【完結】転生した悪役令息は、お望み通り近付きません

カシナシ

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 学園を卒業したディディアは、次期王太子妃教育を超スピードでこなしながら、社交をし、無かった人脈を形成するのに多忙を極めていた。


 それに、神遊山周囲の土地を買い集めたため、手入れもしたかった。
 温泉とミスリル鉱山に人は十分集まって、村から街へと発展していく真っ最中。名産品として温泉卵や温泉饅頭も広めたいし、時間がいくらあっても足りない。


(何故かうちの領地、野良ひよこがどこからか集まってくるんだよね……、ヒナ様の影響なのかな?これを活かさない手は無いし、ふれあいパークでもやろうかな……)


「ディア。ディディアディアディア」

「なんですかアレク様。あの、何も見えません」

「君に熱心に見つめられる書類に嫉妬してしまいそうだから、隠してみたよ。ねぇ、私と愛の社交をしないかい?」

「ええと……」

「ふふ、返事は一つしか聞かないんだけど」

「はいはい。好きにしてください、アレク様」


 諦めてフッ、と力を抜く。ディディアの視界を覆っていた手が外されて、両頬を挟まれた。


「無理をしすぎだ。こんな短期間で詰め込んで……生き急いでいるようで不安になるよ」


 ちゅ……、と優しいキスを落とされた。いつの間に人払いされたのか、ふわりと長い黒髪が広がり、アレクサンダーの元の姿があらわになる。


「ん……、はぁ、だって……」

「うん?」

「早く、アレク様の隣に相応しくなりたいんです……普通は数年あるはずの婚約期間も、一年しかありませんし」


 目の毒なほど張りのある胸筋を、そっと撫でる。アレクサンダーがディディアだけに許している特別感に、酔いそうだ。


 結婚式まで、あと一年しかない。
 言い換えると、初夜まではあと一年もあった。


(待ち遠しい。何かに没頭していなければ、初夜のことばかり考えてしまうもの)


 アレクサンダーとは毎晩のように触れ合って欲を解消しているのに、早く繋がりたくて仕方ない。

 アレクサンダーの方も、獣じみた咆哮を堪えて、突然奇行に走り出すことも増えた。相当限界が近いということである。


「…………!本当に君は、容易く私の理性を揺さぶってくる。あははは……ブチ入れたい」

「アレク様、お口が悪いです」

「ごめんごめん、本音がちょっと出ちゃった。あーもう、本当に結婚まで長いよね。でも、ディディアが潰れちゃったら本末転倒でしょう?」


 たまに凶暴な面が出てしまうアレクサンダーだが、それすらグッときてしまう。自分も相当末期だ。

 それでもアレクサンダーがディディアに触れる指先はいつも優しく、かける言葉は甘く柔らかで、ずぶずぶと恋心は深く拡大して沼になりつつあった。


(好きだな…………、アレク様と一緒にいるだけで、時間が輝いてる。重症だ……)








 アレクサンダーには、同じスキルを持つ父――――国王陛下と、おっとり天然系の母、王妃殿下がいる。二人は政略結婚だが相思相愛、永遠に新婚のような熱さで愛し合っており、アレクサンダーの下には五人もの弟が存在した。


 アレクサンダーが【真実の瞳】を持つことや、能力面でも傑物けつぶつであることから、“弟たちに変なプレッシャーを与えないように”と早くに立太子した経緯がある。

 その影響か、弟王子たちは自由にのびのびと育ち、それぞれ得意な分野へ進むつもりらしい。


 第二王子のカノンは、今年で15歳になった。
 学園入学を機に婚約者を定めるため、頻繁に茶会を開催しており、ディディアやアレクサンダーも少しだけ顔を出すことにしている。


 アレクサンダーは、【真実の瞳】で大体の為人ひととなりを確認するため。

 ディディアは、各家の子女を記憶するためと、アレクサンダーの登場でガチガチに緊張する彼・彼女らを、少しでも緩和させてやるためだ。

 ディディアがアレクサンダーの隣にいることで、大抵の人は『制御されている』と安心するらしい。放し飼いの犬でもあるまいに、と苦笑してしまう。


「はぁ、もう疲れたよディディアお義兄さまぁ、毎日毎日、飲みたくもないお茶でお腹たぷたぷ!結婚なんかしたくないのに!癒してください~~」

「ふふ、どうぞどうぞ」


 カノンはディディアの手をぎゅっと握った。【癒し】が発動され、手を伝ってカノンの体へ染み込んでいく。
 ふああ、と間の抜けた声を漏らす弟を、アレクサンダーが素早く引っ剥がした。


「長い!カノン、長く握りすぎだ。あのねぇ、今たくさん会っておかないと後悔するよ。好みだと思った子が、誰かの婚約者になっていたりするんだから」

「はぁい。ディディアお義兄さまみたいな人が来たら、すぐ結婚する~」

「はいはい、カノン様、冗談は置いておいて。今日はの国のおかたなんですから、キチンとしませんと」


 アレクサンダーがかつて婚約していた、隣国パヴェフォリの姫。その姫が入国禁止となった際、条約を結んだ。そのためパヴェフォリと政略結婚をする必要性はない。

 しかしその姫の妹姫が、遠路はるばるやってきてカノンと見合いをする。パヴェフォリとしては不利な条約を書き換えさせるために、どうにかして姫を捩じ込みたいという訳だ。

 出禁の姫は容姿だけは『宝石姫』と名高かったため、その妹姫もまた可愛らしいに違いなく、カノンもどこか期待をしているようだ。面倒くさそうに唇を尖らせながらも、にやつきが隠せていない。


「カノン様、良きお方と出会われると良いですね。ちなみに……アレク様は、なぜその姉姫様と婚約を?」


 実は疑問に思っていた。アレクサンダーは国内の貴族令息令嬢と見合いの席は持たず、パヴェフォリの姫と婚約をしていたのだ。


「ああ、国内だと私のスキルを薄々知っている人間が多いだろう?私との縁談を嫌がる人間が多くてね。結婚する本人だけでなく、親世代も含めて、このスキルと結婚出来る人間は居なかった。特に国内なら今後も付き合いはあるし。あはは」

「はいっ!?そんなこと、あり得ますか!?」

「あるんだよ。ディアは全く気にしていないからいいのだけど、【真実の瞳】の前で嘘や誤魔化しは効かない。頭の中を覗かれるようで嫌なんだろう。実際に可能だが、私だって好んで読もうなんて思っていないのに」

「ええ、そんな……疲れないのかな、と心配にはなりますが」


 ディディアはアレクサンダーに頭の中を覗かれても、特に気にしない。神経が図太いのである。

 オーラは常にだだ漏れのようで、今更だ。頭の中を覗かれる場合にはゾクゾクするような違和感を覚えるらしいが、まだそれを感じたことはない。ということは覗かれたことは無いのだろう。


「ぷふふっ、ディアにそう思われているならそれでいいや。うん。まぁ、端的に言えばモテないということで、国外の姫ということになったんだ。多分それでも、スキルを知られれば拒絶されると確信していた」

「そんな……」

「その時の私も若かったし、クサクサしてね、子供を産んでくれるなら血統と羽振りさえ良ければいい、なんて捻くれていたんだ。結果として向こうが自爆してくれたんだけど、ディアと出会えて本当に良かった」

「アレク様……」


 アレクサンダーもアレクサンダーで、葛藤していた時期があったらしい。いつも泰然たいぜんとしているように見えたが、悩むことが無い訳ではない。
 ディディアは一層いとしさが増した。


 【真実の瞳】スキルを得た歴代の王たちも、伴侶には苦労をしている。今の国王陛下陛下夫妻だけが例外で、それは極めて幸運なことだった。他は妃が発狂して離縁をしたり、生涯冷え切った夫婦関係だったり。


(僕たちは、そうならない。アレク様を幸せにするのは、僕だ)


 頭の中を覗かれようと気にならない。ディディアは自分の図太さが、今は誇らしかった。







 王城が俄かに浮き足立ち、賓客が到着したことを知らせる鐘が鳴る。
 少し緊張気味のカノンを中心として、アレクサンダーとディディアもパヴェフォリの妹姫を出迎えた。


「初めまして。パヴェフォリから参りました、アントワーヌ・フェルフェルド・パヴェフォリと申しま…………」


 陽光に溶けてしまいそうなほど、淡い藤色の髪がなみなみと揺れている。

 華奢で可憐なお姫様は、そこでハッと俯いてしまった。大勢に見つめられて恥ずかしくなったのか、耳まで赤くなっている。

 カノンと同い年の15歳であるが、更にまだ幼げで微笑ましい。






 そう思っていたディディアは、この時アントワーヌが、カノンの後ろにいたアレクサンダーに一目惚れしたとは気付かなかったのだ。


















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