君を僕に縛り付ける

神月 一乃

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君を僕に縛り付ける

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 女の望みは叶わなかった。

 女が願ったのはただ一つ。「この男から逃れること」だった。

「僕から逃げようだなんて、酷いね。君の願いをたくさん叶えたのに」
「かなってないっ! ……あぁぁぁっ!」
 薬を使われ、快楽が身体を支配していた。
「でも、あんな男・・・・の為に『何でもする』と言ったのは君だ」
 くすりと男が笑い、自身を最奥まで挿した。それだけで女から悲鳴のような喘ぎ声が溢れた。

 まさか、こんなことになるなんて。あの人を助けたいと思ったのは事実で。でも、この男に助けを求めるつもりなんかなくて。
 女の頭の中が真っ白になっていく。
「だぁめ。イクのは許さない。君が俺の傍を絶対に離れないと約束するまで、いかせない」
 そんな。その言葉を女は飲み込んだ。

 快楽をください。イカセテください。そういうのは楽だが、言ってしまえば、地獄が待っている。それを女は理解していた。

 彼のもとへ行きたい。それだけが女を正気にしていた。

「今日も時間切れだね。僕は仕事に行ってくるよ」
 チュッという音をたてて、男はこめかみにキスをしていく。服はないが、部屋を自由に動ける。何せ、ここは女の借りているアパートの一室だ。服はすべて男に処分された。
 よろよろになりながら、シャワーを浴びて横になった。

 男がいなくなった後、女は安心して眠る。朝には効果が切れる薬だ。
 つまり、朝には通常に戻る。夜の出来事が女を羞恥心にいざなっていた。

 どんなに深く眠っていても、女は鍵を開ける音に反応する。
 男が部屋に来るという行為が、女にとって地獄の始まりだからだ。

 しかし、男はいつものように寝室には来なかった。

 がさりと音がする。どうやら泥棒らしい。こんな格好で泥棒になど会おうものなら、凌辱された上で、「淫乱」と称されるかもしれない。女の手が小刻みに震えた。
 女が以前使っていたスマホは男に取り上げられ、連絡手段は男の連絡先の入った新しいスマホのみ。ただ、彼の携帯番号だけは、暗唱していた。

 震える手で、慣れた番号を押す。

 ピリリリ。

 着信音は部屋の中からした。

「ったく、誰だよ。こんな時間に」
 彼の声がすぐそばから聞こえた。つまり、泥棒は彼なのだ。
 幾度か空き巣に入られ、鍵も交換した。それ以降、なくなっていたはずである。

 女はそっと、電話を切った。

 部屋の中の気配が、寝室に近づいていた。

 その時だった。

「ねぇ、空き巣?」
 男の声が唐突に聞こえた。

「てめぇ、不法侵入じゃねぇか」
「君に言われたくないかな。この部屋の鍵を僕は持っているし」
「だったら俺だって持ってるぜ」
「ふうん。じゃあ、その手に持っているのは何? あの子の好きなDVDだ」
「あいつのものは俺のものだ。俺が金に困ってんだ、売ったっていいだろ?」
「窃盗罪だね。いつそれが君のものになったのさ、それにそのDVDは僕が買った」
「はぁ?」
「君が一度盗んだだろう? 先月だったかな。あの子が探していたから、同じものを買ったんだ。君は本当に、あの子を見ていない」
「だったら、俺に金寄越せよ。そうだなとりあえず百万だ。それであいつから離れてやる」
 外で行われている会話に、女は恐怖を覚えベッドへと逃げ込んだ。

 そのあとの会話は分からない。女は布団にくるまれ泣きじゃくったまま寝入ってしまっていた。


 再度気が付いた時には、見知らぬ部屋だった。

「おはよう。起きたみたいだね」
 男がにこりと笑っていた。
 その笑みが、なおさら嫌だ。あれだけのことをしておいて、と女は思う。
「嫌なこと、聞いちゃったみたいだね」
「わざとでしょ!?」
「半分かな。だって鍵を替えるって言ったのを、止めたのは君でしょう」
 そう、男が「危ないから鍵を替える」と言ったのを止めたのは女だ。逃げるためというのもあった。
「君を傷つけるつもりはないから、あの男のことは黙っているつもりだったよ」
「……どういう、こと?」
「僕が君を見つけた理由、あの男が君に借金を背負わせようとしていたからだよ」
「……え?」
「何のためにスマホを替えたと思っているの? あの男との連絡を取れなくするために決まっているだろう。これ以上余計なものを背負わせないために。それなのに、君はあの男に助けを求めた」
「うそ……でしょう?」
 その言葉に男は何も返さなかった。

 そのまま、女をベッドに戻した。
「きゃっ」
「予定変更。今日は完全に君を僕に縛り付ける」
 いつにない欲望が、男の目に宿っていた。

 男の裸は、すらりとしていた。鍛え上げられたにも関わらず、程よくついた筋肉が、男を際立出せている。そして、ぎらりと光を宿す瞳。
 合ってしまえば、そらすことのできない強者の瞳だ。
「今日は逸らさせないよ」
 そう言って、男は女の胸を揉みしだく。
「きゃぁっ」
「だぁめ。僕を見ていないと、お仕置きだよ」
 視線を逸らした瞬間に、男は乳首を強く抓った。
「っつう」

 逸らせば、すぐに痛みを与える。逸らさねば、男に捕らえられる。
「あっ……あぁっ」
「ほら、こっちは凄いドロドロだよ」
 もう片方の手を蜜口にあてると、男は笑みを浮かべて言った。
「やぁっ……いわな……いでっ」
「駄目。すぐに視線逸らすし、逃げようとするから」
 そう言うなり、男は蜜口の上にある蕾を軽く弄る。それだけで女は軽く達した。

 そのあとは、達する直前になって手を休むということを、何度か繰り返された。

 いつにもまして、頭がぼんやりとしていた。
「おねがっ……いかせっ」
 目を逸らすことも出来ぬままに、女は卑猥な言葉を口にした。
「狂うほどに、いかせてあげる」
 男自身が、女の身体を貫いた。

 いつもならば、正常位のままで女を抱くはずの男が、今日は違った。

 女を己の胸に寄せると、男は自分が下になり、女を座らせた。
「あっ……」
 女の体重も相まって、いつもより深く貫いていく。
「動く必要はないよ」
 そう言うなり、女の腰を掴んで下から突き上げてきた。
「あぁぁぁぁ!!」
「相変わらず良い声だ。もっと聞かせて」
 少しだけ、腰を浮かせるように支えた男が不敵に笑う。

 そして、先ほどよりも強く突き上げる。

 男によってはじめてもたらされた快楽に、女は酔いしれた。

 力なく、もたれかかる女の髪を男は弄る。
「可愛い。ねぇ、俺の傍を離れないって約束して」
「やくそくするからぁぁ!! もっとちょうだいぃぃ」
「お望みどおりに」
 貫きながら、男は女の身体をまさぐっていく。女の弱い部分を知れば、そこを懇願するまで攻めたてた。

 明け方には、女の気力も体力もすべてが失われていた。

 婚姻届けに女はおぼろげなままにサインをした。男はそれに満足すると、時折散歩に連れ出すようになった。

 そして、男の言葉が真実だったと知らされた。

 彼は女を騙していたのだ。女の金を盗み、私物を売り払っていた。必死に貯めた金は、男にほとんど盗られていたと知ったのは、間もなくのこと。
 結婚資金だと男に言われ、一緒に貯めていたはずである。
 蓋を開けてみれば、男は一銭も貯めておらず、女が貯めた金を持って逃げたのだ。

 女は今、男の膝の上で彼を見下ろしてた。
「た……助けてくれよ!」
「ねぇ、どうして助けてくれると思うの? 私はもう、この人の妻なのに」
「だったらっ……」
「もうあなたに騙されるのは懲り懲りなの。あなたに預けたお金・・・・・返さなくていいから消えて頂戴」
 それだけ言って、女は男の首にしがみ付いた。男はくすりと笑う。
「妻がそう言うからね。妻の預けた分は水に流そう。他の分はお前たちがきちんと搾り取れ」
「はい」
 男の部下が一斉に返事をすると、部屋を出た。

 寝室まで、男に抱きかかえられたまま進む。
「早く頂戴」
 女は男に与えらる快楽に酔いしれた。
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