青い鳥と金の瞳の狼

朔月ひろむ

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春嵐 〜Side T〜

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「また食べるの?」
旅といえば現地の食べ物の食べ歩きじゃないのか。
朝食は早くしかし昼飯にはまだ早い。小腹の空いた俺は、テキトーに美味しそうなものを買い食いしていたのだが、買い食い3つ目の団子の串を見て、蒼司がげんなりとした表情を浮かべた。
一口いるか?という俺の問に、蒼司は力なく首を振る。
どうやら蒼司は食が細いらしい。
いつもの食事は普通だからわからなかった。
一方現役でバスケを続けている俺は、高校時代よりはセーブしているとはいえ、結構食べる。三食+α食べないと保たない。
「だから蒼司は細いんだよ」
蒼司の腰に腕を回すと、女子かと思うくらいに薄い。
「気にしてるのにっ」
蒼司が俺の腕を叩いて外そうとする。
でも、離れてあげない。
最近蒼司にくっついてなかったせいで、彼の匂いを嗅いでしまったら無理だった。
「ちょっと、貴俊!!」
周囲の人に見られているのがわかる。
蒼司が離れようとして、俺の腕を取ろうともがく。
これは本格的に嫌がっていると感じて、今度はすんなりと腰から手を離して距離をとった。

「誰も知り合いなんかいないし、気にすることないだろ?」
今時、同性同士のカップルなんて珍しくない。どこに知り合いがいるかわからない都内ならわかるけど、旅先でまで気にすることもない。
俺はあまりそこらへんは気にしないが、蒼司はやっぱり気にするのだろう。
そもそも、蒼司は俺のこと、今回の『お見合い』のことをどう思っているのだろうか。
俺達は未だに二人で何も話していない。

「ごめん…気を悪くさせた?」
上目遣いで蒼司が考えこんでいた俺を見てくる。
「次、何食べるか考えてた」
「えー、マジかよ…」
蒼司が不安そうな表情から、途端にうんざりとした表情を浮かべた。
蒼司はすましていたら美人で取っ付きにくいイメージだ。
でも蒼司は色んな感情を顔に乗せる。そんな蒼司を俺は可愛く思ってしまう。
多分、俺は蒼司のことが好きだ。
アルファとオメガだから惹かれてしまいと言われればそれまでだけど。
でも俺は蒼司が大事で、守りたい。
こんな感情、今まで抱えたことはない。
どう彼に伝えようか。
蒼司はどことなく俺の想いを受け取るのを拒否しているような印象を受ける。
俺と蒼司には見えない壁のようなものがある。
そう感じていた。

「次はこれ行こう!」
観光地として紹介されていた神社に行き、その後に『名物!』というノボリの立った和食屋に入って昼食をとる。
二人共お膳を空にした後、どこに行こうかと話していた。
「ガラス工房?」
テーブルの上に置いてあるチラシを手に取り、蒼司が嬉しそうにこちらに差し出す。
「体験できるらしい」
キラキラという効果音が当てはまりそうなくらい大きな目で蒼司が訴えてくる。
「わかった、じゃ、そこに行こう」

そして俺達は、海辺に面したガラス工房で、お揃いのガラスコップを作った。
ちょっと歪な形になったのはご愛嬌だ。
水色と黄色の二つのコップをそれぞれリュックにしまい、海を眺めながら、ホテルへと向かうことにした。
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