【完結】転生した悪役令息は、お望み通り近付きません

カシナシ

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22 茶会は(2)



「ちっ……違うの!あなた!そ、そういう設定のなのよ!実際にはなにもやましいことなんて、」

「この映像の後はここでは流さないが、儂は見た。刺激が強すぎるからな。アイリーン、君とは離縁をする。それからこれまで使い込んだディディアの予算は、ラシェルと半分ずつ返却するように」

「なっ…………」


 アイリーンは言葉を失っていた。

 これまでディディアの予算をどれだけ使ったのか、わからない。五歳の頃、部屋を遠ざけてからずっとだ。持っている宝飾品を全て売らなければならないかもしれない。

 しかし続けて、ファントム侯爵は言った。


「……だが、君は子供を二人産んでくれたし、若い頃は儂を楽しませてくれた。それに感謝をして、宝飾品を売り払っても足りない分は目を瞑ろう。実家に帰ればいい」

「……そんな……っ!そもそも、離縁なんて!」

「だが、ラシェル。お前はダメだ。お前は儂の善意を踏みにじった。保護者であるポルカ子爵家に請求する。爵位を売っても足りないだろうから、お前を売るしかないだろうな」

「……ひ、ひどいですおじさまっ!ボク、ボクは何も悪くありませんっ!すべてディディア様の策略なんですっ!」


 そんな喚き声を聞きながら、ディディアは呆れていた。最早、ラシェルは『全てディディアのせい』というのが口癖になっているようだ。ディディアは罪を無効にする、免罪符でも無敵カードでもなんでもない。

 取り押さえられているラシェルの元へ、レイヴンが近付く。


「全て侯爵から聞いた。騙されたよ、お前の涙に。ディディアに贈っていたプレゼントも、全てお前が横取りしていたなんて知らなかった。どうりでお礼状が届かない訳だ」

「そ、それはアイリーン様が、くれたんですっ!ディディア様には似合わないからって!」

「何を言うの!?お前が欲しがったんじゃないの、下品で強欲な顔つきをして!」


 アイリーンとラシェルは互いに罪をなすりつけ始めたが、あまりに似た者同士すぎて笑えてきた。本当に親子ではないのか、血のつながりがないのが逆に不思議に思えるほど。


「……どちらにせよ、お前のコレクションに加えられていたことは事実。それはディディアへ全て渡すから、使い込んだ分の補填には回させない」


 そうレイヴンは言って、何故かディディアをちらりと見てウインクをした。

(げっ)

 ゾワッとしたディディアは、腕をさすった。その上から、アレクサンダーがそっと手を重ねる。
 アレクサンダーの甘く低い声が外耳から入り込むことで、薬のように鳥肌を治していった。


「ディアに似合わない物などこの世にあるはずがないからね。レイヴンからの贈り物は売却して、その金でまた雪山近辺の土地を買ったらいいんじゃないか?その間に、私は君にぴったりのアクセサリーを選んでこよう」

「素敵な提案をありがとうございます。それは最高ですね」


 こそこそと囁き合う。レイヴンから貰った金で、オランジュ公爵家の持つ土地を買う。非常にいやらしくて実用的な使い道だ。ディディアは大変気に入った。


「ラシェルとの婚約は、ファントム侯爵家へ養子に入ることが前提条件となっている。それが破綻したため、この婚約は白紙とする!…………ディディア」


 レイヴンがディディアの元へ来ようとする。それは、意外な人物が阻止をした。


(……なるほど)


 きっと、これがこの茶会のメインイベントだったのだろう。


「レイヴン。お前は絶望的に人を見る目が無く、かつ思い込みが激しすぎる上、無駄に行動力がある。廃嫡とし、卒業後は海軍に従事しろ」

「父上!?」


 オランジュ公爵が、レイヴンの頭を押さえつけ、ディディアに向かって自身も頭を下げた。


「申し訳なかった、ディディア殿。この愚息が貴方を信じず、ひどく痛めつけてしまった。海軍に入ればもう視界からは消える。これで溜飲を下げて貰えるか」


 そこに、トコトコとやってきた少年が、公爵の隣でキキッと止まり、同じように頭を下げた。
 可愛らしい、レイヴンの弟である。まだディディアたちの腰にも満たない小さな体が、くの字に折り曲がって。


 もうこんなに大きくなったのかと感慨深く思いながら、こんな手を使われては言えることは限られていた。


「…………はい。十分なご配慮を頂き、ありがとうございます」


 ここが、ちょうど落とし所だろう。

 人目の多いこの茶会でラシェルやアイリーンの罪を明らかにし、レイヴンの始末を付けてくれた。これで彼らは社会的に抹殺され、ディディアにまつわる悪い噂は無くなるだろう。


 実際のところオランジュ公爵は、レイヴンがラシェルに鞍替えしても黙認していた。しかしディディアが有用スキルを持ち爵位を得たと分かった途端の、手のひら返し。ディディアも分かっている。これは茶番だと。

 オランジュ公爵家は、“誠実である”と印象付けたいのだ。

 ディディアから見ても、彼らに出来ることはしてくれた。あとはトカゲレイヴンの尻尾切りさえちゃんとしてくれれば良い。



 ディディアは美しく微笑んだ。

 茶会の列席者は皆、女神のようなその微笑みに見惚れたのだった。





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