ビジネス・オブ・異世界

松村レイ

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第一章 ラウス湖ビジネス編

第十二話 再来

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 午前11時。

「スズキガエル食堂開店ですー!」

 シャッターの開閉ボタンを押す。

 心臓はバクバク。

 ミリはそんな顔を全く見せない。

 足が見えた。

 あ、いる、いるぞ、客が!

「いらっしゃいませ!」

 シャッターの向こうには見慣れた客の姿が。

「開店おめでとう、スズキくん」

 遥か上から見下ろすほどの身長とゾウのような巨大な身体。

 ドン・モンテカルロだ。

 記念すべきスズキガエル食堂の客の第一号はこの男だった。

「い、いらっしゃい」

「なんだ、元気がないな。どれ、看板メニューをもらおうか。この‥ラウスズキタピオカ?」

 あまりの驚きに言葉が出なかった。

 隣を見ると、ミリは既にタピオカを作り終えていた。

「はい、どうぞ!ラウスズキタピオカです!」

 全く緊張を見せないミリ。

 こういうところは見習わなくてはならない点だ。

「あぁ、ありがとう。どれ、ラウスガエルの卵は既に実食済みだが‥なるほどな」
 
 その後、黙って帰っていった。

「どうなんだよ、ドン・モンテカルロ!」

 チャックが閉まりきっていた口が不意に開いた。

「素材の良さをよく活かせてる。だが、名前がちょっと長いかな。たまには俺の店にも来てくれよ?」

「店?」

「ライバル通し仲良くしようや」

 ライバル?

 『ラウスタピタピ』だ。

 既に先手は取られていたようだ。

 ビジネスは情報戦。

 そう考えてみると、あいつは俺のことを知っていたし、ラウスガエルの卵についても知っていた。

 初戦は敗北。

 大敗北。

 だが、心情は落ちるどころか、寧ろ上向きになった。

「勝ったね、ミリちゃん達が」

「勝った?負けだろ、いろいろ」

「でもあの人タピオカ飲んだ瞬間、悔しそうな顔してたよ?」

 そうなのか、じゃあ五分五分なのか。

 さらに心は上向きというか負けられない。

 今後、ドン・モンテカルロとは何かがありそうな予感がしてならなかった。

 あっという間に1日が終わった。

 1日の終わりには店の二階で計算を繰り返す。

 夜は算数、昼は体育。

 脳はフル活用されるため、よく寝れる。

 思惑通り一番の売れ筋はタピオカ。

 巷では『スズタピ』として知られつつあるらしい。

 今日の最終的な利益は15万ゼニー。

 お土産と合わせると20万ゼニーに近づく。

 いいペースでは来ている。

 暫くはこのペースで続けていけば、営業は続けられる。

 しかし、流行とは一過性。

 嵐のようなものだ。

 来た時には激しく、去った時には静かになる。

 気がつくと、いつのまにか眠りについていた。

 ようやくここに店を出せたことに一喜一憂はできないが、今まで味わったことのない充実感があった。

 前世含めて。

『現在プラス90万ゼニー』
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