青い鳥と金の瞳の狼

朔月ひろむ

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はじまり 〜Side S〜

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話の合間をぬっては饗される食事。
海外の賓客のもてなしにも使われるこの離れ。
運ばれる料理は芸術の粋だ。
うちのホテルのプライドにも等しい。
そんなことはわかっているが、口に運ぶ食事の味はまともにしない。

目の前の僕の『見合い』相手は、こちらの方を見ようともしないで、黙々と運ばれた料理を食べている。
この場で会話をしているのは、貴俊の父と僕の母だ。
時折、彼の母と僕の姉が合いの手を入れる。
今回の設けられた席の当事者たる僕たちが話すことはない。
たまに話題を振られ、返事をする程度。

そんな中で得た貴俊の情報は、僕と同じW大にこの春から通うらしいということだ。
僕は政経学部だが、彼は理工学部らしい。
そして、今回は僕たち二人が番になる目的以上に、将来的に岸波精工を継ぐ貴俊のサポートを期待されての縁組らしい。
母や姉がこの『見合い』に乗った理由がようやく理解できた。

母も姉も一級のオメガである『青い鳥』に群がる有象無象など相手にはしない。
僕たちオメガの人権など無視して、体のいい『愛人』とされるオメガなどよくあるのだ。
特に男のオメガは、権力者の『愛人』として、慰み者にされる。
僕自身、幼稚舎から通うW大付属の学校で、父兄から同級生、上級生、教師に至るまで、様々な人間に寄って来られた。そのほとんどが『青い鳥』にあやかろうという下心の持ち主だった。もう僕自身、自身のオメガの体質にうんざりしていた。

母は自分の子供に最善を与えたいと常々口にしてきた。
その言葉は有言実行されており、僕の外出には常に護衛が付き、襲われないように守られてきていた。
そして、伴侶となる人物の選定には特に気を使ってくれたはずだ。
だから、僕は母の選んだ相手なら受け入れるつもりだ。
だって、自分で選んだって、番相手に裏切られる悲惨なオメガを見てきているから。
普通に結婚したって、一定数は離婚するんだ。
それなら、この『見合い』の相手でも僕はかまわない。
でも、相手はそうではないのだろう。

「私達だけで話して、あまり当人同士は話が弾んでないわね」
母の困った風な言葉に、誰が一人でペラペラと話していたのか、と心の中で毒づく。
「まあ、良いではないですか、佐々森さん。彼らはこれからたくさん時間があります」
「そうですわね」
貴俊の父と僕の母の温かい目線が僕達二人を見た。

「貴俊、蒼司くん。二人はこれから大学の四年間でお互いを良く知りなさい」
「そうですわね。番うことがいいのか、ちゃんと考えてほしいものです」
母の最初の結婚相手はアルファだ。
オメガの女当主の慣例を破り、母は運命の番を選んだ。
それでも彼女達は添い遂げることはなく、ベータである姉や僕達の父親と結婚するこで幸せを得た。
だから、母は政府や周囲の圧力など気にせず僕には番を選んで欲しいのだ。

僕の母の言葉に何を思ったのか、貴俊が僕の方を見ている。
その瞳は、黒曜石のような黒さなのに、時折金色の光を帯びている。
優秀なアルファである『狼』なのだと、実感する。
その瞳に見つめられれば、たいがいのオメガは魅了されてしまうだろう。
僕は背中がじっとりと汗ばんでくるのを感じた。
そこらへんのアルファの誘惑なんて弾くことが出来る『青い鳥』のオメガの僕でさえ、引っ張られそうになる。
『狼』のアルファなんて初めて会ったけど、こんなにすごいなんて。
そのせいで僕がまともに会話できないことを母は気付いているはずだ。

「これでお食事も終わりですし、あとは蒼司と貴俊くん、二人のペースにお任せしましょう」
「そうですな」
大人達がそそくさと立ち上がる。
「ちょっと、母さん!?」
思わず声を荒げてしまったが、母はウィンクを僕に返す。
二人きりにしないでくれ、と目線で訴えるが、母には黙殺されてしまったようだ。
「この離れは明日まで押さえてありますから、貴俊くんもゆっくりしていって下さい。入り用なものは、こちらで準備させますわ。蒼司、ちゃんとおもてなしなさい」
母に下された命令に、僕はがっくりと肩を落とす。
そんな僕の背中をポンポンと姉は叩き、そして僕たち二人を残して皆退出していった。

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