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第一章 銀髪の少女
第八話 過保護な女性
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一人きりで外を出歩いたのは何時ぶりだろう。
何時もなら最低でも二人の護衛が付いて居るのだが、それだとやはり目立つうえ、こうして自由に歩き回る事などできない。
「私、もう十八にもなるのに……」
王女という立場上、こういった独断での行動は控えないといけないのだが、それだとストレスの溜まる一方だ。そんな時は何時もダネアに無理を言って、今日のように一人で外を出歩いたりしている。
「たまになら、いいよねっ」
久々の街中を歩きつつ、私は例の子供を探していた。もっとも、詳細については報告されておらず、性別や特徴なども未だに不明だが……。
他国の者が街に訪れること自体は特に珍しくない。もっとも、よく見られるのが旅人や商人などの流れ者だ。
しかし、大人に限った話ではない。身寄りのない子供が、たまたま街に訪れることも稀にあった。そのため、数年前にそういった子供たちを保護する孤児院を設立したのだ。
「お人好し、なのかな」
現に今探している子供を保護することも、私が命じれば兵士たちが見つけて孤児院に連れて行ってくれるだろう。けれど、一人の声に耳を傾けることもまた、王女として必要なことだと私は思う。……いや、これは単に私情かもしれないが。
「まずは、その子を見つけないとね」
私がこうして街中を歩ける時間も限られている。なるべく急がねばと走り出そうとした、その時。建物の付近に多くの人が集まっているのが見えた。揃って屋根の方を見上げている様だが、あれは確かギルドだったはず。何かあったのだろうか?
人混みに紛れ、視線の先へと目を向けた。
「え……? あれって、人……?」
目を凝らすと、一人の男が屋根に突き刺さっていた。完全に脱力しきっており、気絶しているように見える。
一体、中で何が起こったというの……?
困惑とともにその光景を眺めていると、キルドの扉から勢いよく女の子が飛び出した。全体的に黒を基準とした服装に、所々に青が含まれたデザイン。銀髪の髪を片方だけ束ね、腰には細身の剣を身に付けている。
「あ……っ!」
気付いた時には、既に私の隣を通り過ぎた後だった。そのまま走り抜けていくのを見て、私は慌てて後を追う。
「ま、待ってください! あなたにお話が……!」
徐々に距離が離れていく。恐らく私の声は届いていないだろう。それよりも、日々の鍛錬を欠かさず行っているにも関わらず、子供の速度についていけないとは不甲斐ない。いや、あの子の足が速すぎるのでは……? それでも見失わないよう、私は必死に彼女の後を追いかけて行くのであった。
◆
「話、ですか……」
女性の言葉に、俺は表情を曇らせる。
( 何故かって? そりゃあ 思い当たる節がつい数分前に起こったからだよ )
恐らくキルドでの一件について問いただしに来たのだろう。見たところ騎士のようだし、下手に答えればこの場で捕えられるかもしれない。
「あの……迷惑なら、もう街から出ていきますんで……」
「え……? 迷惑だなんて思ってませんよ?」
首を傾げつつ、キョトンとした様子で俺を見詰める。
「私はただ、あなたを救いに来たんです」
まるで子供と話すかのような優しい口調で女性はそう答えた。対する俺は困惑するばかりだが。
「は、はぁ……」
「何か辛いことがあったのなら、無理に答える必要はありません。ですが……どうか私の話を聞いてはいただけませんか? 少なくとも、私はあなたの味方でありたいと思っていますから」
真剣な様子で語りかけてくる女性。なるほど、恐らく俺を身寄りのない子供か何かだと思っているのだろう。ひとまずギルドでの一件とは関係がないらしく、安堵の息を零す。
「まぁ、話くらいなら構いませんよ。俺……じゃなくて! わ……私もできれば、敵とか作りたくないんで」
あまりこの姿で俺とか口にしない方が良いのだろうか。とりあえず、人前でのみ普通の女の子として振舞っておこう。慣れない口調には違和感を感じるが、仕方ない。
「ふふ、ありがとうございます。ここで立ち話も何ですし、少し街を歩きませんか? あっ、でも走るのは無しですからね!」
そう言うと、不意に女性は俺の手を握ってきた。突然のことに驚きつつも、手を引かれるままに彼女の後に続いて歩き出す。女性と手を繋ぐなんて、生まれて初めての体験だ。まぁ、今では俺も女の子なのだが。それでもかなり緊張してしまう。
「宜しければ、名前をお伺いしてもいいですか?」
「あ、あぁ。名前は月島……こほん、ノーラです」
やはり咄嗟に答えようとすると、"俺"として答えてしまいそうになる。間違いと言う訳でもないが、今後の為にも慣れておかないといけないな。
「ツキシマノーラさん……ですか? 独特な名をお持ちなのですね」
「いや、ノーラです! 最初のは言い間違えて……」
「うふふ、ノーラさんですね。私はセレシアと申します」
そうして俺とセレシアは、街中を巡りながら話に花を咲かせていた。恐らく俺の緊張を解すために、こうして親しく接してくれているのだろう。しかし、セレシア自身は純粋に楽しんでいるようにも見える。……仕方ない。話の本題には敢えて触れず、今は彼女の行動に付き合うことにしよう。
とは言え、彼女と過ごす時間は本当に楽しく思う。人付き合いの苦手な俺でさえそう感じるほどだ。きっとセレシアは子供のみならず、人との接し方が上手いのだろう。
「ノーラさんっ、今度はあのお店に行ってみましょう!」
「えっ、まだ食べるんすか!?」
あと、彼女の胃袋は底無しだと言う事も分かった。
何時もなら最低でも二人の護衛が付いて居るのだが、それだとやはり目立つうえ、こうして自由に歩き回る事などできない。
「私、もう十八にもなるのに……」
王女という立場上、こういった独断での行動は控えないといけないのだが、それだとストレスの溜まる一方だ。そんな時は何時もダネアに無理を言って、今日のように一人で外を出歩いたりしている。
「たまになら、いいよねっ」
久々の街中を歩きつつ、私は例の子供を探していた。もっとも、詳細については報告されておらず、性別や特徴なども未だに不明だが……。
他国の者が街に訪れること自体は特に珍しくない。もっとも、よく見られるのが旅人や商人などの流れ者だ。
しかし、大人に限った話ではない。身寄りのない子供が、たまたま街に訪れることも稀にあった。そのため、数年前にそういった子供たちを保護する孤児院を設立したのだ。
「お人好し、なのかな」
現に今探している子供を保護することも、私が命じれば兵士たちが見つけて孤児院に連れて行ってくれるだろう。けれど、一人の声に耳を傾けることもまた、王女として必要なことだと私は思う。……いや、これは単に私情かもしれないが。
「まずは、その子を見つけないとね」
私がこうして街中を歩ける時間も限られている。なるべく急がねばと走り出そうとした、その時。建物の付近に多くの人が集まっているのが見えた。揃って屋根の方を見上げている様だが、あれは確かギルドだったはず。何かあったのだろうか?
人混みに紛れ、視線の先へと目を向けた。
「え……? あれって、人……?」
目を凝らすと、一人の男が屋根に突き刺さっていた。完全に脱力しきっており、気絶しているように見える。
一体、中で何が起こったというの……?
困惑とともにその光景を眺めていると、キルドの扉から勢いよく女の子が飛び出した。全体的に黒を基準とした服装に、所々に青が含まれたデザイン。銀髪の髪を片方だけ束ね、腰には細身の剣を身に付けている。
「あ……っ!」
気付いた時には、既に私の隣を通り過ぎた後だった。そのまま走り抜けていくのを見て、私は慌てて後を追う。
「ま、待ってください! あなたにお話が……!」
徐々に距離が離れていく。恐らく私の声は届いていないだろう。それよりも、日々の鍛錬を欠かさず行っているにも関わらず、子供の速度についていけないとは不甲斐ない。いや、あの子の足が速すぎるのでは……? それでも見失わないよう、私は必死に彼女の後を追いかけて行くのであった。
◆
「話、ですか……」
女性の言葉に、俺は表情を曇らせる。
( 何故かって? そりゃあ 思い当たる節がつい数分前に起こったからだよ )
恐らくキルドでの一件について問いただしに来たのだろう。見たところ騎士のようだし、下手に答えればこの場で捕えられるかもしれない。
「あの……迷惑なら、もう街から出ていきますんで……」
「え……? 迷惑だなんて思ってませんよ?」
首を傾げつつ、キョトンとした様子で俺を見詰める。
「私はただ、あなたを救いに来たんです」
まるで子供と話すかのような優しい口調で女性はそう答えた。対する俺は困惑するばかりだが。
「は、はぁ……」
「何か辛いことがあったのなら、無理に答える必要はありません。ですが……どうか私の話を聞いてはいただけませんか? 少なくとも、私はあなたの味方でありたいと思っていますから」
真剣な様子で語りかけてくる女性。なるほど、恐らく俺を身寄りのない子供か何かだと思っているのだろう。ひとまずギルドでの一件とは関係がないらしく、安堵の息を零す。
「まぁ、話くらいなら構いませんよ。俺……じゃなくて! わ……私もできれば、敵とか作りたくないんで」
あまりこの姿で俺とか口にしない方が良いのだろうか。とりあえず、人前でのみ普通の女の子として振舞っておこう。慣れない口調には違和感を感じるが、仕方ない。
「ふふ、ありがとうございます。ここで立ち話も何ですし、少し街を歩きませんか? あっ、でも走るのは無しですからね!」
そう言うと、不意に女性は俺の手を握ってきた。突然のことに驚きつつも、手を引かれるままに彼女の後に続いて歩き出す。女性と手を繋ぐなんて、生まれて初めての体験だ。まぁ、今では俺も女の子なのだが。それでもかなり緊張してしまう。
「宜しければ、名前をお伺いしてもいいですか?」
「あ、あぁ。名前は月島……こほん、ノーラです」
やはり咄嗟に答えようとすると、"俺"として答えてしまいそうになる。間違いと言う訳でもないが、今後の為にも慣れておかないといけないな。
「ツキシマノーラさん……ですか? 独特な名をお持ちなのですね」
「いや、ノーラです! 最初のは言い間違えて……」
「うふふ、ノーラさんですね。私はセレシアと申します」
そうして俺とセレシアは、街中を巡りながら話に花を咲かせていた。恐らく俺の緊張を解すために、こうして親しく接してくれているのだろう。しかし、セレシア自身は純粋に楽しんでいるようにも見える。……仕方ない。話の本題には敢えて触れず、今は彼女の行動に付き合うことにしよう。
とは言え、彼女と過ごす時間は本当に楽しく思う。人付き合いの苦手な俺でさえそう感じるほどだ。きっとセレシアは子供のみならず、人との接し方が上手いのだろう。
「ノーラさんっ、今度はあのお店に行ってみましょう!」
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