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16章
キメる
しおりを挟む忙しかった日々がやっとこさ落ち着き、私は今、ソファで仰向けに寝転がり、両手で持ち上げたクラオルのおなかを思いっきり吸っている。猫吸いならぬクラオル吸いである。
最初はくすぐったいと笑っていたクラオルも無言で吸い続けていたら何も言わなくなった。きっと飽きれ顔で付き合ってくれているに違いない。
途中、クラオルからグレウスにチェンジ。尚も吸い続けていると、ガルドさん達の声が聞こえてきた。リビングに戻って来たみたい。
「アレ、まだやってんのか……一時間以上経ってんぞ」
「グレウスに代わってるけどねー」
「……忙しかった…………疲れてる……」
「そうですね、あのままにしてあげましょう」
四人の声にも反応しないでいると、今日もジュードさんが夕食を全部作ってくれることになっていた。優しい。ありがとうございます。
――私がこうなったのには理由がある。
新しくアデトア君の部下になった人達とギルド職員のために商業ギルドでそろばん教室を開催。これにはデタリョ商会のおじいちゃんと執事が参加することに。教師役はすぐにマスターしたジルである。
ジルのおかげで楽ができる~なんて思ったのも束の間、私はタルゴーさんに付き添うことになった。
ドラゴン便で来たため、馬車がないのだ。レンタルって話も出たんだけど、「よろしければセナ様もご一緒に」って言われて、安易に頷いたのが間違いだった。
タルゴーさんは……翌日から王都の商会や個人店を網羅する勢いで回り……さらには近隣の村にまで足を運んで、装飾品、雑貨類、食品関係、魔物の素材、服及び布関連……などなど、とんでもねぇ量の商品をお買上げ。馬車がないからと、買い物のためにありったけのマジックバッグを持ってきていたらしい。
連日怒濤の買い物に付き合っていた私は疲れからヘロヘロに。挙句、雑談中の流れで「私の故郷にはあったんだけど、こっちでは見かけないんだよね」と疑問に思っていたモノをポロッと零しちゃったからもう大変。火がついたタルゴーさんの勢いに呑まれ、商業ギルドにて登録、職人へ発注をかけることになってしまった。
登録及び発注するには文字だけの説明書よりも設計図と見本品があった方がわかりやすい。と、いうことで、私はジオラマ製作のためにコテージに籠もるハメに。
記憶を掘り起こし、絵を描き、それを見せて説明。手先が器用なマイファミリー達の手も借り、十日以上もかけて出来上がったのは〝アスレチックパーク〟――遊具のある公園だ。
砂場、ジャングルジム、シーソー、ブランコ、鉄棒、滑り台、雲梯、回転丸型ジャングルジム……などのオーソドックスなモノから、平均台、登り棒、ターザンロープ、スプリング遊具、リングネット、ネットクライム、ザイルクライミング……あとは名称がわからないけどロープで吊り下げられた丸太を渡るやつとか、回転する丸太を進むやつとか……日本の街中にある公園というよりは郊外にある大型のものになっちゃったんだけどね。
まぁ、アスレチックっぽいものが盛りだくさんだと思ってもらえれば。
プラスチックが一般的じゃないので、基本的には木製か金属製だ。
実寸大だと大きさがネックだし、あまりにも小さいと細かすぎるため十五分の一スケールのジオラマにしたものの、それでも製作は大変だった。ミニチュアの世界を作ってる人、マジで尊敬する。
私が籠っている間のタルゴーさんの付き添いは……ニキーダとアチャに。とても盛り上がっていたそうで、連日馬車を引いてくれていたグリネロがゲッソリしていた。
グレンはグレンでいい機会だと部下達の人語と人化の練習にお付き合い。気分転換に出かけてはお土産だと魔物や素材を渡されることもしばしば。久しぶりの部下との交流を楽しんでいたみたい。
どうにかこうにか完成したジオラマを見せたらタルゴーさんだけじゃなく、デタリョ商会のおじいちゃんや両ギルマスまで食い付いた。
冒険者ギルドのギルマスなんて「これは大人はダメなのか? 大人でもやりたがりそうだぞ。まぁ、ガキからすれば街の外に出る前に鍛えられていいな」なんて言っていたよ。
そんな子供スパイの映画みたいな……大人用にジムでも作った方がいいんじゃないかと思ってしまったのは内緒だ。
で、どこに設置して誰に使用を許可するか……ってところで問題が露見した。私的には公園なんだし誰でもOKだったんだけど、それだと貴族が出張ってくる可能性が高いと。「ここは俺様が使ってる! 平民はどっか行け!」みたいなのとか、「ここの土地ごと寄越せ」みたいなのとかね。
協議を重ね、新しく作る従業員用の寮の敷地内に作ることになった。敷地内に子供が遊べる場所があれば親としても安心できるだろうし、口コミで従業員から友人にも伝わるだろうって。
公園の周りは寮だから、ポンっと公園だけ作るより貴族が訪れる可能性は下がるらしいよ。
流れから工房と寮建設の話に移り、まとまった広さの土地を探した結果……貧民街周辺を買収することに。
貧民街の住人でやる気がある人は雇い、やる気のない人や素行が悪い人達には土地代を渡す……ということに落ち着いた。
そこから私と良好な各街のギルドに問い合わせ、買収についての書類のやり取りが始まった。
焦った私が「まずは一ヶ所やってみてからじゃない?」って言ったんだけど……先に話を通しておいた方が後々楽だから、とのこと。
さらに、公園を作る場合は遊具を登録した私名義の方がいい、というところから同敷地の寮は私名義の方がいいという話になり、過去タルゴーさんに丸投げしていた建築済みの寮まで私名義に書き換えられることになった。
何故……何故だ!? そのままでもいいじゃないか! って思って訴えたものの、暖簾に腕押し。
こりゃいかんとジィジ達を召喚。しかしジィジも、ニキーダも、アチャでさえも私の味方にはなってくれず……結局、丸め込まれた私は言われるがまま契約書にサインすることになった。
この一件で書類のやり取りのために商業ギルドに通う日々。
おかしい。これからのことを考えて先に声をかけておくって話だったのに、既に全てが動き出している気がする……そんなことを思いつつ、書類とにらめっこしていた。
お金はいい。百億近く払ってもまだまだある。ただ、書類に強い、信頼のおける人物を早急に雇いたい所存。
夕食時にジルがあと二人くらい欲しいとボヤいていたら、それを聞いたアデトア君が「恐ろしいことを言うな」なんて怖がっていた。
そろばん教室でジルが私のことを布教していたらしい。デタリョ商会のおじいちゃんも一緒になって私のことを褒め称えていたそうで、洗脳ちっくだったんだって。布教に余念がないね、生徒諸君は気を確かに持ってくれ。
そんなこんなでようやく一段落して、タルゴーさん達を送り出したところである。
私がクラオル達をキメる理由がわかるでしょ?
あのちょっとした発言でこんな大変な思いをすることになるなんて予想外もいいところだ。自分が発端とはいえ、しばらくは何もしたくない。
◇ ◆ ◇
クラオルとグレウスを吸いまくり、ネラース達をひたすらモフモフ。
ここ数日そんな生活をしていたせいか、突如としてインプが現れ、驚いた次の瞬間には私だけおばあちゃんの空間に誘致されていた。
ビックリした……声を上げる暇すらなかったよ……
急だったから何か用があるのかと思えば、疲れていたから、とのこと。
「クラオル達は?」
「インプが説明しているハズじゃから心配はいらんよ」
「ん、わかった」
どこからかソファを出したおばあちゃんは私を抱え上げて膝の上へ。
「頑張ることは悪いことではない。だが頑張り過ぎることはよくないのぅ。セナはまだまだ子供じゃ」
「一応中身は大人のハズなんだけどね……」
「あまりにも疲れると体の成長にも影響があるやも――」
「え!? ただでさえ身長伸びてないのに!?」
私が食い付いたのが意外だったのか、おばあちゃんは目を丸くさせ、噴き出した。
「ヒャーッヒャッヒャ! 身長はセナが神に由来していることが大きいかのぅ」
「やっぱ魔力の多さなんだね……」
「それもあるが……まぁ、セナはこの世界での経験がまだまだ浅い。心の疲れが体に与える影響が大きいんじゃ。ゆっくりでいいんじゃよ、ゆっくりで」
言葉通りにゆっくりと頭を撫でられ、安心感から眠気が急速に膨らんでいく。あっという間に私は眠りに落ちた。
「……ふむ。認識がこちらの世界に向くのはまだまだ時間がかかりそうじゃな。はてさて、どうするかのぅ……」
なんて、おばあちゃんのセリフはグレウスと一緒に巨大なクラオルのおなかに乗って幸せなモフモフをキメる夢を見ていた私に聞こえていなかった。
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