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「ディディア……」
「っ!?」
ゆらりと現れたのは、レイヴンだった。
従軍するまで間がないためか剃髪し、影と同化するような地味なスーツだ。華やかさは一切ない。
ディディアを見て瞳を潤ませている。ラシェルとは引き離されたというのに、あの従兄弟の手法に似てきたようだと皮肉に感じた。
「…………僕をどうする気ですか。オランジュ公爵令息」
身体がカチコチに固まり、動かなくなっていた。レイヴンの【空間魔術】スキルで、何をしたのか。
ディディアの背中に、冷や汗が垂れた。
(最悪だ。全く、動けない)
「君がこの化粧室に入るのを見越して、あらかじめ部屋にスキルを使っていたんだ。今この化粧室は、完全に俺の支配下にある。どんなスキルも使えない」
「そんな、スキルの使い方は卑怯です」
レイヴンは卒業パーティーにも来ていないと思って油断した。容色が地味になり、あまりに存在感が薄くなったので見逃していたのかもしれない。
「君だってズルいじゃないか。スキルがあるのに、隠していたなんて。早く打ち明けてくれていたら、きっと俺は愛せていた」
「……信頼関係もないのに、打ち明けろと?随分と都合が良いですね」
レイヴンは動けないディディアに近付く。鏡を確認している格好のままだ。
背中の無防備なところから手が侵入し、ディディアの肌を試す様に、無遠慮に這い回る。暴れたくても体は動かず、嫌悪感でぶるりと震えた。
「僕に触るな。辞めてくれ。気持ちが悪い!もう僕は貴方なんか好きじゃないんだから!」
「はは、おかしなことを。あれだけ俺を欲していたのだから、嬉しいだろう?」
「死ね、下郎!階段を落ちる僕を助けなかったくせに!ラシェルの嘘に騙されて、僕を信じなかったくせに!このクソ……ッ」
悪態を吐くディディアに、レイヴンは余裕で布を噛ませて塞ぐ。苦い。くるしい。うぅうぅと唸るディディアに構わず、腰紐をするりと解き、下衣の中へ指が入ってくる。
「…………っ!」
「ああ、さすがディディア。こんなところまで綺麗なんて。ふ、ふ、俺のために……」
「ぅぐぐ!」
(違う!)
アレクサンダーにもまだ触れられていない、神秘な場所。
いつ触れられるかどうか分からなくて、いつもそこはかとなく淡く期待しながら綺麗にしているそこは、決してレイヴンに触れられるためではないのだ。
双丘をねっとりと撫で回され、胸も弄られ、それを鏡越しに見つめるしか出来ない自分が腹立たしい。
レイヴンはディディアの耳を喰み、舌をくちゅくちゅと差し入れながら、はぁはぁと息を荒げている。
「君の中は、どんな感じか。殿下はまだ知らないんだろう?王族との婚姻は、処女じゃなければ成立できないからな。男でも女でも」
「……っ」
それは事実だ。だからこそ、アレクサンダーもディディアも触れ合いだけで我慢をしているのだから。
「言ってもいいぞ、襲われたと。だが、どちらにせよ殿下と婚姻はできないんだ。それなら黙って身を引いた方が、殿下を傷付けなくていいんじゃないか?俺が責任を持って、君を幸せにしてやる」
レイヴンは、ディディアを襲っても沈黙を選ぶと確信しているようだった。責任を持って、とは。
悪い想像が働く。レイヴンは既成事実を作り、ディディアの持つ一代侯爵位に便乗しようとしているのではないだろうか。
指はいよいよ大胆に後孔を探り当て、くるりと撫でる。
レイヴンの硬くなったあれが、服越しに尻たぶに当たっていた。
「はぁ、もっと早くこうしておけばよかった。この肌はなめらかで気持ちがいい。ここもきっと……極上だ」
「……っ、!~~っ」
「俺を見ろ。以前のように、熱っぽく見ろよ」
頬をべろりと舐められて、鳥肌が立つ。レイヴンは鏡越しにディディアの顎を上げさせたが、意味不明な要求に答える訳もなく、思い切り睨みつけてやる。
「……チッ。反抗的なら、思い知らせるしかないな」
舌打ちをしたレイヴンは、ディディアの上半身を化粧台に引き倒すと、ぐいと腰を上げさせた。カチャカチャと音がして、レイヴンが自身のベルトを寛げているのだろう。
(……動けるようになったら、お前諸共死んでやる!)
潤む瞳を、ぎゅっと瞑った。
少しのお触りくらい、許せばよかった。でなければ、一緒にいれたのに。
「死ね」
その声は、ディディアの心の声ではなかった。
ディディアの背後にいたレイヴンは、轟音を立てて殴り飛ばされていた。
身体からフッと力が抜ける。レイヴンのスキルが解けたのだ。
アレクサンダーに、抱き止められていた。
(アレク様の、【無効化】だ……)
見たこともないほど激怒するアレクサンダーは、片手で優しくディディアを抱っこしながら、もう一方の片腕で大剣を持ち、レイヴンをザクザクと切り刻んでいた。
僅かな抵抗しか出来ないレイヴンが、情けない声を上げている。
「ヒギィ……ッ、ぐっ、アッ、」
(まるでまな板の上の鯉…………力量差が、ありすぎる)
萎えた足をなんとか立たせる。
ディディアを立たせたのは、怒りだ。
「ディア?いいんだよ、コレは私が……」
「いいえ、僕が。気が収まりません」
【貯蔵庫】の中から取り出した“錆びたナイフ”は、切れ味の恐ろしく悪い、初期装備である。他に素晴らしい刀を多数持っているため肥やしになっていたが、今こそ使い所だった。
「クズの極みめ。下郎に繁殖の権利はない」
「やっ、辞め……っ!ぎぃいいいい!!!」
錆びた、キレの悪い一太刀。
それを急所に、何度も叩き込む。
レイヴンは悲鳴を上げて気絶した。
怒りが身体を突き抜けて、ディディアは今度こそへたり込んだ。
「はぁ、はぁ……」
悔しい。
空間魔術を甘く見ていた自分が。
アレクサンダーの【無効化】が無ければ、勝手にやられていた。
ぐぐ、と唇を噛むディディアを、アレクサンダーは優しい声で宥める。
「ディア、あとは私に任せて。簡単に死なせはしない。治癒と破壊を繰り返してやるからね」
「……それなら、……はい……」
ディディアを抱きしめる身体は、ゴツゴツした逞しい、本来のアレクサンダーの身体だ。
優しい雄っぱいに抱かれたディディアは安心しきって――――意識を失った。
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