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16章

お塾と商会

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 両社共頷いたのを確認し、まずは~とそれぞれに薄い紙束を配る。

「これはこの街の王城と両ギルドの書類。今のところ買い取りが決まっているのは両ギルドが各二十個でお城が五十個、合計九十個ね。お城の窓口はアデトア君だよ」
「今後この国のセナ関係は全てオレが担当することになった。個人以外の国が管理する輸出入の場合、セナ関連であればオレの管轄だ。連絡は冒険者と商業、どちらのギルドでも構わない。最速で城に知らせるように通達してある」
「かしこまりましたわ。本日は例のモノを百個持ってきておりますので、確認をお願いいたしますわ」
「こちらになります」

 ダーリさんからの声にアデトア君は席を立ち、荷物コーナーへ。木箱の蓋を開け、中からブツを取り出した。

 アデトア君が確認しているのは〝そろばん〟だ。
 前にペリアペティの街で算数を教えたときに思ったんだよね。ギルドとか商会とかの経理や財務だったら電卓あれば楽なのに……って。欲を言えば表計算ソフトが理想だけど、いくら仕事で使っていたとはいえ私が作れるワケがない。それなら昔の日本で使われてたそろばんならいけるんじゃね? って。慣れた人だと頭の中でそろばんを弾くから暗算得意になるっていうじゃん?

 で、キアーロ国の王都にいるときに試作し、大量に作ってもらうようにお願いしておいたのよ。
 これどう? 使える? って試作品を見せに行ったギルドではサルースさんとゲハイトさんが、それはもう大興奮だった。

 ちなみに、アチャとジュードさんに望まれてピーラー、野菜用小型スライサー、お肉用大型スライサー、フライパン、電動ならぬ魔道ハンドミキサー、魔道ミキサー、魔道フードプロセッサー、カレーパンのための温度調節が可能な魔道フライヤー……といった便利道具。
 サルースさんが大好きなラスク、ポテチ、メロンパン、ドレッシング、オムレツ……といった料理のレシピも登録するハメになったことをお知らせしておきます。
 私にしては超頑張ったと思わない? キアーロ国にいたときから準備していたとはいえ、かなり忙しかったのよ。製造販売は丸投げのハズなのに……

 アデトア君がそろばんの精算を済ませたら、続けて私が回った街の書類だ。こっちで軌道に乗ってからジィジの国にノウハウを持ち込む予定なので、ジィジの国の書類はまだない。
 二人にわざわざ集合してもらったのはコレがあったから。もちろん、アデトア君やガルドさん達に会わせたかったのもあるんだけどね。

「お次は目玉の商会養成所について。希望があったのは回った街全部。その書類は各街毎にまとめてあるよ。それぞれ街の地図が一枚目になってるんだけど、赤く色付けしてあるところが確保できた場所。二枚目が物件の見取り図ね。ピリクの街以外は更地にして建て直しになってるの」
「かしこまりましたわ。ピリクの街はよさそうな孤児院がありましたのでそちらを修復と増築させましたわ。すぐにでも使用可能ですわ」
「ありがとう。一応各街でひと通り仕込んできたけど、本格的に始動する前に精鋭を育てて専門の人を作った方がいいと思う」

 養成所と言いつつ、中身は寺子屋ならぬ〝そろばん塾〟だ。それだけだと物足りないかなと、一応薬草の知識と解体なんかも授業の一環として組み込んでもらう予定である。
 草案は二つ。メインは午前の部と午後の部のどちらかが授業で、参加していない方の時間帯は商会の工場勤務になるタイプ。二つ目は終日授業を受けるタイプ。
 給料がゼロになったら生活出来ないからね。メインが交替制なのはフルで働くよりも給料は下がるけど、将来性を持たせた形だ。

 合格ラインに達したら商会での店舗勤務も可能。養成所を卒業したからといって商会就職は強制じゃない。就職先はギルドだろうが、個人店だろうが、関係なく冒険者になろうが、なんでもOK、個人の自由である。
 ただ、育ててくれた商会に恩義は感じるでしょ? 総合的に好印象を植え付け、口コミ含めて売上が上がるんじゃないか……という算段だ。
 就職先を指定していないので、他の商会も文句は言えない。そろばんは私が登録済みだから同じモノは作れないし、わざわざ塾を作るとは思えないんだよね。

「今のところはこれだけど、スムーズに運営出来るようになったら、接客業用の言葉遣いとか態度とかを学ばせる用のコースを作るのもアリだよ。あとは……新規だけじゃなくて、今働いている人達の品格向上の研修とかもね。建物の教室は多めにしてあるから、どう使うかはお任せする」
「なんと! よろしいのですか?」
「うん、運営は一任になっちゃうから役立ててもらえたら嬉しいな」
「セナ様は今回商会登録となりましたが、本当にわたくし達が主導でよろしいんですの?」

 タルゴーさんが言った通り、今回大量にレシピを登録したことで商会を設立することになった。
 私がギルド登録しているのは――行商人ランクの個人事業だ。
 ここまで料理や道具類のレシピを個人で登録している人がいないため、資産及び私のを狙う人が現れる可能性が高いそう。イコール、私の関係者全員が標的になる可能性も上がるワケで。商会ランクで登録しておけば個人ではなく会社として扱われるだろうから今よりは格段にマシなんだってさ。
 サルースさんとゲハイトさんに連日力説され、ジィジやニキーダにまで賛成されてしまい、登録せざるを得なかったんだよ。

 そのせいで私は店舗を持たなきゃいけなくなった。
 レシピはほぼタルゴー商会とデタリョ商会が取り扱っているため、二人に相談。そしたら、両商会共に私の商会の傘下に入るとのこと。
 意味わからなすぎでしょ?
 なんかね、傘下に入った商会の店舗はトップの店舗としても計上可能なんだって。もちろんそれぞれの商会の店舗はそのまま商会の店舗としても扱われるそう。
 極端にいうと、行政公認の幻の店舗が手に入るってこと。しかもね、商会化することで年間の税金は上がるものの、それだけ。私の商会で傘下の商会の従業員が働くことも可能で、他は何ひとつ変わらず……今まで通りレシピ使用料が振り込まれる、なんて私にはとんでもなくありがたい仕様だった。

 おかげで、私は大型商会の事業主となったワケですよ。まぁ、オーナーの体裁を整えるって名目で、ジィジの国に一つ実店舗を構えることになったんだけどね。
 ニキーダファンのギルマスにより良物件を確保できたし、アチャファミリーが事務方として協力してくれることになっている。
 商会名は……考えるのが面倒だったので〝コンビニ商会〟だ。

「うん、ごめんね……申し訳ないけどお願いしたい。商会は設立したけど、私は生活を変えたくないんだ」
「いえいえ! そういった意味ではありませんわ! 今回の費用も全てセナ様にお支払いいただきましたのに……」
「あぁ、それは本当に気にしなくて大丈夫。私的にはレシピで振り込まれたお金の使い道がようやくできて嬉しかったくらいだから」

 お金を使わなきゃ経済は回らない。食料品は大量に買い込んでいるとはいえ、貯まる一方だったからね。
 この一連の流れで十億以上使ったものの、貯金はまだまだあるのだよ。
 むしろ学校を作りたいからと私名義で建設したくせに、実際の授業は丸投げっていう……申し訳ないね。

「今回は回れなかったけど、二人が出店している街ではそろばんも他のレシピも使って大丈夫なようにしてあるから」
「「ありがとうございます(わ)」」
「あと……そろばんはシュグタイルハン国のミカニアの街のラゴーネさんと両ギルド、ベヌグの街の冒険者ギルド、サフロムの街の両ギルドと領主であるルシールさん、ルィーバ国の南パラサーの街の冒険者ギルドにはどうですか~って声をかけようかなって。お世話になったからさ」
「ミカニアの街はわたくしの商会がありますし、ベヌグとサフロムの街では取引がありますので商品と共に従業員を送りますわ」

 そろばんを扱える従業員にすれば、そのまま売り込めるから……ってことらしい。商機を見逃さないあたりが商会長ならではだよね。

「あ、ペリアペティの街はタルゴー商会はもちろんいいんだけど……冒険者ギルドにそろばんを卸すかはタルゴー商会の支店長に任せるね」
「かしこまりましたわ」

 約一ヶ月算数を教えていたけど、やっぱりギルマス達は好きになれなかったんだよね。支店長は知ってるから必要なら卸すだろうし、彼らの態度が変わっていないなら卸さないでしょう。

 その後は養成所の他にレシピ関係の細かいことを取り決めていく。
 養成所については私名義の方がいいだろうってことで、他に造る場合は知らせてくれることを了承してもらった。今回建てた養成所が私の商会名義の事業だからね。それくらいしかできませぬゆえ、土地代と建設費くらいは払いまする。
 ジィジとニキーダだけではなく、アデトア君やガルドさん達……連れてきた全員を巻き込んだワイワイとした会議になった。
 
 途中おやつタイムも設け、なんとかまとめ終わったところで両ギルドのギルマスをお呼び出し。
 魔法ペンを使った書面で契約を結ぶことができた。

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