12 / 18
閑話
クリスマスから正月に至るまで~その一~
しおりを挟む
尋花の恋人である、禅雁は曲がりなりにも僧侶である。
さすがに初詣には行けないかなぁ、と少しばかり残念に思った。
「尋花さん、お寺で初詣をしちゃいけないとか、そんなことありませんよ」
「そうなんですか?」
こちらから言う前に、禅雁が笑って言う。毎度のことながら、どういう思考回路と洞察力があれば分かるのかと、聞きたくなる。
「年末ですしね。ちなみに、今日クリスマスイブなのはご存じで?」
「……はい」
仏教だから関係ないと思ってあえて言わなかったことである。
「今日のこともうだうだ悩んで私に言わなかったということを顧みれば、初詣等も悩んでいておかしくないと思ったのですよ」
「うだうだって……」
「私は気にしませんし、兄夫婦もそのあたりは気にしませんよ。たかがイベントです。
どうしてもというなら、これはクリスマスプレゼントではなく、婚約指輪|として貰ってください」
「え゛!?」
さらりと左手の薬指に指輪が通された。……いつサイズを測られたのか全く記憶がない。
「よかった。ぴったりで何よりです。若い子が好きなブランドが分からなくて」
「って……えぇぇぇぇぇ!?」
指輪の外箱を見て、思わず叫んだ。一体いつ、尋花の好きなブランドまで調べたというのか。
「あ。サプライズ成功。甥っ子たちに一応リサーチして、出かけた際にあたりをつけたところを尋花さんと回れば、自ずと分かりますよ」
……分かりませんよ。尋花はその言葉を飲み込んだ。
悪運がただ強いだけの人間ではないというのが痛いほどにわかる。
「私、何も用意してないんですが」
クリスマスを一緒に過ごす予定のある職員に率先して休みを渡していた挙句、残業も肩代わりしていたため、時間がなかったともいう。そのはずなのに、何故かクリスマス当日が休みだった。不思議なものである。
「それは問題ありません。明日までの時間を私にいただければ」
「それでよければ」
「二言はないですね?」
次の瞬間、その言葉を激しく後悔した。
「……禅雁さん、はめましたね」
「え? もう一度はめますよ」
「そっちじゃなくて!!」
ねちっこく、気が付いたら日が越えており、息も絶え絶えに抗議するが、禅雁はどこ吹く風だ。
しかもまだ臨戦態勢とか、どんな拷問なのだ。
「私もここまでするつもりはなかったんですが」
悪びれることなく、禅雁が言う。
「予想以上に溜まっていたみたいですね。まぁ、俗な生臭坊主ですから」
「そういう問題じゃなくて!!」
「尋花さんもまだ元気みたいですし、さて」
「むりですぅぅぅぅ!!」
これ以上されたら干からびる!! 心の底から尋花は思った。
「一旦休憩にしましょうか。朝食は何がいいですか?」
ちなみに私は尋花さんがいいです。そんなふざけたことを言う禅雁を、尋花は殴り飛ばしたくなった。
「……一応、パンは買ってあります」
昨日、ご飯は炊けなかった。それだけが心残りである。
それから三十分後にはフレンチトーストとともに、簡単な野菜スープで朝食となった。
「禅雁さん、お料理できるんですね」
「自炊が節約の基本です。大学卒業後遠方に就職したので、一人暮らしをした時期もありましたし」
聞けば一般企業に在籍していた時期まであるという。驚きである。
「逆に私のような下種な俗物が僧侶ということに驚きそうなものですが」
「少し控えられたらいかがですか?」
そう思うならなおさら。食べ終わり、換気扇の下で煙草をすう禅雁に思わず言った。
「無理ですねぇ。年々酷くなっているそうですし。一応本山で修行もしているんですよ。そのときは抑えられているようで、そのあとその分のツケがくるみたいで」
「そんなツケ要らないです」
「両親も同じことを思ったらしくて、悟りを開いてからは行ってませんねぇ」
「悟りを開いたのは……」
「もちろん両親です」
そういうことは笑顔で言ってほしくないところではあるが。
「あ、忙しいですが、大晦日から三が日までうちに来ませんか?」
「……忙しいんですよね?」
「義姉が年越しそばからお節、雑煮までご馳走したいんだそうです」
「でも……」
「休みなら大丈夫ですよ。そのつもりでシフトが組まれているはずですし」
「え?」
ちょっと待て、どうして自分の休みを知っているの!?
「私がお願いしておきましたから」
もう、兄関係のいざこざは解決し安心なのだから勤め先を変えよう。尋花は本気でそう思った。
さすがに初詣には行けないかなぁ、と少しばかり残念に思った。
「尋花さん、お寺で初詣をしちゃいけないとか、そんなことありませんよ」
「そうなんですか?」
こちらから言う前に、禅雁が笑って言う。毎度のことながら、どういう思考回路と洞察力があれば分かるのかと、聞きたくなる。
「年末ですしね。ちなみに、今日クリスマスイブなのはご存じで?」
「……はい」
仏教だから関係ないと思ってあえて言わなかったことである。
「今日のこともうだうだ悩んで私に言わなかったということを顧みれば、初詣等も悩んでいておかしくないと思ったのですよ」
「うだうだって……」
「私は気にしませんし、兄夫婦もそのあたりは気にしませんよ。たかがイベントです。
どうしてもというなら、これはクリスマスプレゼントではなく、婚約指輪|として貰ってください」
「え゛!?」
さらりと左手の薬指に指輪が通された。……いつサイズを測られたのか全く記憶がない。
「よかった。ぴったりで何よりです。若い子が好きなブランドが分からなくて」
「って……えぇぇぇぇぇ!?」
指輪の外箱を見て、思わず叫んだ。一体いつ、尋花の好きなブランドまで調べたというのか。
「あ。サプライズ成功。甥っ子たちに一応リサーチして、出かけた際にあたりをつけたところを尋花さんと回れば、自ずと分かりますよ」
……分かりませんよ。尋花はその言葉を飲み込んだ。
悪運がただ強いだけの人間ではないというのが痛いほどにわかる。
「私、何も用意してないんですが」
クリスマスを一緒に過ごす予定のある職員に率先して休みを渡していた挙句、残業も肩代わりしていたため、時間がなかったともいう。そのはずなのに、何故かクリスマス当日が休みだった。不思議なものである。
「それは問題ありません。明日までの時間を私にいただければ」
「それでよければ」
「二言はないですね?」
次の瞬間、その言葉を激しく後悔した。
「……禅雁さん、はめましたね」
「え? もう一度はめますよ」
「そっちじゃなくて!!」
ねちっこく、気が付いたら日が越えており、息も絶え絶えに抗議するが、禅雁はどこ吹く風だ。
しかもまだ臨戦態勢とか、どんな拷問なのだ。
「私もここまでするつもりはなかったんですが」
悪びれることなく、禅雁が言う。
「予想以上に溜まっていたみたいですね。まぁ、俗な生臭坊主ですから」
「そういう問題じゃなくて!!」
「尋花さんもまだ元気みたいですし、さて」
「むりですぅぅぅぅ!!」
これ以上されたら干からびる!! 心の底から尋花は思った。
「一旦休憩にしましょうか。朝食は何がいいですか?」
ちなみに私は尋花さんがいいです。そんなふざけたことを言う禅雁を、尋花は殴り飛ばしたくなった。
「……一応、パンは買ってあります」
昨日、ご飯は炊けなかった。それだけが心残りである。
それから三十分後にはフレンチトーストとともに、簡単な野菜スープで朝食となった。
「禅雁さん、お料理できるんですね」
「自炊が節約の基本です。大学卒業後遠方に就職したので、一人暮らしをした時期もありましたし」
聞けば一般企業に在籍していた時期まであるという。驚きである。
「逆に私のような下種な俗物が僧侶ということに驚きそうなものですが」
「少し控えられたらいかがですか?」
そう思うならなおさら。食べ終わり、換気扇の下で煙草をすう禅雁に思わず言った。
「無理ですねぇ。年々酷くなっているそうですし。一応本山で修行もしているんですよ。そのときは抑えられているようで、そのあとその分のツケがくるみたいで」
「そんなツケ要らないです」
「両親も同じことを思ったらしくて、悟りを開いてからは行ってませんねぇ」
「悟りを開いたのは……」
「もちろん両親です」
そういうことは笑顔で言ってほしくないところではあるが。
「あ、忙しいですが、大晦日から三が日までうちに来ませんか?」
「……忙しいんですよね?」
「義姉が年越しそばからお節、雑煮までご馳走したいんだそうです」
「でも……」
「休みなら大丈夫ですよ。そのつもりでシフトが組まれているはずですし」
「え?」
ちょっと待て、どうして自分の休みを知っているの!?
「私がお願いしておきましたから」
もう、兄関係のいざこざは解決し安心なのだから勤め先を変えよう。尋花は本気でそう思った。
0
あなたにおすすめの小説
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
『出来損ない』と言われた私は姉や両親から見下されますが、あやかしに求婚されました
宵原リク
恋愛
カクヨムでも読めます。
完結まで毎日投稿します!20時50分更新
ーーーーーー
椿は、八代家で生まれた。八代家は、代々あやかしを従えるで有名な一族だった。
その一族の次女として生まれた椿は、あやかしをうまく従えることができなかった。
私の才能の無さに、両親や家族からは『出来損ない』と言われてしまう始末。
ある日、八代家は有名な家柄が招待されている舞踏会に誘われた。
それに椿も同行したが、両親からきつく「目立つな」と言いつけられた。
椿は目立たないように、会場の端の椅子にポツリと座り込んでいると辺りが騒然としていた。
そこには、あやかしがいた。しかも、かなり強力なあやかしが。
それを見て、みんな動きが止まっていた。そのあやかしは、あたりをキョロキョロと見ながら私の方に近づいてきて……
「私、政宗と申します」と私の前で一礼をしながら名を名乗ったのだった。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる