婚約者は愛を見つけたらしいので、不要になった僕は君にあげる

カシナシ

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本編

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それから数日。僕とルイの婚約は無事に成立した。転送箱という超最短の方法を使ったのなら納得の速さだった。

ルイのご両親と弟さんとは前から面識があったけれど、改めて挨拶をした。知っていたけどみんなとってもいい人たち。婚約者もいないルイの事をずっと心配していたらしく、『うちの息子で良ければどうぞどうぞ!』な勢いだった。

僕の父と義弟も含めた顔合わせもした。家格は公爵家の父の方が若干高いけれど、資産、権力、武力すべて、ノーランド辺境伯の方が上。

ということもあり、父はヘコヘコアセアセと義家族のご機嫌取りをして、さも『息子を愛する父親』みたいな顔をして帰っていった。

お疲れ様でしたねぇ。

公爵令息に見合う持参金を用意してくれたのはありがたい。例え父親の矜持の為とは言え。
しかし僕はあの残虐王に嫁がされそうになった恨みを忘れていないので、念のため、公爵家に何を言われても支援する必要はないと言っておいた。父親の狙い通り、利益になる婚姻なんて癪だもの。

金食い鉱山を閉山しないとどんどん悪化するばかりだが、それはもう父と、僕に対してだけは意地悪な義弟の領域だ。

結婚式に向けて、屋敷中がそわそわ浮き足立っている中。

皮肉なことに、ルイとの喧嘩によって蓄えてしまった怒りのエネルギーが、僕を元気にした。
もうむしゃくしゃして、一番高いドレスコートを頼んでやる。……えっと、悪い嫁だと思われてはいけないから、他のものは義母上と要相談だ。


「なぁ、本当にごめん。感動のあまり我を失って……俺の欲望を優先させてしまった。俺、お前の気持ち、考えていなかったな」


ルイは毎日朝昼晩と、花を一輪持ってきては謝罪した。しょぼーんとした顔で、犬の耳があったなら垂れていることだろう。
花瓶は一輪の花たちを次々挿されていく。いいなぁ、君は望みのものを挿れられて。


「次こそお前を大事にした上で、絶対に気持ちよくさせるし、嫌がることもしない」

「とか言って、僕のお尻だけで満足なんだろ。本体の僕の気持ちはどうでもいいなんて、お尻目当ての政略結婚みたいなものじゃないか」

「それは違う!お前あってこその尻だ。お前に付いてなきゃ意味はないんだ!」

「……お尻に出来ものができたらどうする?婚約破棄か?」

「何個できたって軟膏を塗ろう。むしろ塗らせてくれ。一晩中乾かせと言うなら寝ずにあおいでやる」

「……君はブレないな……」


ぶつくさ言うものの、僕ももう、大分許していた。ルイはきちんと謝罪出来る男だし、ちょっと尻狂いなだけで、こちらが戸惑うくらい真っ直ぐ気持ちを伝えてくれるから。
ただ、僕の方が素直になれないというか、顔が見れない。

いいよって言ったら、今度こそするんだよね?あのとろけるようなキスや、大事に大事に肌に触れて、僕の全身を愛でるような、あれを。

そう思うとボッと顔から火が出そうだった。
つまり、……その、なんだ。恥ずかしい。

でももう花瓶はいっぱいいっぱいになってきて、初めに入れたガーベラも散ってきた。そろそろ、許そうかな……、ともじもじ躊躇している間に、

襲来されたのだ。















「ルイ様、ご来客の知らせが」

「一時間後に?……さすが殿下、舐めているな」


僕は即座に、病人に擬態した。

闇魔法:陰影。人や物の影を濃くしたり、逆に薄くしたり出来る。女の人の化粧のような、ささやかな魔法。
つまり、目の下や頬のあたりに、影を濃い目に付ければ、ほら、げっそりとした骸骨のような僕が完成。

寝台から動けないという設定ね。上半身はあえてピンと伸ばして座っている。


「……アシリス!」


扉を開けた瞬間、殿下が悲痛な声を上げた。


「殿下、このような姿で申し訳ありません」

「いいんだ、私が……、そうか……」


ルイは護衛騎士のように、眼光鋭く、微動だにせず、直立していた。威圧感が半端ない。
殿下は寝台横の椅子に座ると、沈んだ声を出す。


「私との婚約解消が、それ程までに君を弱らせたのか……本当に、申し訳ない。アシリス……」

「殿下。彼はもう私の婚約者ですよ」

「……そうだったな。全く驚いたよ。陛下も陛下だ、私の了承もなく婚約が成立したなんて」


了承もなく?その言葉に、内心首を傾げた。陛下の承諾が降りたんだ、キール殿下の許可など要らない。
そっか、陛下も殿下に事前に話すと厄介なことになりそうだと思ってくれたのかな。有り難い。


「……はい、私は幸い、ルイの婚約者にして頂けました。もうこのような身体になってしまい……、今後は辺境伯領の、自然豊かな場所で静養する予定です」


弱々しく見せられただろうか。いつも僕はピシッと決めていたから、このような姿は初めてかもしれない。今も普通に元気だしね!
けれどキール殿下は騙されてくれたようだ。ああっ、と言って頭を抱えていた。


「そうか、そうか……それなら、仕方ない。君の就職先に、ココルの補佐を是非お願いしたかったのだが……」


チラリと上目遣いで見られて、僕が嫌悪感を隠すため目を伏せると、ルイの怒気と存在感が膨れ上がった。
すっごい、怒ってる。ルイが、僕のために。


「殿下。このように、アシリスには休養が必要です。アシリスは今、長年の苦労と努力と献身が報われることなく無に還ってしまい、心身共に追い込まれています。彼にはもう、働くことは不可能です。そうさせたココル様と、元婚約者である貴方に、私のアシリスを近付けたくありません」

「………………申し訳なかった。そうか、……もしかして、もう長くな」

「殿下!」


ルイは殿下の『長くないのか?』という言葉を遮り、首を横に振る。その話題はダメだ、という風に。まるでもう僕が死ぬみたいな、何とも言えない空気が漂う。


「殿下、お引き取りください。もう彼に会えることはないでしょう」

「…………わ、分かった。アシリス……殿。ゆっくり身体を労って欲しい。本当に残念だよ。ココルの補佐に、君以上の人などいないというのに……」


この人は本当に、人の体調より自分の保身、なんだなぁ。

殿下の作戦では、僕の代わりに愛らしいココルを王子妃に据え、知識教養の面は僕を側に付けて耳打ちさせることで解消しようとしたのだろう。

影か。そっか、ココルが光で僕が影。魔法の属性と同じだから丁度いいって?はは、笑えない。

それから、僕という駒を失った父にすり寄り、ココルを養子にさせたかったに違いない。13年も婚約者をしていたのだから、分かる。キール殿下は無駄を嫌い、余す事なく活用するのがお好き。

しかし父はもう、ノーランド辺境伯と僕が縁付いた為満足してしまったし、ココルを養子にして王子妃に据えるとパワーバランス的に睨まれるリスクを負うし、その前に僕に持たせる持参金で精一杯。

殿下は同情を誘うように肩を落とし、チラリチラリとこちらを見ていた。

僕だって負けてない。昔からこの容姿は『儚げ』と言われてきたのだ。落ち窪んだように見える顔で、伏目にしてやれば、もう死期の近い感じを醸し出せただろう。

ふっ。『後先短い身なのでもう利用出来ませんよ』作戦が、当たったみたい。今度こそさよなら、だ。




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