貴方の瞳

ゆきりん(安室 雪)

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 金曜日の夕方、今日は残業無しで帰りたいため、黙々と仕事をする。定時まであと少し、頑張れ私っ!朝、山の様にあった書類はほぼ、見る影も無く片付いた。そして終業時間を迎える。

「お先に失礼しますっ」

 ロッカールームに寄り、荷物をまとめて会社を出る。これなら早目の新幹線に乗れそうっ。

 美奈子は明日の『スノファク』のライブの為に前乗りで行くのだ。先週は地元だったから良かったけど、さすがに東京は予算が重む。ライブは土日だか、金土と宿泊し、日曜日はライブが終わってから新幹線で帰る。前乗りするのは、せっかくの東京だから話題のお店にも行きたいからだ。


 ホテルはいつも決まった所を予約する。周辺に好きなお店が揃っているのだ。しかも、スノファクの事務所のそば。まかり間違ってメンバーに出会う事は無いだろうが、いつもメンバーがこの周辺に出没しているかと思うとドキドキする。なので、ホテルはちょっと奮発だ。夜御飯は微妙な時間なのでコンビニで買う。朝はホテルのバイキングと決めている。


 ライブには少し早めに行って、グッズのタオルは必ず買う。Tシャツも欲しいが、今回は予算不足だからパス。ホントは欲しいけど。

「きゃっ!?」

 グッズを買い、お財布をしないながら歩いていたら、ぶつかってしまったのだ。ぶつかった人からはいい匂いがする。

「ごめんなさいっ」

 すぐに謝る。多分、全面的に私が悪い。

「いや、俺こそ」

 その男性はすっと通り過ぎて行く。あれ?今の人の匂い、知ってる?まあ、そんな訳ないか・・・。

 今日の席は、おおっ!ラッキー!ど真ん中前から3列目っ!電子チケットを昨日ダウンロードして、まさかとは思ったけど、やった~っ!アリーナ席でも嬉しいのに、この席っ!神様ありがと~っ!

 席に座り、荷物を椅子の下に置いと、ペットボトルを取りやすい様に準備して、グッズのタオルを取り出す。すると、左隣に1つ空いている席の人がやってくる。あれ?さっきぶつかった人だ。そして、その人が座る。

 デジャヴ?

「あの~、先週の名古屋のライブもいらっしゃいませんでした?アリーナの左の後ろ辺りの端」

「ああ、名古屋。行った」

「私、その時も隣だったんですよ、多分。ラストでこうやって手繋いだの覚えてませんか?」

 嬉しくてつい、勝手に手を取りバンザイの様に上げる。

「あ、すいませんっ」

 恥ずかしいっ、しまった。人見知りするのに何でこんな事。

「ぷっ、覚えてるよ。あの時もアンタそうやって人の手を取って、飛び跳ねてたもんな。今日はコケない様にな」

「その節は、すいません・・・」

 そう、美奈子はステージ上でメンバーが手繋ぎバンザイをするのを、ファン達も隣の人達とやってて、羨ましいっ!1度はやってみたい、どうせ2度と会わないだろうし、と右手に女性、左手にこの人と手を繋ぎバンザイしながら飛び跳ね、転びそうになったのを助けてもらったのだ。そうか、あの時、抱きしめられた時の匂いだ。うわっ、2度と会わないはずの人が。

「あれ?前回はTシャツ着てなかった様な?今回は買ったんですね。いいなぁ、私は予算不足でタオルだけです」

「ふ~ん、着たい?」

「当たり前じゃないですか、羨ましいっ」

 そう言うと、その人は何処かにメールをする。


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