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天高く陰謀巡る秋
旦那様の過去話
しおりを挟む部屋に戻ると、ソワソワした旦那様が。あ~そういえば、聞いていたんですもんね。
「旦那様」
「……なっ、何かな?」
「お話あるなら聞きます。そのままソワソワされると鬱陶しいので」
「……最近麻帆佳の遠慮が別の意味でなくなってるよ」
いいことだと思いますけどねぇ。
「……まずね、何度も言うようだけど、麻帆佳との結婚は私が希望した」
それはもうどうでもいいんですが。
「安定のスルーをありがとう。じゃあさ、私と麻帆佳が昔会ったことがあるって言ったら?」
「はぁ!?」
「やっぱり覚えてないね。……十年以上前、まだ麻帆佳のご両親がご存命の時だよ」
あのですね、十年前といえば私八歳ですよ? 両親が他界したのは十歳の頃ですが。
やっぱり旦那様はロリコンなんでしょうか。八歳の私に欲情する……
「麻帆佳。最後まで人の話を聞いてから結論づけてね。最初に会ったのは、私が留学終えて日本に戻って来た時だよ」
「いつぐらいでしょう?」
「確か私が二十五の時だった気がする。よく覚えていないんだ」
留学を終え、厳原の家に呼び出された旦那様は、急な婚約破棄をあの老爺に言い渡されたそう。それまで、婚約者とは結婚するものだと思っていて、季節ごとの贈り物もなさっていたそうで。
「兄の一人が気に入っちゃったみたいでさ。それ以上に、相手もそれに乗り気でね。当時、その兄の奥さんは明日だった」
「……えっと」
「その頃、明日の実家は不況のあおりを受けて結構ヤバかった。そんな家と繋がりを持ちたくないと、あれが切るいい機会になったみたいだよ」
明日さんが旦那様を庇っていたのも面白くなかったそうで。
そんな事実を告げられた旦那様は、少しばかりやさぐれてしまったらしく。
「馬鹿らしくて、家にも戻らずホームレスみたいな生活をしていたんだ」
ホテル暮らしとか、そこを通り過ぎたんですか!?
どこを歩いていたかもいまいち覚えていないそうですが、とある公園に立ち寄ったのだけは覚えているとのこと。
「そこで麻帆佳に会ったから。当時の私は不審者といっても差し支えなかった。それなのに、麻帆佳は近づいてきた」
己の安全意識が薄いことが思いっきりあらわになりましたよ。
「その時ね、麻帆佳は『お兄ちゃん、どこか苦しいの? 嫌なことあったの?』って聞いてくれたんだ。なんだか色々見透かされた感じがして、軽く話をしたんだけど……覚えていないね」
「全く覚えていないですね」
そんなにがっかりしなくても。……そういえばうちの親が私の危機感について何度か説教していました。そちらの方が印象強くて。
「そのあと『痛いの痛いの飛んでいけ』って。なんだか、おかしくて笑えてきて、それまで悩んでいたことなんか、どうでもよくなった。そのあとご両親が慌てて麻帆佳を回収していったよ」
「……」
誰だって回収しますね、うん。
「それが新鮮でさ、藤城のマンションに転がり込んで、そこで就職活動始めたよ。就職活動がばれて、家に戻されたけどね」
そのあとから私を探し出そうと必死になったとか。……気持ち悪いですよ。
「半年くらいで見つけたら、麻帆佳が思い出以上に可愛くて、自分の傍に置いておきたいなって。その場で麻帆佳の両親に結婚申し込んだら、思いっきり断られた」
「断りますよ!!」
誰だってそうです!
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