煩悩僧侶、ナースに恋する

神月 一乃

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看護師との出会い

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「……やはり、ですか。間違いないようですね。兄さん、この男ですよ」
 面会場所の一角で、ひっそりと話す。
「県議会議員の放蕩息子だな。問題ばかり起こしている」
 お前の方がかなりまともだな、兄が苦笑していた。
「これと一緒にされるのは心外ですよ。私は恐喝も窃盗もしたことありませんから」
 子供の頃に散々悪戯はしたが。その道に知人・・が出来てからそういったことを頼んだこともない。
「お前は昔から悪戯と犯罪の境目をきっちりとつけてたからなぁ」
 そんな話をしていたら、看護師が一人こちらへ来た。禅雁をリハビリに連れて行くのだという。
「わざわざありがとうございます。では兄さん、失礼」
「早く退院しやがれ。間もなく祖父さんの命日だ」
「もうそんな時期ですか。分かりました。主治医に相談してみます」
「おうよ」
 松葉杖で歩く禅雁の後ろを、看護師がついてきた。
「大丈夫ですよ。きちんと行きます。
 ……それとも、別のお話ですか下崎さん?」
 看護師がびくりとしていた。


 そんな看護師を歩きながらの方が疑わしくないでしょう、と禅雁が促した。
「簡単なことですよ。見せられた写真とあなたが似ていた。年齢的におそらくご兄弟なのだろうなと思っただけです。
 おかしいんですよねぇ。こう見えても視力はいいほうなんですが」
「……どういう意味ですか?」
「車を運転していた人物と写真の人物が違うなぁと。あ、これは警察に言ってありますよ。ただ、間違いなく彼の車で、彼が運転していたと言われましたけど」
「……兄、の車?」
「おや、お兄さんでしたか」
 禅雁はさして興味も示さず、看護師に言う。
「このあとのお話はまた後日。お兄さんと色々・・お話されてからにしてください」
 禅雁はさして興味も示さず看護師に言う。
「……一度だけ聞きました。その時には既に……」
「そうですか。投げやりになってませんでした?」
「どうしてっ!?」
「当たりですか。……おそらくそうでないかと思っただけですよ。言ったでしょう? 私は目がいいんです。そして夜目も利くんです。相手の顔が見えた・・・と言ったでしょう? そして警察があなたの兄をひき逃げ犯にしたい。
 そこまで言えば分かりますね?」
「……警察もグルなんですね」
「おそらくは。下崎さん、己の感情だけで動かないでくださいね。私はこういう姑息なやり方は嫌いなんですよ。ですから、私の手で報復します」
 その言葉に看護師が絶句していた。
「ちょっと時間がかかるでしょうねぇ。まぁ、最悪マスコミに言えばいいだけですが」
「ちょっ……」
「私は善人ではありません。僧侶ですが、檀家の皆さんや知人・・にまで『煩悩まみれの下種な僧侶』と褒められてますから」
「それ、褒め言葉じゃないと思うんですが……」
「ははは。取りようですよ。私にとっては褒め言葉です。……だって、多少あくどい事をやっても、『私だから』で終わってしまいますし」
 それに毎度そういうことをやっているわけではない。己や身内を傷つける者に対してその牙をむく。……そのやり方が下種いだけで。それを檀家の人たちも知っているからこそ、そう言われるのだ。
 勿論、その下種いやり方は檀家の人を傷つけた場合にも発動する。

 最近では嫁いびりをする姑にかなり下種いやり方で報復したばかりだ。そのせいか、禅雁のいる寺は「駆け込み寺」となっているらしい。
 だからこそ、檀家の人たちは呆れながらも止めない。

 それが禅雁だからだ。

「そんなわけで、下崎さん」
「……は、はい」
「あなたのご両親のことを聞いていいですか?」
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