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パーティーのパートナー
しおりを挟む今日は泊っていくという友人と別荘に戻ると、いきなりブランデーを差し出してきた。
『ミセス・リノが気に入ったようだね』
唐突に言われた言葉に、リチャードはブランデーを吹いた。
『なっ……唐突にっ!!』
『いつものお前らしくなかったからさ。女性には線を引いているはずなのに』
『……』
言われてみればそうだ。挨拶でとはいえ、口づけをしたいと思ったことなどなかった。
『気づいていなかったのかい? だったら言わないほうがよかったかな』
間もなく休暇も終わってしまう。とすれば、リチャードはそう簡単に会えなくなる。
『いや、言ってもらって助かった。もうすぐ休暇も終わるが、クリスマスにもう一度休暇を取ってこちらに来るよ』
『それまでに彼女がいればいいけどね』
がしゃん。リチャードの手からグラスが落ちた。何故だろう。ずっといるものだと思い込んでいた。
『これは貸しだ。しばらくギリシャ駐在武官として動いてもらえるかい?』
『……何があった?』
『トルコ内の緊張がまだ続いている。そちらの方に俺がかかりきりになるし、助けがいる』
『了解した。本国から指令が来るのなら、僕はそれに従う』
にやり、マイルズが笑った。
この時期はまさしく、日本とイギリスの二国間同盟であった日英同盟から、日本、イギリス、アメリカ合衆国、フランスの四カ国間の同盟である、四カ国条約へと切り替わる時であり、隣国トルコでは革命が起きていたのだ。
そういう意味でもこの別荘は拠点として最高なのである。しばらくは、イギリス武官がたむろする場所となり、リチャードが日本人女性、りのを想っていることが周囲に知れ渡ることになった。
時折訪れる英吉利貴族に、りのは戸惑っていた。ことあるごとに「一緒に出掛けよう」と誘ってくるのだ。
暇なのか、欧羅巴の人々は垣根が低いのか、本気でそんなことを考えていた。アプローチをかけられているとは思いもしないのが、りのである。リチャードは昔からこの島に来ているだけあって、有名な観光名所以外も知っている。訪ね歩くにあたり、大変ありがたいのは事実だった。
そして何故か、あの別荘にはリチャードの友人だというマイルズもそのままいる。何かあるというのは肌で感じるため、その口実なのだとも思っていた。
今日も市場へと引っ張られるように連れて来られた。
『見て、リノ! リノの瞳と髪のような黒曜石だ!』
何かにつけて贈り物をしようとするのは如何なものなのだろうか。市場の人たちには既に恋人だと思われているようである。
大晦日には帰るし、否定すればそれ以上の言葉で返ってくる。反論は諦めた。
『リノ、今度ノンパーティは僕のパートナーとして出席してくれる?』
「……はい?」
思わず日本語で返してしまったのは仕方がない。
『今度、ギリシャにあるアメリカ領事館でパーティが開かれるんだ。これからのことを考えるというのが、理由らしいよ』
主催理由は分かった。だが、それにりのが出席する理由というものが全く分からない。それに、着ていく服もない。
『日本大使夫人に話はしてあるから! 僕も急に呼ばれたんだ』
『わたくしが行く理由が分かりませんが』
『僕が連れて行きたいから。僕の大切な人だからね』
「……」
何か恐ろしいことを言われた気がした。ぱっと離れようとするりのを、リチャードはあっさりと捕まえた。
リチャードの順応力は早い。りのが離れようとするのが分かるらしく、いつも捕まる。
『リノ、可愛い』
己の顔が真っ赤になるのが分かった。だから連れて行きたい。甘い言葉を公衆面前ではくリチャードにりのが根負けした。
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日英同盟……1899年(明治三十二年)に日英通商航海条約としてが実施(明治二十七年調印)。1902年(明治三十五年)に日英同盟調締結。四カ国条約が締結したことにより、1921年(大正十年)同盟廃止決定。1923年(大正十二年)に同盟が失効となる(満期がきたが、延長しなかった)。
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