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 亜美はドアを大きめにドアをノックし、返事を待たずにドアを開ける。

 「綾瀬さん、経理の仕事以外で呼び出すの止めてもらえませんか?」

 「あ?気分転換にいいだろ?ソコ片付けてくれ」

 ソコと言いながら、モノが山積みになった机を指差す。

 「俺ね、心理学の勉強した事あるんだよ。で、お前と俺は相性が良さそうだと思ってな。他人に部屋を触られるのは不快で仕方ないが、お前なら大丈夫だ。とりあえず、コーヒーくれ」

 ムカッとしながらも、既に用意して来たコーヒーを机に置く。毎回コーヒーを要求するので、淹れてからこの部屋を訪れるようになったのだ。

 「ふっ、気が利くな。ああ、机の上のモノは全て捨ててくれ」

 コーヒーを飲みながらパソコンを入力しつつ、亜美に指示を出す。

 「ココ、机じゃなくて直接ゴミ袋置いて捨てればいいじゃないですか」

 そうしたら亜美が一々呼ばれなくて済むのでは?

 「1つのモノが完成するまで見直したい書類や形状があるだろ?一々袋から出すのは面倒だ」

 一々呼ばれる亜美の方が面倒だとは思わないんですかね?と思いながらも既に何度か片付けさせられている亜美はダンボールに紙をザクザク入れ、おもちゃになるだろう試作品も別のダンボールに入れる。紙類は室内にあるシュレッダーで裁断しゴミ袋に入れる。開発商品に関わるモノなのでそのままでは捨てられない。試作品は他の部署の人達のモノと一緒に纏めて廃棄される。

 そして1時間近く経った頃、ドアがノックされ、高瀬さんがやって来た。

 「ちょっと綾瀬っ!!高島さんはお前の片付け担当じゃなくて経理なのっ!!時間を無駄にさせるなっ!ただでさえ残業するなって言われてるんだから」

 そう、根室物産は子会社に至るまで残業削減を言ってきている。ただし、削減出来た分はボーナスに反映すると言うのだ。早く帰れてボーナスが多くなるのは嬉しい。まあ、経理は締めのタイミングや決算時期は多少残業する羽目にはなるが、他社程では無いと思う。月々しっかり締めてるからね。

 「高島は優秀なんだろ?大丈夫だ」

 「綾瀬に何が分かるんだっ!!高島さん、コイツの掃除呼び出しは無視していいから。今迄何とかなって来たんだから、自分で何とかするだろ」

 高瀬に促され経理の部署に戻ってくる。確かに高瀬さんの言う通りだ。亜美が片付けなくても今迄はちゃんと仕事が出来る部屋だったのだ。

 「そうですね~、次からは無視して自分で片付けてもらいます」

 「あ~、それ兄貴の部屋の話し?」

 「綾瀬弟っ、お前の兄貴なんとかしろ。毎回高島さんにやらせてるんだぞ?今迄何とかなってただろ?」

 「何とかなってない。机の上のモノが次の試作に入った瞬間床に落とされるんだぞ。で、話がある時はゴミ屋敷みたいな室内に入って行くんだ。限界来た他の開発部員が一日中掃除する羽目になるんだけど、何せ人嫌いだから人がいると部屋出て行くから開発も一日止まるんだ。だから高島さんには申し訳ないけど、チマチマ片付けやって?」

 綾瀬弟のお願いにより、週一でお掃除日が決められてしまう。

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