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15章

堕ちたドラゴン

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 朝、みんなが起きるのを見て、私は大丈夫そうだと肩の力を抜いた。

『ふわぁ……主様、もう起きてたのね。ちゃんと眠れた?』
「大丈夫だよ。ありがとう」

 目をコシコシとこすりながら心配してくれるクラオルを撫でる。
 ぶっちゃけかなり眠いけどね。後でこっそりアポの実食べよう。
 私が眠いのには理由ワケがある。


 夜中、誰かの唸り声で目が覚めたんだ。
 異常に暗くて、隣りで寝ていたグレンとジルがかろうじて確認できる程度。
 ゾワゾワと肌が粟立つ感覚にブルりと悪寒が走る。
 グレンは汗ビッショリで〈兄者……〉とうわごとのように呟いていて、ジルは何かに耐えるように震えていた。
 ニキーダやガルドさん達からもうなされている声が聞こえ、一体何が起きているのかわからなかった。

 呼んでも揺すっても起きない状況に、呪淵じゅえんの森での出来事が頭をよぎる。
 焦った私はこの気持ち悪さを払拭するように浄化と解呪を連発。さらに光魔法を地面に浸透させていたとき、精霊達が目を覚ました。
 それと同時に結界内だけ視界が晴れ、みんなからはスゥスゥと寝息が聞こえるようになった。
 それから精霊達と話をしながら警戒していたら、だんだん明るくなると共にはなりを潜めていき、陽が昇るころには元に戻った。


 一応疲れが取れるようにヒールをかけたからか、みんなは特に何も感じていないみたい。
 それとなく聞いてみたけど、うなされていたことも記憶にないっぽい。
 結界を張っていたのにも拘わらずみんながうなされて起きなかったことも、精霊達にも影響があったことも、私だけ何もなかったことも、全てが謎。



 朝ご飯を食べた私達はドラゴン姿になったグレンの手に包まれて出発。
 羽ばたいたグレンはまっすぐ火山に向かって飛んで行く。
 昨日と同じく、山に差し掛かったとき、またも咆哮と威圧が襲いかかってきた。
 私とプルトンの結界で守られているグレンは一瞬体勢を崩したものの、応戦するかのように叫び、スピードを上げた。

 火山は富士山のような綺麗な山型。ところどころから煙がモクモクと上がっていた。
 頂上の火口に近付くにつれて、山からの咆哮の頻度は上がり、常に威圧を感じるようになった。
 そのせいでアデトア君は気絶、ガルドさん達やニキーダ、ジルも顔色がすこぶる悪く、震えている。

「大丈夫だ。そんな顔すんな。お前さんだけ行かせねぇ」
「そうよ、セナちゃん。ママ達だってそんなに弱くないわ」
「ありがとう……」

 ガルドさんとニキーダは私を責めることなく笑いかけてくれた。
 何がなんでも守らなければ。

――〈セナ、行くぞ〉――
「うん!」

 気合いを入れ直した私の返事を聞き、グレンが火口から垂直に降下する。

――グオオオオオオ!
――〈グ……〉――
――グガアアアアアアアア!!
――〈グハッ……!〉――

 一度耐えたグレンは、次に襲いかかってきた特大の威圧で壁に激突。ちょうど真下にせり出ていた場所に背中から墜落した。
 グレンはドラゴン姿を保っていられなくなったのか、叩きつけられたと同時にキラキラと粒子を纏って人型になってしまった。

「グレン!」

 叫ぶように呼びかけても、グレンは顔面蒼白で荒く息を繰り返し、その目は閉じたまま。
 かなり無理して飛んでいたみたい。
 何回ヒールをかけてもグレンは目を覚ましてくれない。
(どうすれば……止めるべきだったの? そうだ!)
 泣きそうになりながら、匂いで起きてくれないかと、朝グレンが食べたがっていたキャラメルを取り出したとき、ガルドさんに呼ばれた。

「おい、セナ! ありゃなんだ!」
「え?」

 下を覗いていたらしいガルドさんに倣い覗いてみると、煮えたぎるマグマの真ん中にある大きな島で赤黒いドラゴンが黒い炎を吐きながらバタバタと暴れていた。
 そのドラゴンの足元、島の地面には魔法陣が描かれていて、魔法陣から外に出られないようになっているらしい。
 聖地って言われているのにあんなヤバそうなの封じてるの?

《ひどいな……は魔に侵されている。ここは危険すぎるぞ》
「そんなこと言ってもグレンが目を覚まさなきゃ出られないよ……! ジル、手伝って!」
「はい!」
「お願い飲んで……」

 ジルにグレンを支えてもらい、アポの実ポーションを飲ませる。

「うるさいわねぇ。お行儀よくできないのかしら?」
――グオオオオオオ!
「お、おい、ニキーダ。ゔ……これ、どうすんだ……」
「うぅ……アタシのせいっていうの?」

 ニキーダの呟きに反応するかのように威圧の強さが増し、気を失ったままのアデトア君がガタガタと震え始めてしまった。
 これはマズいと、プルトンとウェヌスに協力をお願いして、私達がいる場所に厳重な結界を張る。
(どうしよう……どうすればいい!? ちょっとおばあちゃん、全然大丈夫じゃないよ!)
 おばあちゃんに心の中で文句を言いつつ、焦って働かない頭をフル回転させる。

「っそうだ! コテージ!」
「ダメだ……! 結局セナだけ残ることになる……!」
「えぇ……でも……あ! ルフ……ひゃっ!? グレン? 起きたの? 大丈夫?」
〈セナ……あれは……セナだ、な?〉 
「はい?」
われは、ずっと……〉
「……えぇ!? ちょっとしっかりして!」

 ガシッと私の腕を掴み、何やらよくわからないことを呟いたグレンは、私の腕を掴んだまま再び目を閉じてしまった。
 あれってどれよ!? あの下にいるドラゴンのこと!? 私はドラゴンじゃないよ?
 混乱している間に、グレンがカッ! と目を開けた。

「!」

 いきなり開いた目はまっすぐ私を見つめていて、グレンはボソボソと何かを呟く。
 こんなに近くにいるのに聞き取れない。
 わずかにフッと口角が上がった瞬間、グレンの瞳に囚われていた私はクラッと目眩に襲われた。


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