我儘を言うから、予算を超えても仕方ないわよね?』
『そうですよ、仕方ありませんっ!あの方はたくさんの首飾りを持っているのに、腕輪も欲しくて癇癪を起こすんですぅ』
そうニヤニヤしながら笑うラシェルは、高価なオーロラダイヤモンドをビッシリとあしらったブレスレットをうっとりと撫でていた。その隣で、同じ意匠のペンダントを試着しているのがアイリーンだ。
(僕が強請ったように見せかけて、購入していたんだ。なるほど、よく分かる映像だ……ん?)
そのアイリーンの後ろから美形侍従がやって来て、その鎖骨へねっとりと手を沿わせた。
『とてもよくお似合いです』と言う彼の手を、アイリーンは自ら胸元へ引き込む。
『やぁんっ……大きな手ね……このままベッドに連れて行ってちょうだい…………ペンダントは付けたままね、他は好きにしていいわぁ……』
『ええ、お美しいアイリーン様、光栄です……』
ディディアはファントム侯爵を見た。
彼は、青ざめて震えるアイリーンを、嫌悪感と、歯茎まで剥き出して睨みつけていた。
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