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16章

途中と帰還

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 夜、お風呂も順番に済ませた私達は、夕食時に話していた通り、三階の「お泊りルーム」のリビングに集まった。アデトア君も今日はこっちに泊まるみたい。
 リノベーション作業や野宿も共にしてきたメンバー故か、それぞれ他国とは思えないほど寛いでいる。特にアーロンさん。お風呂上がり、タオル片手に上半身裸で現れたからね。
 ちなみに、照れて悲鳴を上げたのはアチャだけで、ミリエフェちゃんとフェムトクトさんは「まぁ! 立派な筋肉!」「鍛えていらっしゃるのですな」なんてホワホワと笑っていた。適応力ハンパない。

「ん゛! ひょういひぇふぁ――」
「ちょっとアーロン! 飛んできたでしょ! 話すなら口の中のモノ飲み込んでからにしなさいよ。【クリーン】!」

 お風呂上がりのアイスを口いっぱいに頬張っていたアーロンさんにニキーダがピシャリと言い放つ。
 それを聞いたアーロンさんはモゴモゴさせながら「悪い」と言いたげに片手を上げた。

「……で? 何よ?」
「んん゛……建物の改造が面白くて忘れていたが、あの金の件はどうなったんだ? アデトアもオレらと一緒にいて調べている様子はない。解決しそうなのか?」
「うふふ。アデトアは……簡単に言えば生贄ね」
「は?」

 ニキーダが変な例えをしたせいでアーロンさんがギョッと目を剥いた。

「あのレインだったかしら? あの子よりセナちゃんと仲がいいアデトアに任せていた方が見張りも含めてでしょ? それに何かあってもアデトアのせいにできるじゃない」
「あぁ……そういうことか。生贄とは上手い言い方だな」

 いや、上手いか?
 言外にレイン少年の〝頭突き歯折れ〟事件のことを匂わせるニキーダの発言でアーロンさんは納得したらしい。
 話題となっているアデトア君本人はジト目をニキーダに送っているけど、ニキーダに気にした様子はない。
 ドンマイ、アデトア君。

「アデトアがオレ達と行動を共にしている理由はわかったが、捜査は進んでいるのか?」
「それが微妙なのよねぇ……全く、使えないやつらばかりでやんなっちゃうわ」
「オレがここにいられる期間はそう長くないぞ?」

 やれやれと言わんばかりに首を振るニキーダにアーロンさんが眉を寄せる。
 ごめん、チラ見されても私ニキーダに丸投げしちゃったから進捗状況わからないんだよね。あのいけ好かない宰相さんと話たくなかったし、私としてはお金よりアデトア君の生活環境整える方が大事だったもんで。
 私が知ってるのは結構、割と、マジで面倒なことになりそうってことくらい。精霊の子達からの情報によると……なんかね、他国が関係してるかもなんだって。
 だから尚更ニキーダとジィジに任せた方がよさそうでしょ?

 アーロンさん達、国の代表者にプラスしてニキーダはまだまだ話すらしい。周辺国の情勢や力関係など、マジメな話へと話題が移り変わっている。
 そろそろいい時間だし、明日は朝からミリエフェちゃんと食い倒れツアーの予定だ。
 率先して肉体労働を担ってくれていたガルドさん達も眠そう。
 何もないとは思うものの、護衛をプルトンとエルミスに任せ、私達はお暇することにした。


 ベッドに入ってクラオルとグレウスのモフモフに癒やされる。
 ミリエフェちゃんのベッドからはもうすでに寝息が聞こえてくる。
 おやすみ三秒……寝付きよすぎじゃない??

 ここ数日は疲れて寝落ちすることもあったし、多少遠慮はなくなったとはいえ、家族以外がいる野宿はやっぱり気を遣う。

『((主様大丈夫?))』
「((大丈夫だよ。クラオルとグレウスもいっぱい手伝ってもらったから疲れたでしょ? 落ち着いたらコテージでゆっくり休もうね))」
『((あるじぃぃ……))』

 同じ部屋のミリエフェちゃんを気にしてか、念話で心配してくれる二人を抱きしめて頬ずり。
 あぁ……ふわふわでモフモフ……癒やされる……
 心のオアシスを堪能しながら思い返すのはリノベーションのこと。

 いや~、大変だった。大変だったけど面白かったのも確かだ。
 農作業をやると言っていただけあって、ミリエフェちゃんとフェムトクトさんは土魔法が得意だと率先してセメントモドキを作ってくれた。
 アーロンさんはアーロンさんでグレンと一緒にいい笑顔で壁を殴っては破壊していた。

 転移で取りに行くとなると私の負担が心配だとみんなに却下されたため、デタリョ商会とタルゴー商会に頼んだ家具や雑貨の運搬ではオマルやグリネロ達……龍走馬ドラゴンライダーホースが大活躍。
 商業ギルドから派遣された建築の職人さんもいて、かなり大掛かりになってしまったけれども。
 ふざけ合う私達を見た職人さん達からアデトア君のいい印象が噂話として流れてくれたら万々歳だ。

◇ ◆ ◇

 翌日、予定していた通りにミリエフェちゃんと食い倒れツアーを決行。
 私よりも食べるとはいえ、ミリエフェちゃんも大人ほどは食べられない。いろんなモノをちょっとずつ食べたいと、グレンだけではなく、護衛として付いてきてくれていたジュードさん達まで巻き込んで食べて食べて食べまくった。
 私は夜ご飯が入らないほどおなかがはち切れそうだったのに、ミリエフェちゃんやジュードさん達は普通に食べてて驚異の胃袋に脅威を感じたよね……


 アーロンさんのリクエストで王都から近いダンジョンにお邪魔したり、家族や部下へのお土産のために商会や商店をハシゴしたり、王族の保養地にある湖でピクニックしたり……と後半はあっちこっち移動していた。
 まぁ、ダンジョンではよろしくないやからに絡まれたり、買い物中にスリを捕まえたり、はしゃいだミリエフェちゃんを落ち着かせようとしてフェムトクトさんが湖に落ちたり……と何かしらあったものの、今回巻き込んで連れてきたアーロンさん達はそれすらも楽しんでくれていたみたいだからよいでしょう。


 そんなこんなでアーロンさんとフェムトクトさん親子が帰る日となった。
 来るときと同様に、帰りもグレンに籠を運んでもらうつもりだったんだけど、オマルなら背中に乗れることを知ったアーロンさんにより、オマルが指名された。

「セナ様、本当にありがとうございまひたッ……!」
「【ヒール】。舌噛んだよね? 大丈夫?」
「だ、大丈夫ですぅぅぅ。最後まですみません……また……またわたくしと会ってくださいますか?」
「もちろん! お手紙も書くし、遊びに行くよ! ミリエフェちゃんも今度ウチに泊まりにきてね」
「……はいぃッ!」

 ギュッと手を握って微笑みかけると、ミリエフェちゃんはポロりと涙を溢した。

「え!? ちょ、大丈夫!?」
「感極まったようですな。ご心配なさらずとも大丈夫ですよ。こんなに思い出深い旅行となりましたのはセナ様やジュラル様方のおかげです。共に過ごさせていただいた輝かしい日々は一生忘れることはないでしょう。今後ともよろしくお願いいたします」

 フェムトクトさんの言葉に頭が取れるんじゃないかと思うくらいブンブンと頷いていたミリエフェちゃんは、最後にフェムトクトさんと同じように頭を下げた。
 相変わらず丁寧な王様だ。

「オレも楽しかった。セナは旅行の続きだろ? また会えるのを楽しみにしてる。ガルド達もな」
「いろいろありがとう。また遊びに行くからよろしくね」
「おう、新しいレシピも頼むぞ」

 私やジィジとガッチリ握手したアーロンさんはニカッとガルドさん達にも笑いかけた。
 スピードと安全確保の都合で、同行者はニキーダとプルトンだけ。

「またねぇ~! 気を付けて~!」

 アーロンさん、フェムトクトさん、ミリエフェちゃん、ニキーダの四人を載せたオマルが飛び立つのを手を振って見送った。
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