青い鳥と金の瞳の狼

朔月ひろむ

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春嵐 〜Side T〜

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朝早く、バタバタとマンションを出て、新幹線に乗り込む。
「僕、窓側でいい?」
二人席、窓側を蒼司へと譲る。
「窓側の方が好きなのか?」
「んー…信頼できる人といるなら、通路側より窓側かな」
「へ……?」
キョトンとした俺の顔を見て、蒼司がクスクスと笑う。
「ほら、匂うから…ね」
蒼司が意味深に唇だけで薄く笑う。
オメガ性を持つのは、こんなに不自由なものなのか。
この一ヶ月余りで蒼司の気の使いようを嫌というほど見てきた。
まずは外出時の首に巻くプロテクター。
朝の混雑する電車はなるべく俺と一緒に乗る。
むやみやたらとでかけないし、帰宅したら家にいることが多い。
家では家事と大学のレポートなど、それ以外に株で日々の小遣いを稼いでいるらしい。
「俺もなんかバイトしようかな…」
俺なんかは日々の遊ぶ金も親からの仕送りだ。
遊び呆けているわけではないが、今回の旅行に使われる遊興費はすべてお小遣いからやりくりする。
「何のバイトするの?」
「うーん…接客はちょっとなあ」
「接客なら貴俊目当ての人で大変なことになりそう」
いつもの大学の光景を思い出したのか、蒼司がニヤッとする。
高校と違って、大学は人が寄って来て面倒くさい。威嚇をかいくぐって俺に寄ってくる猛者を跳ね除けるのに労力がいる。
「僕は貴俊のおかけでだいぶ助かってる」
座席で距離が近いおかげで、ふんわりと蒼司の匂いが香る。
オメガの匂いが良いと感じることなんて今までなかった。

「今もこうやって新幹線に乗ってられるのも、貴俊のおかげ」
「蒼司……」
「ありがとう」
オメガというものは、アルファよりもなんて不自由なのだろうか。
『守ってやれ』と父親はそう俺に言った。
蒼司が俺のそばにいるだけで安心して電車に乗れるなら、それにこしたことはない。 
「じゃあさ、今度から大学の帰りも一緒に帰れる時は一緒に帰ろうか?」
「え……?」
蒼司を守りたい。
きっとこれは、アルファに備わった本質的な部分なのだと思う。
「まだ一年だから一緒に帰れることも多いだろ」
「でも……」
「俺が一緒にいたいんだ。だめか…?」
俺の方を見ていた蒼司が急に窓の方に顔をそむける。
やっぱり嫌なのかと蒼司をうかがうが、白い蒼司の頬がいつもよりほんのりあかい気がする。
もしかして、照れているのだろうか。
俺は蒼司に手を伸ばし、プロテクターの付いた首に手をかけこちらに引き寄せる。
「ちょっ……!?」
「蒼司、可愛い…」
目尻に溜まった水滴を指でぬぐう。
「もう…貴俊のばかやろ……」
冷めない頬と目に滲んだ水を隠すように、蒼司が俺の肩に頭をぐりぐりとくっつけた。

そんなことをしているうちに、新幹線は目的地の駅に着いてしまった。
「行こうか」
お互いリュックサック一つという軽装で、新幹線を降りる。
昨夜結局行き先は決まらず、駅にある観光案内のパンフレットを手に取り、決めることになった。
「これ、美味しそうじゃない?」
海に近い温泉地。
食べ歩きスポットはいっぱいありそうで、商店街へと向かって歩き出した。
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