○○○○の死亡推理

海夏世もみじ

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第25話 Replica-③

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「――さて、犯人くん。これで終わりにしようか」

 レオパくんとグラウンドで別れた後、ボクは授業中だっただろう体育館内までやってきていた。バレーボール用支柱が立っており、ボールがあちこちに転がっている。

 校舎はあの共犯者くんがドローンで偵察をしており、殺したい江ヶ崎を見つけ次第犯人くんに連絡するだろう。だが報告がなかったため、少し離れた体育館に逃げていると考え、ここにやってきたと。
 相手は放出した墨の色を変える異能力。乾いたら元の黒い墨へと戻る。もう何十回とやり直しているし、そろそろ終わらせよう。

「異人専門の名探偵、ウジナシクウナ……。噂には聞いておりましたが、果たしてワタシを探し出せるでしょうか?」
「まぁ、君じゃあボクに勝てないよ」
「大きな口ですね。閉じさせていただきます。【艶墨グラフィック:γ】」

 もうそのセリフも、異能力の名も聞き飽きた。心の中で生じたその煙を胸から吐き出し、拳銃を構える。
 体育館の背景に溶け込んで姿を消す犯人くんだが、私はドジで転ばぬようゆっくり前に歩きながら、転がっているボールに銃弾を放った。
 空気が抜けて足元を駆け転がるボールたちを一瞥し、何もない空間に向かって銃弾を放つ。

「ぐッ……⁉ な、なぜワタシの場所がバレて‼」
「…………」

 無から苦悶の声が響く。実にありきたりな聞き飽きたセリフに辟易しつつ、無言で弾倉を再装填リロードをする。
「〝モードチェンジ・覇銃ハンドキャノン〟」

 ボクの手の中でガチャガチャと音を立て、ありきたりな拳銃からいかつい形へと姿を変える。

 そして、スタート合図か、それとも弔砲かのように天井に銃弾を放った。鼓膜を破る轟音が響き渡り、反動で腕が千切れそうだ。
 狙ったものはどこの学校の体育館にも必ず一つはあるもの、それは天井に挟まったボールだ。それを撃ち抜くと隙間から零れ落ち、当たり前に落下する。
 地面に落ちることなく、空中でバウンドしたそのボールの位置に向かって銃を四発。

「ぐ、うヴ……‼」

 犯人くんのうめき声など知ったこっちゃないので「はい、王手」と言い放って行動に移す。
 バレーネットの両端にある支柱、そのつなぎ目である紐を弾丸で千切り、透明人間の捕獲が成功だ。
 ミノムシのようになったそいつに、まだ熱を帯びている銃口を向ける。両膝、肩甲上腕関節もとい型と腕をつなぐ間接を撃ち、身動きが動けないようにしたのだ。

「な、なぜ……ッ! なぜこうもいとも簡単に……‼」
「三百八十九回」
「……? なん、ですか」
「ボクがをした回数さ」

 ボクの異能力は事件を再現、解決し、死者を蘇らせるもの。ボクがという事件を引き起こせば、再現と解決という過程を飛ばして死に戻りのみができる。
 能力発動に回数制限なんてないので、ボクが諦めない限り負けることはない。今回は少ない時に戻りで収束したが、それでも面倒なことには変わりない。やはり戦闘要員がいる。

「最初にボールの空気を抜いて転がらせたのは、山勘で撃っていると思わせ、ボールを踏まないようにと思考を巡らせてがら空きになったところを撃つため。天井のボールを落としたのは触腕のガードを緩めるためだよ~。復讐だか何だか知らないけど、残念だったねぇ。
 君の異能力は実に洗練されたものだったよ。異人は後天的になるもので、能力を使えるようにウイルスが体を作り変える必要がある。故に一つの能力しか使えず、自然と磨かれる……。けどまあ、ボクの方が異能力のレベルが高かったということさ~」
「くっ……〝復讐〟とはッ! 過去の呪縛を解き放ち、未来の自分への原動力となるものだッ! こんなところで未来を潰えるワタシではないのだ――‼」
「あっそ。言えることは一つさ。君の信念よりボクの信念のほうが強かった、ただそれだけだよ」

 さて、と呟き、銃口を向けながら下唇を噛んでいる彼に問うた。

「君の復讐は、その中学校の頃の虐めで始めたものなのかな?」
「……えぇ、そうですよ。当時はわけもわからず皮膚から墨が滲み出て、それのせいで忌み嫌われ、いじめがエスカレートして殺されかけたことも多々ありましたよ。
 そんな奴らが今、悠々と暮らしているのが許せないのですよ! あの日から心に誓っていたのです、あの下種野郎どもを一網打尽にし、真に素晴らしいいじめがない世界を作ると‼」
「ニンゲンは変わる生き物だ。だからと言って過去の罪を帳消しにできるとは限らないが、君のやり方は一線を越えてしまったやり方だ。復讐に駆られ、心までニンゲンをやめてしまったというわけだ」

 正義を語り悪が勧善懲悪をするとどうなるか、実に目に見えている。
 ボクら異人は自分自身に問いかけ続け、正義か悪かをきちんと判別できるようにしておかなければならない。超越した力はニンゲンを狂わせ、心までバケモノに変えてしまうのだから。
 さて、こっちも終わったことだし、レオパくんの助太刀にでも行こうかな。ま、あっちも終わっているだろうけれど。


  #  #  #


 ママ記憶を見たのは、大体数秒の間だったようで、目の前の戦況はさほど変わっていない様子だ。

「いやいやいや、ママの戦い方全く参考になんないんだけど! 私一日に五回しか死に戻りできないんですけど⁉」

 約四百回の能力行使など、私の八十倍の回数。しかも十五年前とは状況も違うので、さらに回数を重ねなければ勝てないだろう。幸いにも過去の記憶の回帰で回数制限は消費されないようなので、今日死に戻りが使えるのは残り四回。
 勝機はパパが帰ってくることしかない。と言いたいところだが、ママは一つだけヒントをくれていた。

「私なら、アレをできるかもしれない――‼」
「油断は禁物ですよ、円羽さん」

 背後から声が響く。既に透明化して近づいてきていたみたいだ。これは間に合わないかもしれない。

「【死亡推理カルペ・ディエム】――〝複製しろreplica〟‼」
「遅いです。【艶墨グラフィック:γ】」

 首に季節外れの生暖かさが伝わる。マフラーを巻くように彼の触腕が肌に吸い付いており、ミシミシと音を立てていた。
 そして、首に激痛を超えた痛みが走る。

(やばっ――〝死に戻れRestart〟‼)

 意識が途切れる前に能力が発動し、触腕が私の首に巻き使える前まで私の時間は巻き戻る。

「これは彼女の異能力……」
「驚くのは早いんじゃない~?」

 無防備な背中をさらけ出し、微動だにしない私に油断していたのだろう。だからこそ、私の発砲に気が付けなかった。
 私は息を吸って肩が動いているようにしか見えなかっただろう。だが、銃声が響いて背後から鮮血が飛び散る、

「なッ⁉ なぜ、それは……〝ワタシの異能力〟――ッ⁉」
「ご名答。使わせてもらったよ――【艶墨グラフィック:γ】」
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