婚約者は愛を見つけたらしいので、不要になった僕は君にあげる

カシナシ

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番外編

2 キールの誤算

「えっ……アシリスが、婚約?」

「ああ。もちろん、即日、許可した。当然だろう?どこかの恩知らずで恥知らずの子供が、物知らずの子供と子供を作るなんて、アシリスの身になってみろ。はははっ、無理か、お前には」


陛下は、にこやかに笑っていた。
笑いながら、目は鋭く私を睨んでいた。


「なに、お前も我の許可なく、アシリスとの婚約を解消させただろう?それも、クズ同然の鉱山をつけて。慰謝料はもちろん、お前の予算で払い直させるぞ。さぁ、お前に無駄についた贅肉プライドを削ぎ落とす時間だ、楽しみだな?」

「は……っ!?いや、あれは良質なエメラルドの出る鉱山で……っ」

「本気でそう思っているなら無能、それが演技だとしたら性悪だ。どちらせよ国に不要。……そうだ、お前、連れてきたあの小さいオメガは愛しているのか?」


急な話題転換。父の良くやる手法だ。そうだと分かっているのに、毎度振り回されてボロが出てしまう。クソ、こういう時はアシリスの方が向いているというのに、今は隣に誰もいない。


「もちろんです。一生をかけて幸せにしたいと思って」

「おお、それは良かったな。"影"からも、相思相愛だと聞いた。腹の子供はお前の子で確定、と」

「当たり前です。ココルは私と夫婦になるのですから」

「ああ、何やら勝手に婚姻届けまで出そうとしておったな?今は差し止めておる。不備があったからの」

「え?」


ぽかんと父を見上げた。不備?いや、ココルと一緒にいちゃいちゃしながら仕上げたものだ。幸せになろうと誓って。


「キール。アシリスの人脈を舐めていたな?今やお前より高い評価をされているアシリスを捨てたお前は、王族から籍を抜く。でなければ王家は危機的状況に陥いるだろう。だからお前は家名を変えなくてはな?男爵の地位でも良いかと思ったが、お前にこき使われる人間が不憫での。お情けで騎士爵を授けよう。なに、お前の腕ならそこそこ……門番くらいにはなれる。応援しておるぞ」

「何を!?父上、嘘でしょう!?確かにアシリスは良くやりましたが、私があってこそ!騎士爵だなんてほぼ平民ではないですか!」

「はっはっは!なんだ?尻叩きくらいで済むとでも思っていたか?我だってこんな可愛げのない尻など叩きたくもないわ!」

「い、いえ、そもそも、ココルを王子妃にする目処は立っています!」

「お前は本当に碌な事を考えんな。その頭の中身も可愛らしい愛人に聞いてみるといい。騎士の妻はどうか。……恐らくホッとするだろう。アレは王子妃になる器を持ってないのだから。まぁ、心根は真っ直ぐなようじゃ、慎ましくすれば十分幸せになれる」

「そんな!私は、私は!いずれ王になるために育てられた男ですよ!?それをこんな事で……」

「こんな事、だと?」


ドッ………………!
パリンパリンパリンパリン!
応接室の玻璃が全て粉々になった。陛下の威圧……!


「ぐっ……」


椅子から転げ落ち、絨毯にへばりついた。やはり、この王は、化け物だった。私が王となったとしても、この威圧以上のものを得られるとは思えないほどに。


「アシリスも、王子妃になるために育てられた男だった。それをお前は、どうした?可愛いだけのペットのようなオメガのために、切り捨てたじゃないか。我も同じことをする。それでようやく、アシリスに謝罪出来るというものだ」


そんな。
そんなまさか!


「はぁ、アシリスと辺境伯令息に謝罪せねばのう。息子の財産だけで足りるか……いや、宝物の数点は持たせて機嫌を取らねば。……ん?まだおったのか?」



バタンッ!

強制的に締め出された私は、すぐさまココルの部屋へ向かった。
妊娠初期で具合も悪いのに、ココルは健気に机へと向かっていた。なんて愛おしいのだろう。しかし、無理は良くない。


「ココルっ!」

「あ、キール、さま……」

「顔色が悪い。さぁ、こちらへ来て。休もう、おいで」

「だ、ダメですキール様。ぼく、これやらなくちゃ……」


ココルの腰を抱いて引き寄せようとしても、やんわりと拒否された。
机に散らばっているのは、私たち貴族が幼年で習うようなこと。それでも途中で分からなくなったのか、誤った答えが書き連ねられている。

努力はしているんだ、ココルは。ただ、これまで生きてきた環境が我々と違うだけ。時間をかければ追いつけるはず。そうに違いないのに、頭には『器がちがう』という父の言葉が纏わり付く。


「……ココル。その、もし……私が王子ではなく、き、騎士になったら……どうする?」

「え……えっ?」

「なに、仮に、ね?それでも愛してくれる?」


先ほどの父の言葉。これでは、まるで私の方がココルに弱みを握られているようで腹が立つ。それでも、聞かない訳にはいかなかった。
すると忌々しいことに、父の言う通り、ココルはパァッと顔を輝かせたのだ。


「キール様が、騎士様に……、そ、それなら!ぼく、色々教えて差し上げます!平民に近い暮らしなら、きっとキール様よりも詳しいですよ!」


にこっ!と笑うココルに、心臓を撃ち抜かれる気持ちだった。こんなに清らかな存在がいていいのか……!?


しかし!

しかし私は男の甲斐性として、ココルに何不自由なく暮らせてやりたい。まだ宣言されただけだ、今すぐ動けば挽回できるはずだ……!
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