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11章
腐呪の森【3】
◇
森の中心に差し掛かると、そこは幻想的な空間だった。
キラキラと何かが空気中を漂っている光景に、惹かれるように足を進める。
そこは直径三メートルほどの真っ白な泉を中心に開けていて、その泉の淵に一本だけ森の木々よりもはるかに背の高い木が生えている。その木にはカラフルな何かが実っているのが見える。
煌びやかな鱗粉を撒きながら透き通る色とりどりの蝶々が優雅に舞い、白いスライムがあちらこちらでプルプルと体を震わせていた。
「なんかキレイだねぇ~。恐ろしく臭いけど……」
反応がなくて近くにいたグレンを見上げてみると、般若のような顔をしていた。ジルとコルトさんも顔を歪ませている。あまりの臭さに反応できなかったみたい。
スライムも蝶々も私達に襲い掛かってくるわけではなく、私達の存在を気にもしていない。
とりあえず鑑定をかけてみると……
「キャーー! やばーい! ここ最っ高!!」
一気にテンションがぶち上がった私にみんなは目が点。
エルミスだけはクスクスと笑いながら《どれが欲しいんだ?》と聞いてきた。
「全部だよ! 全部!」
《ククク。全部か。主よ、ウェヌスを呼べ》
「へ? ウェヌス?」
《あやつは万能だからな。早く終わらせられる》
〈セナ! 早く呼べ!〉
エルミスの発言でグレンに急かされてウェヌスを呼ぶと、ウェヌスは現れた瞬間《ぐふぅ!》と腰を折って悶絶。
眉間にシワを寄せながらも《セナ様のためならば……》と協力してもらえることになった。
「まず、ビネーガ蝶の鱗粉! 蝶々じゃなくて鱗粉ね!」
みんなに指示を出して手伝ってもらう。私はスライムに手を突っ込んで核の確保。
ビネーガ蝶の鱗粉はお酢の粉。しかも色によって種類の違うお酢だった。おかげで、穀物酢・もろみ酢・すし酢・黒酢・米酢・リンゴ酢とバリエーション豊か。
なぜかワインビネガーやバルサミコ酢はなかったんだけど、これは酢があれば似たようなものが作れるから無問題。
ココナタスライムは名前からナタデココが作れるんじゃないかと予想。これはアテがハズレたらいらないものなんだけどね。
真っ白な泉はなんとヨーグルト! これは樽で確保したんだけど、パパ達にコテージと繋げて欲しいとお願いするつもり。
最後は木に実ってたやつ。カラフルだとは思ってたけど、赤い豆や緑の不織布のパック、茶色い小ビンとそもそもが違う形と色だった。
これも嬉しいことに、キムチの素・コチュジャン・甜麺醤・豆板醤・タバスコ・メンマの粉……と色々と手に入った。
しかも、酢が見つかったら作ろうと思っていたマヨネーズがビン詰め状態で存在していた。
なぜかドリアンやブルーチーズもあったし、使わないだろう臭豆腐の素や豆腐餻の粉、後はよくわからないけどハカールの粉ってやつもあった。鮫に振りかけて使うらしいけど、日本では聞き馴染みがないから、海外の食べ物じゃないかな? ただ、恐らく臭い。だって粉がもう臭うもん!
蝶々は鱗粉を全て採取されたため、弱ってフラフラ。スライムは数匹を残していなくなった。
どどん! と生えていた木は実が全てもぎ取られて……全体的に寂しい印象になってしまった。
「なんか……追い剥ぎみたいだね……」
さっきまでの幻想的な雰囲気がなくなった原因は私。ちょっと冷静になり、やりすぎたかなと反省――する間もなく、グレンに〈終わったなら去るぞ〉と急かされた。
採取しまくったのに臭いが変わらず……すぐにでもここから離れたいらしい。
「欲しい物は手に入れたから、転移で戻ろうか?」
パパ達と会ったときに私が転移をできることを説明しておいたから、コルトさんをわざわざ眠らせる必要はない。
頷いたコルトさんと一緒に馬車が置いてある入り口まで転移。
私達が「ただいまー!」と馬車に入ると、ガルドさん達三人に驚かれた。
一応プルトンには戻ることを報告しておいたんだけど、プルトンは驚かせようと黙っていたらしい。
「おかえりー! 昨日美味しいの見つけたんでしょー?」
「ふふふ」
「何だその含み笑いは……」
私のニヤニヤ顔を見て、ガルドさんは眉間にシワを寄せた。
「ずっと欲しかった酢が手に入ったんだよ!」
「ス? よくわからんが、よかったな」
「うん! 今日はご馳走食べられるよ!」
「ホント!?」
「それは嬉しいですね」
ガルドが顔を綻ばせて頭を撫でてくれている横で、ジュードさんとコルトさんがニコニコと笑っている。
◇
早速、私とジュードさんはコテージのキッチンへ。
はしゃぐジュードさんに使い方を説明しながら、料理を作ること二時間。大量の料理が出来上がった。途中、味見をしたジュードさんが大興奮で、落ち着かせるのに苦労した。
みんなを呼んで、ちょっと早いけど夜ご飯。
「順番に説明するね。コールスローサラダ、エビフライのタルタルソース、ツナマヨサンドイッチ、アンチョビピザ、エビとイカのシーフードピザ、オーク肉のマヨ味噌炒め、酢豚、チーズダッカルビ、白菜キムチ、キムチチャーハン、ニラチヂミ、麻婆茄子です!」
ほとんどマヨネーズとキムチ料理。今回は酢を使ったのは酢豚だけ。他の料理は小出しにしていくつもり。
私が指さしながら料理名を羅列すると、ガルドさん達はポカーンと口を開けた。覚えきれないらしい。
「全部美味しいんだよー!」
〈食べてもいいのか?〉
「もちろん」
〈いただきます!〉
「召し上がれ~」
グレンは早速オーク肉のマヨ味噌炒めに手を伸ばした。やっぱりお肉がいいらしい。
一口食べた後、バクバクと食べ始めたので気に入ったみたい。また〈シラコメは?〉とお米を求められた。
グレンに触発されたガルドさん達も食べ始め、感想も言わずにがっついている。
グレン達だけではなく、ガルドさん達もピザやキムチチャーハンをおかずに白米を食べていて、何でもおかずになるんだな……と肝心した。
私には真似できない。焼きそばに塩むすびがギリギリだよ……
今回はウェヌスも一緒。《あの臭いに耐えた甲斐がありました……》と噛み締めるように食べている。
ポラルはキムチに大喜びで、フリフリとお尻を振りながら、ひたすらキムチ料理に夢中。
たまにはみんなも飲みたいかな? とエールと日本酒も出した。
みんな食べて飲んでと忙しい。炭酸でおなかがいっぱいになる……なんてことはないみたい。
『美味しいわ! 神達がまた食べたがるわね』
「よかった。今回はパパ達のは作ってないんだけど、お願いがあるから教会に会いに行きたいんだよね。そのときに渡そうかなって」
『あら! そうなのね。ガイア様に伝えておくわ』
「ありがとう」
全部山盛りで出した料理はキレイに食べ尽くされ、お皿は空っぽ。
食後はジュードさんが感動を熱弁。
さらにおなかが落ち着いたころ、コルトさんからの森の出来事の報告が続き、夜は更けていった。
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