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はじまり 〜Side S〜
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どうやら僕たちは嵌められたらしい。
これはただの『見合い』ではなかったのだ。
見合いならば、少ない期間を経てお互いの相性を知った上で結婚が成立する。
けれど、これは違う。
この離れは呼ばなければホテルのスタッフは来ない。
つまり、番のいないアルファとオメガは二人きりに置かれたのだ。
しかも、明朝までだ。
ここでコトに及べというお膳立てだ。
そして、今日の席には政府の圧力がかかっていたのだろう。
佐々森家と岸波家。日本においてそれなりに力を有しているこの二家の力を持ってしても、かわせないものだったのだ、きっと。
むしろ、二人が高校を卒業するまでこの圧力と戦ってくれていたのかもしれない。
「おもてなし…」
先程の母の言葉を思い出す。
ここは佐々森が経営するホテルで、僕の勝手知ったる離れだ。
この重い空気をどうにかするのは僕の役目だろう。
「え、えっと…貴俊さ…ん?」
恐る恐る目の前の彼の名を呼ぶ。
庭を眺めていた視線が僕の方を向く。
ドキリと跳ねる心臓に気づかないふりをする。
「外、歩きませんか?ずっと座りっぱなしも疲れたので…」
ドキドキと心臓が早鐘を打つ。
どうやら彼は僕の提案に乗ってくれるらしい。
その場から立ち上がった。
「どうせ、ここからは出られないんだろう?」
「……多分。ごめん」
僕たちがこの離れのあるエリアから出ようものなら、きっと警備スタッフが飛んできて止めることだろう。
ここは、外国の要人も宿泊できるような建物だ。
それだけ隔離しやすく、逃亡も許されない。
きっと政府から、一夜を共にすることを望まれている。
稀有な『青い鳥』と『狼』のマッチングともなれば、成功以外許されない国家プロジェクトだろう。
人権なんてありゃしない。
優秀なアルファの貴俊はそこらへん十分に理解しているだろう。
だからこそ、乗り気じゃなかったのかもしれない。
「あの…」
庭へと出るために縁側へと足を進める。
そこにあった履き物を履いて先に庭に降りた貴俊が、僕の方に手を差し出す。
掴まれ、ということか。
「ありがとうございます」
僕はちょっと照れながらその手を取って、履き物へと足を入れた。
二人、並んで歩く場所は離れに付随する日本庭園だ。
この敷地からには誰も勝手には立ち入れないし、出れないだろう。離れの敷地の境の向こうに、人が立っているのが見える。
僕の目線を追って、貴俊もそちらを見た。
「このくらいの不自由なら、許容範囲内だ」
貴俊が僕の頭をさらりと撫でた。
「案内、してくれるんだろ?」
少し、貴俊が笑ってくれた。
彼の感情がのった表情を初めて見た。
「狭い庭だけどね」
普通よりかはゆっくりと足を運ぶ。
男の歩調で歩けば、この離れの庭なんてすぐに終わってしまう。
唯一出歩ける自由がある範囲なのだから、少しは堪能して、時間を潰したい。
午前11時より始まった会食は二時間かけてお開きになったので、今はまだ1時すぎというところだ。
夕食になるまでフリータイムが長すぎる。
「お前は俺といて平気なのか?」
立ち止まった貴俊が僕を見る。
僕より少し身長の高い貴俊に見下される。
その金色の光を帯びた瞳に見つめられるだけで、心臓の音がうるさくなる。
普通のオメガなら、ひとたまりもないのかもしれない。
「平気…ってどのくらいが平気なんだろ」
うるさく心臓が鳴るのがアルファに対しての反応として常のことなら、平気じゃないかもしれない。
「なんだよ、それ…」
僕の返答に、貴俊はちょっと呆れた様子だ。
「だって……」
こんなアルファに魅せられそうになったのは初めてだ。そう、口にしそうになってやめる。
室内にいた時、彼から発せられるアルファのフェロモンはすごくて、こんなにフェロモンに影響されそうなことなんて今までになかった。
「俺、オメガって苦手なんだ」
貴俊が自分の髪をかきあげる。
きれいにセットされた彼の髪が乱れる。
「僕だってアルファは苦手だよ」
何度アルファに襲われかけたか。
「お互い様ってわけか…」
彼は今までオメガに無理矢理オメガに誘引されたこともあるのかもしれない。
「お互い、大変だね…」
僕はクスクスと笑う。
優れたアルファはアルファなりに大変なのだと思えば、少し気持ちが軽くなった。
これはただの『見合い』ではなかったのだ。
見合いならば、少ない期間を経てお互いの相性を知った上で結婚が成立する。
けれど、これは違う。
この離れは呼ばなければホテルのスタッフは来ない。
つまり、番のいないアルファとオメガは二人きりに置かれたのだ。
しかも、明朝までだ。
ここでコトに及べというお膳立てだ。
そして、今日の席には政府の圧力がかかっていたのだろう。
佐々森家と岸波家。日本においてそれなりに力を有しているこの二家の力を持ってしても、かわせないものだったのだ、きっと。
むしろ、二人が高校を卒業するまでこの圧力と戦ってくれていたのかもしれない。
「おもてなし…」
先程の母の言葉を思い出す。
ここは佐々森が経営するホテルで、僕の勝手知ったる離れだ。
この重い空気をどうにかするのは僕の役目だろう。
「え、えっと…貴俊さ…ん?」
恐る恐る目の前の彼の名を呼ぶ。
庭を眺めていた視線が僕の方を向く。
ドキリと跳ねる心臓に気づかないふりをする。
「外、歩きませんか?ずっと座りっぱなしも疲れたので…」
ドキドキと心臓が早鐘を打つ。
どうやら彼は僕の提案に乗ってくれるらしい。
その場から立ち上がった。
「どうせ、ここからは出られないんだろう?」
「……多分。ごめん」
僕たちがこの離れのあるエリアから出ようものなら、きっと警備スタッフが飛んできて止めることだろう。
ここは、外国の要人も宿泊できるような建物だ。
それだけ隔離しやすく、逃亡も許されない。
きっと政府から、一夜を共にすることを望まれている。
稀有な『青い鳥』と『狼』のマッチングともなれば、成功以外許されない国家プロジェクトだろう。
人権なんてありゃしない。
優秀なアルファの貴俊はそこらへん十分に理解しているだろう。
だからこそ、乗り気じゃなかったのかもしれない。
「あの…」
庭へと出るために縁側へと足を進める。
そこにあった履き物を履いて先に庭に降りた貴俊が、僕の方に手を差し出す。
掴まれ、ということか。
「ありがとうございます」
僕はちょっと照れながらその手を取って、履き物へと足を入れた。
二人、並んで歩く場所は離れに付随する日本庭園だ。
この敷地からには誰も勝手には立ち入れないし、出れないだろう。離れの敷地の境の向こうに、人が立っているのが見える。
僕の目線を追って、貴俊もそちらを見た。
「このくらいの不自由なら、許容範囲内だ」
貴俊が僕の頭をさらりと撫でた。
「案内、してくれるんだろ?」
少し、貴俊が笑ってくれた。
彼の感情がのった表情を初めて見た。
「狭い庭だけどね」
普通よりかはゆっくりと足を運ぶ。
男の歩調で歩けば、この離れの庭なんてすぐに終わってしまう。
唯一出歩ける自由がある範囲なのだから、少しは堪能して、時間を潰したい。
午前11時より始まった会食は二時間かけてお開きになったので、今はまだ1時すぎというところだ。
夕食になるまでフリータイムが長すぎる。
「お前は俺といて平気なのか?」
立ち止まった貴俊が僕を見る。
僕より少し身長の高い貴俊に見下される。
その金色の光を帯びた瞳に見つめられるだけで、心臓の音がうるさくなる。
普通のオメガなら、ひとたまりもないのかもしれない。
「平気…ってどのくらいが平気なんだろ」
うるさく心臓が鳴るのがアルファに対しての反応として常のことなら、平気じゃないかもしれない。
「なんだよ、それ…」
僕の返答に、貴俊はちょっと呆れた様子だ。
「だって……」
こんなアルファに魅せられそうになったのは初めてだ。そう、口にしそうになってやめる。
室内にいた時、彼から発せられるアルファのフェロモンはすごくて、こんなにフェロモンに影響されそうなことなんて今までになかった。
「俺、オメガって苦手なんだ」
貴俊が自分の髪をかきあげる。
きれいにセットされた彼の髪が乱れる。
「僕だってアルファは苦手だよ」
何度アルファに襲われかけたか。
「お互い様ってわけか…」
彼は今までオメガに無理矢理オメガに誘引されたこともあるのかもしれない。
「お互い、大変だね…」
僕はクスクスと笑う。
優れたアルファはアルファなりに大変なのだと思えば、少し気持ちが軽くなった。
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