100倍スキルでスローライフは無理でした

ふれっく

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第一章 銀髪の少女

第九話 人生初の友達

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「すっかり暗くなってしまいましたね」

 辺りを見渡しながらセレシアが呟いた。正直、途中からは彼女の食べ歩きに付き合っているようだった。
 俺もいくつかおごってもらったのだが、申し訳なさとセレシアの食べっぷりを目にあまりお腹に入らなかった。けれど、セレシアと過ごした時間はあっという間に終わったように思う。それ程に、俺も楽しんでいたのだろう。

「他にも行きたい場所があったのですが……」

「……いや、もう十分なんで」

 まだ食べる気だったらしい。まぁ、日頃からその分動いてるのかな。

「ノーラさん、街には慣れましたか?」

「うん、おかげさまで色んな食べ物が知れたよ」

「あ、ぅ……すみません……」

 しょんぼりとした様子でセレシアは呟いた。ちょっと可愛い。

「まぁ、この街の良さも十分伝わりましたから」

「……ほ、本当ですかっ?」

 ずい、と俺の方に顔を近づけてくる。

「あ、えっと……うん。セレシアさんのおかげで」

「ふふっ、そう思っていただけたのなら幸いです」

 笑顔を浮かべるセレシアを目にし、口元が緩みそうになるのを堪える。彼女の反応はいちいち可愛くて仕方がない。

「……あの、セレシアさん。一つ聞いてもいいですか?」

「……? はい、なんでしょう?」

「そろそろ教えてもらえませんか。セレシアさんが私を追い掛けてきた理由を」

 街中を歩いている時も、セレシアからその話を切り出すことはなかった。だから俺も今まで気にしないように振舞ふるまっていたが、何時までもそうしている訳にもいかない。

「最初に言った通りですよ、私はあなたを救いに来たんです」

 俺の目を見詰めつつ、セレシアは言葉を続ける。

「子供が一人で街を訪れたという報告を聞いた時に、居ても立っても居られなくて。……私ってこういう性格ですから、よくお節介だと言われちゃうんですよね」

「その子供っていうのが……」

「はい、ノーラさんです。最初はすぐに孤児院へ案内しようと思っていたのですが……」

 なるほど。確かに俺の身体は少女そのものだし、周りからは孤児に見られていたのかもしれない。

「じゃあ、すぐに孤児院へ連れていこうとしなかったのはどうしてですか?」

 その言葉を聞くと、次第にセレシアは表情を曇らせていく。

「……似ていたんです、妹に」

「妹……それって、セレシアさんの?」

 俺の返答に小さく首を縦に振ると、視線を落とした。

「喋り方や仕草は全然違うんですけど、ノーラさんの姿や雰囲気が、私の妹にそっくりで。……ごめんなさい、それでノーラさんを妹と重ねてしまったんです」

 遠回とおまわしな内容に、何となくさっしが付いてしまう。恐らくセレシアの言う妹は、もうこの世には居ないのだろう。

「で、ですが……! ノーラさんを妹の代わりにしていた訳ではないんです! 純粋じゅんすいに、ノーラさんと過ごす時間は楽しかったですし、それに……まるでお友達ができたみたいで嬉しかったのも本当で……」

「大丈夫、ちゃんと分かってますよ」

 こんな時、どう声を掛ければいいのか。上手い言葉を考える以前に、俺は彼女の辛そうな顔をこれ以上見たくはなかった。

「私も、セレシアさんと居て楽しかったですよ」

「……ノーラ、さん?」

 セレシアの手を包むように両手で握り、俺は言葉を続けた。

「一緒に美味しいもの食べたりとか、色んなところを歩いて回ったりとか。私は今まで、そうやって誰かと過ごすなんて事、したことなかったんです」

 そうだ、俺は今までずっと孤立こりつしていた。そんな俺だったから、誰かと過ごすことが楽しいだなんて思えなかった。

「……けど、今日初めてわかった。一人で居るより、誰かと一緒に居る方がずっと楽しいんだって。私にそう気付かせてくれたのは、セレシアさんなんですよ」

「でも、私はそんなノーラさんの気持ちを裏切るようなことをして……」

「裏切られたとか、私は全然思ってないですよ。まぁ、セレシアさんの食べる量には、予想を裏切られたような気もしますがね……」

「そ、それは今関係ないじゃないですか!」

 むすっと頬を膨らませて怒るセレシアに、俺は小さく笑を零した。

「さっき、他にも行きたい場所があったって言いましたよね? じゃあ、今度また一緒に行きましょう」

「え……? また一緒に……良いんですか?」

 首を傾げるセレシアに、俺は一言呟いた。

「だってもう、友達みたいなものですし」

 今まで人との関わりを避けてきた俺だが、セレシアと関わる中で嫌悪感を抱くことは無かった。友達のようだと言ってくれた彼女だからこそ、俺はセレシアと友達になりたいと思ったんだ。

「……えへへっ、そうですね!」

 ほんのり頬を赤らめながらも、セレシアは俺に笑顔を向けた。

「改めて……よろしくね、セレシアさん」

「はいっ! 不束者ですが、どうかよろしくお願いします!」

 ……なんだか嫁入よめいりみたいな言い方をされた。まぁでも、セレシアに笑顔が戻ってよかった。やはり彼女には笑顔が似合う。

「さて、私はそろそろ宿に行かないと」

「宿……? もしかして、ノーラさんって冒険者ぼうけんしゃの方なんですか?」

 セレシアは目を丸くしながら俺に尋ねた。そう言えば、俺を孤児院に連れていこうとしてたんだっけ。

「まぁ……そんなところですかね」

「そうだったんですね。今思えば、確かにノーラさんって、見た目に反して大人っぽいですし……」

 まじまじと見つめてくるセレシアから、俺はそっと視線を逸らした。

「あはは……。そう言えば、セレシアさんは此処に居ても大丈夫なんですか? もう夜ですけど……」

「………あぁっ!」

 大丈夫じゃないんだろうなぁ。徐々に青ざめていくセレシアだったが、やがて諦めたかのように小さくため息を零した。

「すみません、話し込んでしまって……」

「ううん、気にしなくていいですよ」

 俺は首を横に振る。むしろ、俺のために時間を割いてくれたんだ。彼女を責める理由なんてない。

「それじゃあ、私はそろそろ行きますね」

「……ぁ、ノーラさん」

 その場を後にしようと歩き出した時、セレシアに名前を呼ばれて振り返る。

「次からは、セレシアと呼び捨てで呼んでください。もちろん、敬語も禁止ですからねっ」

「えっ!? な、なんでですか……?」

「なんでって……友達だから、ですよ」

 柔らかな笑顔を浮かべ、セレシアは答えた。

「私たちは友達なんですから。遠慮えんりょしたり、かしこまったりするのは禁止です! ……いいですね?」

 確かにセレシアの言うことはもっともだ。なら、俺は彼女に応えるしかないな。それもまた、友達というものだろう。

「……わ、わかったよ、セレシア」

「ふふっ、また一緒に食べ歩きましょうね!」

「その時までに、少しでも胃袋を鍛えておくよ」

 そうして俺は、走り去っていくセレシアの……友達の背中を眺めていた。
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