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第一章 ブラック・シーカー
第四話 逃亡
しおりを挟む気がつくと、まず最初に感じたのは振動。
何かの上に乗っているのか?
はたまた捕まったのか?
記憶が曖昧になっていて整理が追いつかない。
まず、俺は檻の中にいて、そのあと小娘と一緒に落ちて、それから。
「こ、ここはどこだ?」
「落ち着いてください、私です、アリスです!」
聞き覚えのある声が前方からした。
「小娘、俺はどうなったんだ」
いまだに整理できないこの状況に戸惑いを隠すのに時間がかかった。
「あれから馬を買い取って、王都を離れました。そしてそこから100キロほど走って国境に向かってます。取り敢えずこの国をでなければ私たちの身の保証は無いも同然なので」
あれから王都を出ることができたのか?
だがしかし王都の警備を潜り抜けるには相当骨が折れるはずだが。
そうこうしているうちに再度眠気が襲ってきた。
「また寝る」
「え?ちょっと待ってください!」
アリスの言葉を無視してシンヤは二度目の就寝についた。
小鳥のさえずりが聞こえた。
しかしそれはシンヤにとってはとても不自然な現象だった。
100年間地上1000メートルで朝を迎えていた為、鳥の声は聴き慣れない音だった。
どうやらここは洞穴の中らしい。
わずかに見える光から朝を迎えていることがわかった。
隣をふと見るとアリスの姿があった。
蹲って寝ている姿から相当疲労を抱えているのだろう。
光のする方向に歩いていくと、外には先日乗った馬がいた。
こちらもなかなか疲れているらしく足を折りたたんで地面に伏せていた。
木々を抜けていくと、川岸にたどり着いたので顔を洗った。
水の冷たさに驚くものの、100年ぶりの天然水の清らかさに感動した。
よく目を凝らしてみると、川の中に魚を発見した。
「生きている川魚を見るのもはて何年ぶりか」
タイムスリップでもしてきたのかと言う感覚に陥りながらも二匹の川魚を取ることができた。
大分体の調子も戻ってきたようだ。
洞穴に戻ると早速火を起こし、二匹の川魚をそれぞれ木の枝で突き刺し、炙ることにした。
川魚から油が滴り、思わずよだれがこぼれた。
乾いたパンとマズい水から解放されたことに生を感じた。
「なんかいい匂いがするー?」
アリスが川魚の匂いにつられて目を覚ました。
どっちが釣られてるんだ!というウマイツッコミを思いついたが、今の若者に通じるかが怖くなってやめた。
「起きたか、小娘」
「小娘じゃない、私の名はアリス・アークボルトです。」
「アークボルト?」
「えぇ、昨日も言いましたけど?本当に人の名前には興味ないのですね?」
「そうか、アークボルト王国の王女様か。」
「そうよ。私を殺す?」
「敵国の王女様が俺の目の前に無防備でいるんだぞ?殺さないわけないだろ?と言いたいところだが、お前は俺の命の恩人ときた。久しぶりに生の喜びを感じることができて深く感謝している。」
「そ、そう?別に私は助けた覚えはないわ。」
「そうか」
これ以上会話をしても水掛け論になるだろうと察して二人はいい具合に焼き上がった焼き魚にかぶりついた。
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