婚約者は愛を見つけたらしいので、不要になった僕は君にあげる

カシナシ

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番外編

3 キールの敗北


急いでノーランド辺境伯のタウンハウスへと向かった。早馬を出したが間に合ったかどうか分からない。そして面会できたアシリスに、私は絶句した。

あの、アシリスが。
いつも淡々と、冷静沈着で堂々としたアシリスが、げっそりと痩せて動けないでいた。

寝台から移動できないらしい。それでも彼の矜持か、ピンと伸ばした背筋がかえって痛々しい。


「……アシリス!」


声をかけると、仄暗い光を湛えた碧眼が、こちらを向いた。ズキリと胸が痛む。


「殿下、このような姿で申し訳ありません」

「いいんだ、私が……、そうか……」


アシリスのこのような姿を、見たことがなかった。私が何をしても、この強靭なオメガは傷付かないと思っていた。そうか、それ程までに、私のことを慕っていたのか、アシリスは……。

私は寝台横の椅子に座った。アシリスの近くで仁王立ちし、威嚇している男を極力視界に入れないようにして。
ルイ・ノーランド。辺境伯の長男だが、私の取り巻きゆうじんになるには性格が合わなすぎて候補から外れた男だ。アルファ同士ということもあるが、それ以上に奴の歯に衣着せない物言いと、脳筋な性格が、思慮深い私と正反対すぎた。
こんなやつが、アシリスを……、可哀想に。いや、いい。今はそれより、挽回しなくてはならない。


「私との婚約解消が、それ程までに君を弱らせたのか……本当に、申し訳ない。アシリス……」

「殿下。彼はもう私の婚約者ですよ」

「……そうだったな。全く驚いたよ。陛下も陛下だ、私の了承もなく婚約が成立したなんて」


正直に心情を吐露する。全く、アシリスは長年私の婚約者だったのだから、こんなに早く次の婚約が調ととのうなんて、思ってもみなかった。

普通は王家の顔色を伺うだろう?だが、このルイという男なら多少納得だ。こいつは普通ではないからだ。この年齢で婚約者を決めていないんだ、問題があるという事に他ならない。


「……はい、私は幸い、ルイの婚約者にして頂けました。もうこのような身体になってしまい……、今後は辺境伯領の、自然豊かな場所で静養する予定です」


元々儚げな風貌のアシリスは、今にも消えそうなほどに弱っていた。
辛い。友人が酷く憔悴している。それも、私のせいで……。ああ、なんて私は罪深いんだ!アシリスの深い愛に気付かなかったなんて……!
頭を抱えながらも、これは一つの可能性も見出せる。一縷いちるの望みを託して口に出してみた。


「そうか、そうか……それなら、仕方ない。君の就職先に、ココルの補佐を、是非、お願いしたかったのだが……」


そう。ココルの補佐という名前で王城に来るならば、アシリスは私と会える。それなら、少しは快復に向かうかもしれない。

但し、命令は出来ない。アシリスの人脈を甘く見ていた時ならまだしも、陛下の怒りを買うほどだと分かった今は、下手なことは言えない。あくまで、アシリスの善意によって来てもらわなくてはならない。


チラリとアシリスを確認すると、目を伏せて考えているようだった。いける?いけるか?
そう期待が膨らんだ時、急に外部者の怒気も膨れ上がった!


ヒィッ!
父から威圧を受けたばかりなのに!繊細な私にとっては毒だ……!

一刻も早く鎮まって欲しい。それなのに、悪鬼のようなこの男は、重低音で、ゆっくり、言い含めるように唸った。


「殿下。このように、アシリスには休養が必要です。アシリスは今、長年の苦労と努力と献身が報われることなく無に還ってしまい、心身共に追い込まれています。彼にはもう、働くことは不可能です。そうさせたココル様と、元婚約者である貴方に、私のアシリスを近付けたくありません」

「………………申し訳なかった。そうか、……もしかして、もう長くな」

「殿下!」


ルイは私の言葉を遮り、首を横に振る。それは、肯定ということか……。
むしろこいつと一緒にいることで、アシリスは悪くなってしまっているのではないだろうか。しかしそれを確かめる術はないし、何より、この男と長く話していたく無い。クソッ、アシリスがダメなら、しばらくは私の側近にやらせるか……。もし奇跡的に回復したら、助け出してやってもいい。


「殿下、お引き取りください。もう彼に会えることはないでしょう」

「…………わ、分かった。アシリス……殿。ゆっくり身体を労って欲しい。本当に残念だよ。ココルの補佐に、君以上の人などいないというのに……」



そういうとまた威圧されかかったため、私は這々ほうほうの体で逃げ帰ったのだった。






しかし、種は蒔いた。
アシリスはきっと、この申し出を受ける。何故なら、あれほどまでに私を慕っているんだ。

そう思ってワクワクと、毎朝届く手紙の束を確認していたのだが――ついに、来ることは無かった。

それはつまり、陛下によって除籍され、騎士爵に落とされる事を意味していた。






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