花笑みの庭で

ゆきりん(安室 雪)

文字の大きさ
上 下
54 / 80

54

しおりを挟む
「俺、赤い薔薇が1番好きなんだよね」

 そう話しながらアヤトは車を走らせる。

 彩音も薔薇は好きな花だった。しかも赤い薔薇は物心ついた時から大好きだった。見ているだけでほんわりと暖かい気持ちになるのだ。



 そして数日後。

 蓮とのCMが流れる日、またまた彩音はアヤトと一緒に見る事になった。

 アヤトに後ろからハグされた格好でテレビを見る。もうそろそろだ。

 彩音とアヤトの歌、それに彩音と蓮のキス。

 うわぁ~っ!私、こんな顔してるんだっ。イヤ~ッ!恥ずかしいっ!彩音はアヤトの横顔を横から覗き見する。何やら不機嫌な顔をしている。歌とか画像とか変だった!?

 「彩音、蓮と1回目のキスの後に何か言われてただろ?それから表情が変わったんだよな。何言われたの?」

 至近距離からたずねられる。

 ん?あの時は『アヤトさんにキスされてると思えよ』って言われて、必死でアヤトの唇を思い出してた。そんな事、本人に言えないよ~っ!

「あ、ああ。あの時。あの時、何だっかなぁ~。はははっ」

 笑って誤魔化そうとするが。

「ふ~ん、俺には言えないんだ。俺には言えない酔っ払いともキスしてるみたいだしな」

 ご機嫌斜めなアヤトはそのまま部屋を出て行く。彩音の視界には数日前、アヤトにもらった薔薇が満面の笑みで咲き誇っていた。




しおりを挟む

処理中です...