269 / 537
11章
改革と鬼母との晩餐
その後数日、家や村を囲っている機能していない柵の修理もお手伝い。ジルとグレンは乗り気じゃなかったけど、私がチョロチョロと動く度に手伝ってくれた。
村人に簡単な計算についての青空教室も実施。
この頃には兵士と村人はよく話をするようになっていて、私達やガルドさん達に対しても奇異な視線を送ってくることはなくなった。
むしろ、ルシールさんやシューネさんやクエバさんよりも、なぜか私達には腰が低い。あの薬草採取時に偉そうにしていた子ですら「セナ様は何でも知ってるんだな」と〝セナ様〟呼び。
連日肉体労働をしている兵士さんも汚れが目立ってきたので、急遽露天風呂も作った。
兵士さん達には好きに使ってもらうけど、問題はお風呂を見たことすらない村人だ。前に王都マルマロで孤児の子達を洗ったとき同様、強制的に常に土まみれの村人を洗ってお風呂に入ってもらう。
露天風呂は私以外お湯の管理ができないため、私がいる間だけ。
それを知った村人の何人かはシューネさんに、お風呂は自宅に作れるのか聞いていた。
その村人はお風呂の魔道具は高いことを聞いて意気消沈。あまりにも落胆していたので「村人でお金を出しあって、みんなで使えるお風呂を作るのもいいかもね」とアドバイスしておいた。
魔法を鍛えれば自分で作れるけど、魔法に慣れていない村人には危険だとクラオルから注意されたので伝えていない。
お風呂の魔道具は大きな物になればその分高くなるけど、そこは言わないでおく。シューネさんには「さすがセナ様! 商売が上手いですね!」なんて言われてしまった。そんなつもりはなかったのに……
村は以前とは違い、日中でも老人以外が出歩くようになった。子供達は無邪気に村の中を走り回り、大人達も余裕が出てきたのか、村には笑顔が溢れている。
結局、六日ほど滞在して、私達は村を後にした。
◇ ◆ ◇
一緒に戻って来たルシールさん達と別れ、私達は宿へ。
ジルの紅茶を飲みながら、ソファで一息つく。
「ちょっと疲れたねぇ……」
〈ふむ。だが、また明日からレシピの話をするんだろ?〉
「そうなんだよね。それに今日中にアーロンさんに手紙書かないとだし、夜はルシールさんのところに行かないとだよ」
『主様が休む暇がないわ』
クラオルとグレウスがスリスリして私を癒してくれる。
私の気の重さはルシールさん宅で夜ご飯を食べなきゃいけないせい。「セナ様にお礼をしないなんて、とんでもない! 他の貴族に示しがつきません!」なんて言われた私は押しに負けた。
別部屋に泊まるガルドさん達に聞いてみると、ガルドさん達も時間まで部屋でくつろぐらしい。
アーロンさんへの手紙を宿の店主に頼み、私達はコテージへ。
グレンとジルはルシールさん宅のご飯が期待できないと、私が作った筑前煮を食べている。鍋ごと出したから、例えルシールさん宅で美味しくないご飯が出ても大丈夫だと思う。
私はゆっくりとお風呂に入り、ベッドでクラオル達をモフモフさせてもらう。
「あぁ……モフモフって素晴らしい……」
『ふふふ。主様ったら。今にも眠っちゃいそうじゃないの』
「癒されるぅ……」
クラオルの『起こしてあげるわ』という声を聞いて、私は眠気に逆らうことを止めた。
◇
クラオルとプルトンに起こされ、私は眠気眼のまま宿に戻る。
ジルの紅茶で頭を覚醒させていると、ほどなくしてルシールさんからの使いの人が訪れた。わざわざ馬車で迎えに来てくれたらしい。
馬車二台にガルドさん達と分かれて乗り、ルシールさん宅へ。
ルシールさんの家は今まで見てきた貴族の邸よりは小さいものの、前庭にオレンジ色のナデシコみたいな花が咲き乱れる女性らしい雰囲気。権力やお金持ちアピールがないため、私も入りやすい。
ガルドさん達と一緒に邸の中に入ると、ルシールさんに出迎えられた。
ルシールさんは割烹着は着ておらず、上質な布のロングワンピース姿だった。胸元の大きな宝石ブローチが上品な高級感を漂わせている。
割烹着がデフォルトだと思っていたけど、勘違いだったらしい。
早速、食堂に案内してもらう道中、廊下や窓辺には花瓶に花が生けてあって、ルシールさんの花好きが窺える。
ルシールさんはある扉の前で「こちらです」と足を止めた。
中はさすが貴族! って感じの長テーブルとイス。映画やマンガで見ていたけど、実際に見るのは初めて。さらに壁際には十人以上の執事さんとメイドさんが並んでいる。
食堂の雰囲気に呆然とする私に「席までご案内致しますわ」と、ルシールさんはニッコリと微笑んだ。
すると、壁際に並んでいた執事が寄ってきて「セナ様はこちらにお願い致します」と席に座らせてくれた。グレウスやジル、ガルドさん達も一人一人案内されている。
左から順に、ルシールさん、私、グレン、ジル。向かい側は一席空けて、ガルドさん、ジュードさん、モルトさん、コルトさんだ。
なぜか私はルシールさんの隣りだった。
私達が全員着席すると、ルシールさんも席に座り、パンパン! と手を叩いた。
それが合図だったかのように、入って来たのとは別の扉から料理が運ばれてくる。
「皆様の好みがわからなくて……乾杯の白ワインのみ用意してあります。エールや赤ワインなど、ご希望があれば給仕にお伝え下さい。セナ様とジルベルト様には僭越ながらフラゴラの果実水をご用意させていただきましたわ」
ガルドさん達は緊張からお酒を頼む余裕はなく、グレンだけが赤ワインを頼んだ。
ルシールさんの乾杯の音頭で食事がスタート。
日本とは違って、この世界の大食い具合故か……初っ端から前菜とは思えないくらいの量。私とジルは子供用なのか少なめだけど、グレンやガルドさん達は私の二倍もある。今はまだいいけど、二、三品食べたらおなかいっぱいになりそう。
この世界のマナーがよくわかっていない私は、日本で行ったそこそこ高級レストランを思い出しながらナイフとフォークを進めていく。
超高級レストランなんか行ったことないからね!
フルコース形式の執事やメイドに見られながら食べるのは、正直緊張する。やっぱりみんなで和気あいあいと食べるご飯の方が好き。
「マナーなどは気にせず、お好きに食べてくださって構いません。それにしても……セナ様とジルベルト様は所作がキレイですのね」
「ありがとうございます」
微笑みながら満足そうに頷くルシールさんに、及第点をもらえたみたい。
マナーを気にするなって、こんな会場で慣れないフルコース形式のご飯が出されたら普通は緊張しちゃうよ!
まぁ、緊張しているのは私とガルドさん達だけで、ジルは慣れたように、グレンは本当に気にしないでナイフは使わずフォークをぶっ刺して食べているけど……
「本当にこの度の一件には感謝してもしきれません。アーロン陛下より、セナ様は料理がお好きと伺っております。本日の食事はサフロムの街で採れる食材をメインで使っております。何か気になる点やご希望の食材がありましたら、仰って下さい」
「わぁ~。ありがとうございます!」
そういうことなら、ただ食べるだけじゃもったいない。
ジュードさんを見てみると、目が合った。きっとジュードさんも思っていることは同じだと思う。
(使えそうな食材か見極めないと!!)
実物も見たいし、他の調理法も聞きたい私は食べ終わった後、料理人さんと会わせてもらえないかとお願い。私とジュードさんの様子にルシールさんは笑って快諾してくれた。
やる気が上がった私は、鑑定で入っている食材を調べて、頭の中にメモしていく。
あなたにおすすめの小説
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜
シュガーコクーン
ファンタジー
女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。
その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!
「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。
素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯
旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」
現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
過保護すぎる家族に囲まれて育ったら、外の世界が危険すぎました 〜冷酷公爵の父と最強兄たちに溺愛される日々〜
由香
恋愛
過保護な父と兄たちに囲まれて育った少女。
初めての外は危険だらけ——のはずが、全部“秒で解決”。
溺愛×コメディ×ほんのり成長の、ほっこり家族物語。
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。