13 / 19
番外編
2 キールの誤算
しおりを挟む
「えっ……アシリスが、婚約?」
「ああ。もちろん、即日、許可した。当然だろう?どこかの恩知らずで恥知らずの子供が、物知らずの子供と子供を作るなんて、アシリスの身になってみろ。はははっ、無理か、お前には」
陛下は、にこやかに笑っていた。
笑いながら、目は鋭く私を睨んでいた。
「なに、お前も我の許可なく、アシリスとの婚約を解消させただろう?それも、クズ同然の鉱山をつけて。慰謝料はもちろん、お前の予算で払い直させるぞ。さぁ、お前に無駄についた贅肉を削ぎ落とす時間だ、楽しみだな?」
「は……っ!?いや、あれは良質なエメラルドの出る鉱山で……っ」
「本気でそう思っているなら無能、それが演技だとしたら性悪だ。どちらせよ国に不要。……そうだ、お前、連れてきたあの小さいオメガは愛しているのか?」
急な話題転換。父の良くやる手法だ。そうだと分かっているのに、毎度振り回されてボロが出てしまう。クソ、こういう時はアシリスの方が向いているというのに、今は隣に誰もいない。
「もちろんです。一生をかけて幸せにしたいと思って」
「おお、それは良かったな。"影"からも、相思相愛だと聞いた。腹の子供はお前の子で確定、と」
「当たり前です。ココルは私と夫婦になるのですから」
「ああ、何やら勝手に婚姻届けまで出そうとしておったな?今は差し止めておる。不備があったからの」
「え?」
ぽかんと父を見上げた。不備?いや、ココルと一緒にいちゃいちゃしながら仕上げたものだ。幸せになろうと誓って。
「キール。アシリスの人脈を舐めていたな?今やお前より高い評価をされているアシリスを捨てたお前は、王族から籍を抜く。でなければ王家は危機的状況に陥いるだろう。だからお前は家名を変えなくてはな?男爵の地位でも良いかと思ったが、お前にこき使われる人間が不憫での。お情けで騎士爵を授けよう。なに、お前の腕ならそこそこ……門番くらいにはなれる。応援しておるぞ」
「何を!?父上、嘘でしょう!?確かにアシリスは良くやりましたが、私があってこそ!騎士爵だなんてほぼ平民ではないですか!」
「はっはっは!なんだ?尻叩きくらいで済むとでも思っていたか?我だってこんな可愛げのない尻など叩きたくもないわ!」
「い、いえ、そもそも、ココルを王子妃にする目処は立っています!」
「お前は本当に碌な事を考えんな。その頭の中身も可愛らしい愛人に聞いてみるといい。騎士の妻はどうか。……恐らくホッとするだろう。アレは王子妃になる器を持ってないのだから。まぁ、心根は真っ直ぐなようじゃ、慎ましくすれば十分幸せになれる」
「そんな!私は、私は!いずれ王になるために育てられた男ですよ!?それをこんな事で……」
「こんな事、だと?」
ドッ………………!
パリンパリンパリンパリン!
応接室の玻璃が全て粉々になった。陛下の威圧……!
「ぐっ……」
椅子から転げ落ち、絨毯にへばりついた。やはり、この王は、化け物だった。私が王となったとしても、この威圧以上のものを得られるとは思えないほどに。
「アシリスも、王子妃になるために育てられた男だった。それをお前は、どうした?可愛いだけのペットのようなオメガのために、切り捨てたじゃないか。我も同じことをする。それでようやく、アシリスに謝罪出来るというものだ」
そんな。
そんなまさか!
「はぁ、アシリスと辺境伯令息に謝罪せねばのう。息子の財産だけで足りるか……いや、宝物の数点は持たせて機嫌を取らねば。……ん?まだおったのか?」
バタンッ!
強制的に締め出された私は、すぐさまココルの部屋へ向かった。
妊娠初期で具合も悪いのに、ココルは健気に机へと向かっていた。なんて愛おしいのだろう。しかし、無理は良くない。
「ココルっ!」
「あ、キール、さま……」
「顔色が悪い。さぁ、こちらへ来て。休もう、おいで」
「だ、ダメですキール様。ぼく、これやらなくちゃ……」
ココルの腰を抱いて引き寄せようとしても、やんわりと拒否された。
机に散らばっているのは、私たち貴族が幼年で習うようなこと。それでも途中で分からなくなったのか、誤った答えが書き連ねられている。
努力はしているんだ、ココルは。ただ、これまで生きてきた環境が我々と違うだけ。時間をかければ追いつけるはず。そうに違いないのに、頭には『器がちがう』という父の言葉が纏わり付く。
「……ココル。その、もし……私が王子ではなく、き、騎士になったら……どうする?」
「え……えっ?」
「なに、仮に、ね?それでも愛してくれる?」
先ほどの父の言葉。これでは、まるで私の方がココルに弱みを握られているようで腹が立つ。それでも、聞かない訳にはいかなかった。
すると忌々しいことに、父の言う通り、ココルはパァッと顔を輝かせたのだ。
「キール様が、騎士様に……、そ、それなら!ぼく、色々教えて差し上げます!平民に近い暮らしなら、きっとキール様よりも詳しいですよ!」
にこっ!と笑うココルに、心臓を撃ち抜かれる気持ちだった。こんなに清らかな存在がいていいのか……!?
しかし!
しかし私は男の甲斐性として、ココルに何不自由なく暮らせてやりたい。まだ宣言されただけだ、今すぐ動けば挽回できるはずだ……!
「ああ。もちろん、即日、許可した。当然だろう?どこかの恩知らずで恥知らずの子供が、物知らずの子供と子供を作るなんて、アシリスの身になってみろ。はははっ、無理か、お前には」
陛下は、にこやかに笑っていた。
笑いながら、目は鋭く私を睨んでいた。
「なに、お前も我の許可なく、アシリスとの婚約を解消させただろう?それも、クズ同然の鉱山をつけて。慰謝料はもちろん、お前の予算で払い直させるぞ。さぁ、お前に無駄についた贅肉を削ぎ落とす時間だ、楽しみだな?」
「は……っ!?いや、あれは良質なエメラルドの出る鉱山で……っ」
「本気でそう思っているなら無能、それが演技だとしたら性悪だ。どちらせよ国に不要。……そうだ、お前、連れてきたあの小さいオメガは愛しているのか?」
急な話題転換。父の良くやる手法だ。そうだと分かっているのに、毎度振り回されてボロが出てしまう。クソ、こういう時はアシリスの方が向いているというのに、今は隣に誰もいない。
「もちろんです。一生をかけて幸せにしたいと思って」
「おお、それは良かったな。"影"からも、相思相愛だと聞いた。腹の子供はお前の子で確定、と」
「当たり前です。ココルは私と夫婦になるのですから」
「ああ、何やら勝手に婚姻届けまで出そうとしておったな?今は差し止めておる。不備があったからの」
「え?」
ぽかんと父を見上げた。不備?いや、ココルと一緒にいちゃいちゃしながら仕上げたものだ。幸せになろうと誓って。
「キール。アシリスの人脈を舐めていたな?今やお前より高い評価をされているアシリスを捨てたお前は、王族から籍を抜く。でなければ王家は危機的状況に陥いるだろう。だからお前は家名を変えなくてはな?男爵の地位でも良いかと思ったが、お前にこき使われる人間が不憫での。お情けで騎士爵を授けよう。なに、お前の腕ならそこそこ……門番くらいにはなれる。応援しておるぞ」
「何を!?父上、嘘でしょう!?確かにアシリスは良くやりましたが、私があってこそ!騎士爵だなんてほぼ平民ではないですか!」
「はっはっは!なんだ?尻叩きくらいで済むとでも思っていたか?我だってこんな可愛げのない尻など叩きたくもないわ!」
「い、いえ、そもそも、ココルを王子妃にする目処は立っています!」
「お前は本当に碌な事を考えんな。その頭の中身も可愛らしい愛人に聞いてみるといい。騎士の妻はどうか。……恐らくホッとするだろう。アレは王子妃になる器を持ってないのだから。まぁ、心根は真っ直ぐなようじゃ、慎ましくすれば十分幸せになれる」
「そんな!私は、私は!いずれ王になるために育てられた男ですよ!?それをこんな事で……」
「こんな事、だと?」
ドッ………………!
パリンパリンパリンパリン!
応接室の玻璃が全て粉々になった。陛下の威圧……!
「ぐっ……」
椅子から転げ落ち、絨毯にへばりついた。やはり、この王は、化け物だった。私が王となったとしても、この威圧以上のものを得られるとは思えないほどに。
「アシリスも、王子妃になるために育てられた男だった。それをお前は、どうした?可愛いだけのペットのようなオメガのために、切り捨てたじゃないか。我も同じことをする。それでようやく、アシリスに謝罪出来るというものだ」
そんな。
そんなまさか!
「はぁ、アシリスと辺境伯令息に謝罪せねばのう。息子の財産だけで足りるか……いや、宝物の数点は持たせて機嫌を取らねば。……ん?まだおったのか?」
バタンッ!
強制的に締め出された私は、すぐさまココルの部屋へ向かった。
妊娠初期で具合も悪いのに、ココルは健気に机へと向かっていた。なんて愛おしいのだろう。しかし、無理は良くない。
「ココルっ!」
「あ、キール、さま……」
「顔色が悪い。さぁ、こちらへ来て。休もう、おいで」
「だ、ダメですキール様。ぼく、これやらなくちゃ……」
ココルの腰を抱いて引き寄せようとしても、やんわりと拒否された。
机に散らばっているのは、私たち貴族が幼年で習うようなこと。それでも途中で分からなくなったのか、誤った答えが書き連ねられている。
努力はしているんだ、ココルは。ただ、これまで生きてきた環境が我々と違うだけ。時間をかければ追いつけるはず。そうに違いないのに、頭には『器がちがう』という父の言葉が纏わり付く。
「……ココル。その、もし……私が王子ではなく、き、騎士になったら……どうする?」
「え……えっ?」
「なに、仮に、ね?それでも愛してくれる?」
先ほどの父の言葉。これでは、まるで私の方がココルに弱みを握られているようで腹が立つ。それでも、聞かない訳にはいかなかった。
すると忌々しいことに、父の言う通り、ココルはパァッと顔を輝かせたのだ。
「キール様が、騎士様に……、そ、それなら!ぼく、色々教えて差し上げます!平民に近い暮らしなら、きっとキール様よりも詳しいですよ!」
にこっ!と笑うココルに、心臓を撃ち抜かれる気持ちだった。こんなに清らかな存在がいていいのか……!?
しかし!
しかし私は男の甲斐性として、ココルに何不自由なく暮らせてやりたい。まだ宣言されただけだ、今すぐ動けば挽回できるはずだ……!
643
あなたにおすすめの小説
婚約破棄で追放された悪役令息の俺、実はオメガだと隠していたら辺境で出会った無骨な傭兵が隣国の皇太子で運命の番でした
水凪しおん
BL
「今この時をもって、貴様との婚約を破棄する!」
公爵令息レオンは、王子アルベルトとその寵愛する聖女リリアによって、身に覚えのない罪で断罪され、全てを奪われた。
婚約、地位、家族からの愛――そして、痩せ衰えた最果ての辺境地へと追放される。
しかし、それは新たな人生の始まりだった。
前世の知識というチート能力を秘めたレオンは、絶望の地を希望の楽園へと変えていく。
そんな彼の前に現れたのは、ミステリアスな傭兵カイ。
共に困難を乗り越えるうち、二人の間には強い絆が芽生え始める。
だがレオンには、誰にも言えない秘密があった。
彼は、この世界で蔑まれる存在――「オメガ」なのだ。
一方、レオンを追放した王国は、彼の不在によって崩壊の一途を辿っていた。
これは、どん底から這い上がる悪役令息が、運命の番と出会い、真実の愛と幸福を手に入れるまでの物語。
痛快な逆転劇と、とろけるほど甘い溺愛が織りなす、異世界やり直しロマンス!
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。
古森真朝
ファンタジー
「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。
俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」
新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは――
※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。
昔「結婚しよう」と言ってくれた幼馴染は今日、僕以外の人と結婚する
子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき
「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。
そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。
背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。
結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。
「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」
誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。
叶わない恋だってわかってる。
それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。
君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
悪役令息(Ω)に転生したので、破滅を避けてスローライフを目指します。だけどなぜか最強騎士団長(α)の運命の番に認定され、溺愛ルートに突入!
水凪しおん
BL
貧乏男爵家の三男リヒトには秘密があった。
それは、自分が乙女ゲームの「悪役令息」であり、現代日本から転生してきたという記憶だ。
家は没落寸前、自身の立場は断罪エンドへまっしぐら。
そんな破滅フラグを回避するため、前世の知識を活かして領地改革に奮闘するリヒトだったが、彼が生まれ持った「Ω」という性は、否応なく運命の渦へと彼を巻き込んでいく。
ある夜会で出会ったのは、氷のように冷徹で、王国最強と謳われる騎士団長のカイ。
誰もが恐れるαの彼に、なぜかリヒトは興味を持たれてしまう。
「関わってはいけない」――そう思えば思うほど、抗いがたいフェロモンと、カイの不器用な優しさがリヒトの心を揺さぶる。
これは、運命に翻弄される悪役令息が、最強騎士団長の激重な愛に包まれ、やがて国をも動かす存在へと成り上がっていく、甘くて刺激的な溺愛ラブストーリー。
「役立たず」と追放された神官を拾ったのは、不眠に悩む最強の騎士団長。彼の唯一の癒やし手になった俺は、その重すぎる独占欲に溺愛される
水凪しおん
BL
聖なる力を持たず、「穢れを祓う」ことしかできない神官ルカ。治癒の奇跡も起こせない彼は、聖域から「役立たず」の烙印を押され、無一文で追放されてしまう。
絶望の淵で倒れていた彼を拾ったのは、「氷の鬼神」と恐れられる最強の竜騎士団長、エヴァン・ライオネルだった。
長年の不眠と悪夢に苦しむエヴァンは、ルカの側にいるだけで不思議な安らぎを得られることに気づく。
「お前は今日から俺専用の癒やし手だ。異論は認めん」
有無を言わさず騎士団に連れ去られたルカの、無能と蔑まれた力。それは、戦場で瘴気に蝕まれる騎士たちにとって、そして孤独な鬼神の心を救う唯一の光となる奇跡だった。
追放された役立たず神官が、最強騎士団長の独占欲と溺愛に包まれ、かけがえのない居場所を見つける異世界BLファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる