彼女と彼とお酒

神月 一乃

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彼と彼女の秘密

家を出たあとの桐生

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 そんな祖母の力添えもあり、桐生は落ち着いて新しい職場に馴染めた。
 ちらりと都築の奥様を見かけたような気がするが。気のせいということにしたい。
「そういや、お前の実家大丈夫なのか?」
 そう訊ねてきたのは、都築の親族だった。と言っても、母親の旧姓を使っているため、他の社員は知らないようだが。
「何とかするんじゃないか?」
「……他人事なのな」
「それ以外何といえと?」
 心底不思議そうに桐生が問えば、その男は苦笑しただけだった。


 仕事も順調なので、美冬をデートにも誘いやすい。桐生から見れば、いいことづくめだった。「安曇の家がーー」と言ってくるお馬鹿もいたが、桐生は一切相手にしなかった。
 お前が気にしているのは、自分の地位だろうと言い返しもした。父親にだが。
 憤慨していたが、事実なので祖母には褒められた。その時点でどうなのよ、と言う突っ込みはあえてしなかったが。
「お金のある家は大変なんですねぇ」
 とこれまた他人事のように言うのは桐生の可愛い彼女で。桐生が平社員になったことにより、付き合いやすくなったと喜んでいる。そんな喜ばれ方は初めてだ。
「あの人たちは自業自得」
 何せ父親は祖父が気に入るだろうという理由だけで、母親を選んだどうしようもない男だ。

 そして今回。祖母のあの言葉を受け、たったそれだけの理由で離婚しようとしたお馬鹿である。さすがの桐生も開いた口が塞がらなかった。
「お前のような馬鹿に安曇家を任せられません!!」
 と怒鳴ったと時任の店に出入りする、安曇家の使用人から話を聞いた。
 言われても仕方ない、時任はそう思った。

 それくらい愚かなことを父親は言ったのである。
 周囲の話を聞けば、他界した伯父も、そして父も桐生と同じように教育を受けたという。違いがどこで出たか分からない。安曇の家に近ければ近い人ほどそう言うのだ。
 それは俺も知りたい。そう桐生が言えば「お前が言うな」と返された。


 それ以外、桐生の周囲は静かである。何せ祖父が「桐生に安曇は継がせん!」と言い放ったのだ。それに対して桐生も「願ったりかなったりだ」と返した。
 強がりだと思われているようだが、本心なので気楽だ。

 こんなことならもっと早く家を出ていればよかったと思ってしまう。

 ……問題は。
 家を出たのをかぎつけた、高柳家でお会いしたお偉いさん方が「いつ結婚するんだ!?」と電話を寄越すことである。

 誰しもが皆、仲人がやりたい、挙式と披露宴には絶対参加したい。そのための予定を今から開けておくのだと、張り切っている。
 早くそこまで話を進めたい桐生は、電話越しのプレッシャーに、どんな営業よりも胃を痛めるのだった。
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