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ハルカ
5.薮蛇
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「むむむっ…」
教室にある自分の椅子に座って漢字のワークに取り組む。授業中ではなく自由行動が許されている休み時間に。
宿題として出された物をやり忘れていた事が判明。提出までは猶予があるので叱責を回避する為に奮闘していた。
「なぁ、これの解答集見せてくれよ」
しかし途中で時間が足りない事に気付く。ペースアップを図る為に反則技を使う事を決めた。
「え……僕が?」
「そうだよ。他に誰がいるんだ」
「で、でも…」
「俺、解答集なくしちゃったんだよ。だから見せてくれって。な?」
すぐ隣に座っていたクラスメートに助けを求める。1人でケータイゲームをやっていた内向的な性格の男子生徒に。
「……ん」
「おい、無視するなよ」
「えっと…」
「別にお前の答えを写させてくれって言ってる訳じゃないじゃん。それぐらい良いだろ?」
だが彼からはまともな返事が返ってこない。明らかに煙たがっている雰囲気でチラ見してきた。
「……トイレ行ってこよ」
「こらっ! 逃げんな!」
会話途中で相手が逃走してしまう。持っていたゲーム機をポケットの中に仕舞いながら。
「くっそ…」
露骨な嫌悪感剥き出しの態度。ただそれは彼だけの話ではない。今朝からクラス中の人間がよそよそしくこちらの様子を窺っていた。
「気分悪いな…」
その原因はネットで拡散されているDVを彷彿とさせる画像の数々。根も葉もない噂のせいで悪人になっていた。
「空輝、どうしたの?」
「忘れた宿題に取り組んでるんだけど協力者がいないせいで達成出来そうにない」
「なんだって!? ならオレが力になってやるよ!」
「ん? 翔弥は漢字のワークやってきたのか?」
「いや、やったんだけど持ってくるの忘れた」
「役に立たねぇ野郎だな」
孤立した場に友人が近付いてくる。他のクラスメート達と違って普段通りに接してきてくれる能天気が。
「しかし皆どうしちゃったのかなぁ…」
「フルーツバスケットの鬼になった気分だぜ」
「え? もしかして何かされたの?」
「嫌がらせはされてないけど話しかけたら逃げられた回数が数回」
「空輝に話しかけられて無視するなんて……オレだったら録音して何度もリピートしてやるってのに!」
「ごめん。今度からお前に声かけられても無視していいか?」
「そ、そんな…」
漫才のようなやり取りを展開。言動はふざけていたが彼といる時だけが唯一の心が安らぐ時間だった。
「んっ…」
遠目に様子を窺う。軋轢の発端となった女子生徒を。彼女は無言で席に座っていた。涙を流していた登校時とは違い無表情で。
「くっそ…」
けれどその周りには数名の女子が群がっている。常に誰かが側にいるので事情を聞きに行く事が出来なくなっていた。
「青井くん」
「あ? 何?」
ターゲットを観察中、視線を遮断するように目の前に人が現れる。スカートを穿いた生徒が。
「聞いたよ。春華さんに怪我させたんだって?」
「はぁ? どうしてお前までその情報を知ってんだよ?」
「だってあたしのクラスでも話題になってるもん。例の画像が出回っててさ」
「……ちっ」
その正体は隣の教室に在籍している同級生。中学時代からの知り合いである女子生徒だった。
「言っとくけど俺は何もしてないからな」
「あ、やっぱり? だと思った」
「あんな写真なんか撮った覚えないし、そもそも女子に暴力を振るった覚えもない」
「そうだよね~。まず青井くんみたいなガサツな人が春華さんと付き合ってるってのがおかしいし」
「いや、交際していたのはあながち嘘ではないというか本当かもしれないというか…」
「どっちなん?」
真実の中に嘘を混ぜる。非モテ男子だと思われたくないプライドからくるハッタリを。
「成戸はわざわざそれを確かめに来たの?」
「いや、名字で呼ぶのやめてよ。下の星香の方で呼んでって前から言ってるじゃん」
「成戸はわざわざそれを確かめに来たの?」
「だから上の名前で呼ぶのやめてって言ってるでしょーが!」
乱入者である女子生徒が大声で叫んだ。机を激しく叩きながら。
「バカ野郎っ! 親から受け継いだ大切な名前を嫌がるとは何事だ!」
「だ、だってさ…」
「お父さんもお母さんもご先祖様もきっとその名字に誇りを持って生きてきたんだぞ! 恥を知れ、恥を!」
「……うっ」
「ところで成戸はラーメンの具材ならどれが好き?」
「ほら、そうやってからかってくるからやめてって言ってるんじゃんかっ!!」
ワガママな同級生に説教をかます。反応が面白いので昔からよくおちょくっていた。
「成戸さんは暴れに来たの?」
「……武藤くんも名字で呼ぶのやめてよ」
「ごめん。でもこの呼び方で慣れちゃってるから」
自分以外の2人が言葉を交わす。彼らも中学時代から面識があるので。
「はぁ……でも元気そうで良かった」
「全然良くない。朝から何度もブチギレそうになってる」
「ほぇ? どして?」
「ずっと陰口を叩かれてるんだぞ。特に女子に」
直接的な被害は受けていないがそれはあくまでも立証出来る嫌がらせの話。こちらを警戒している意識は何度も感じ取っていた。
「まぁ、あたしのクラスでも喧喧囂囂だからね~。3分の1ぐらいは信じてて、3分の1はデマだって主張してて、残りの3分の1は興味なしって感じ」
「ウゼェ」
「あたしや武藤くんみたいに昔から青井くんを知ってたら違うかもって疑えるんだけど」
「噂って怖いよなぁ。中心から離れてる奴ほど間違えた情報を持ってたりするし」
「そうそう」
3人で雑談を始める。それぞれがそれぞれに向き合いながら。
「まず青井くんが人に暴力を振るう奴って認識が間違ってるもんね」
「おうともよ。俺は世界平和を願い続けてる博愛主義者だぜ」
「そしてオレはそんな空輝が大好きだ!」
「テメェ、発言がいちいち気持ち悪いんだよ!」
「ギャァアァアァアアッ!!?」
「あれ? ごめん。あたしの認識が間違ってたかも」
満面の笑みを浮かべている翔弥の元に接近。背後に回り込んで思い切り首を絞めた。
「ていうかさ、そもそもどうして春華さんと付き合ってるなんて噂が流れてたの?」
「……知らね」
「まさか本当に…」
「俺、あの人の連絡先すら教えてもらってないんだぞ。誰かが勝手に嘘情報を流したんだろ」
「ふ~ん、そっか」
不利な立場に追いやられたとしても真相を打ち明ける訳にはいかない。万引き事件の詳細については。
「ならあの写真は春華さん本人?」
「さぁ? 顔がハッキリ写ってないから何とも言えない」
「アザなんて合成出来ちゃうし信憑性は低いな~」
「だとしても誰かが悪意を持って行動してるのは事実だろ?」
「う~ん……まぁね」
誰が何の目的でこんな真似をしたかは不明だが一つだけハッキリとしている点がある。ネットに上げられた画像で多くの人が扇動されてしまっている事だった。
「ねぇ、あたしが聞いてきてあげよっか?」
「ん? 何を?」
「ここに写ってるのは春華さんなのかって直接」
成戸が胸元に手を当てる。興味津々といった表情を浮かべながら。
「やめとけやめとけ。そんなに親しい間柄でもないのに」
「え~、けど少なくともこれが春華さんかどうかは確かめられるじゃん」
「本当の事を言ってくれるかは分かんないぞ。仮に認めたとしても彼女の傷を抉る結果になるだろうし」
「むぅ……そう言われたらそうか」
これが第三者の仕業なら被写体の女子生徒は被害者。ただ自分の脳裏には違う考えが浮かんでいた。
「ん…」
恐らくこれらを撮影したのは本人。ネットに掲載したのも。秘密を握ってしまった男子生徒を陥れる為の遠回しな攻撃だった。
「だったらさ、せめて青井くんの疑惑を晴らさない?」
「疑惑? どうやって?」
「良い人アピールして汚名返上」
「やだよ。面倒くさい」
「あちこちの教室を廻って挨拶とか。1人1人に誠実さを訴えかけるわけよ」
「選挙活動中の政治家かっつの。お断りだ」
全く解決になっていない意見が飛び出す。恥の上塗りにしかならない提案が。
「ちぇっ……なら仕方ない。あたしが一肌脱ぐか」
「ストリップすんの?」
「いや、本当に脱ぐのよ」
「……は?」
否定されてもめげない友人は前向きな発言を連発。それどころか意味不明な事を言い出した。
「一体何する気だ…」
「明日まで待ってくれる? さすがに今日ここでって訳にはいかないから」
「別に構わないけど……変な事はしないでくれよ?」
「ヘーキ、ヘーキ。頼り甲斐のある星香ちゃんに任せなさい」
「ラーメンの具材になるのか?」
「だからそのイジりやめてってば!!」
すぐ側で怒鳴り散らされる。顔に唾がかかりそうな勢いで。
不安はあったが彼女に問題解消を一任する事に。特に打開策も浮かばないので何もしないよりはマシだった。
「うぃ~っす」
翌日、朝の教室でクラスメート達に挨拶を飛ばす。ポケットに手を突っ込みながら。
「ん?」
同時に彼らの様子を窺うが反応がおかしい。奇異の眼差しでこちらを見てきた。
「ねぇ、やっぱり…」
「昨日のヤツも本当だったんだね」
何やらヒソヒソ話をしている。教室のあちらこちらで。
「空輝!」
「おう、翔弥。はよっす」
「マズイよ! また変な噂が立ってる!」
「はぁ?」
入口で立ち竦んでいると焦り気味の友人が登場。挨拶をしたが彼の口からは返答とは違う台詞が飛び出した。
「これ!」
「ん? 何?」
目の前に端末が出現する。何かの画像が表示されたケータイが。前日の行動を再現するように恐る恐る覗き込んだ。
「え……何これ」
「成戸さんらしいんだけど空輝がやった事になってるんだよ!」
「はぁっ!?」
そこにあったのは体にアザがついた複数枚の写真。ただ構図や明るさが昨日の物と微妙に違っていた。
「ど、どういう事?」
「オレに聞かれてもさっぱり…」
状況が全く把握出来ない。唯一分かるのは画像が載せられているのが助っ人を名乗り出てくれた女子生徒のアカウントだという事。
「ふっふ~ん」
「あっ、成戸!」
「どうどう? 見てくれた? あたしが撮った写真」
混乱の場に本人が現れる。写真を投稿したであろう人物が。しかしその表情は何故か得意気だった。
「お前、これどういう事だよっ!」
「どういう事ってイタズラ画像を再現したんだけど?」
「再現って…」
「お母さんにメイク道具借りてやってみたの。参考動画を見ながらだけど案外簡単だったかなぁ」
「くっ…」
少しずつ理解する。この悲惨な現状が発生した原因を。
「アレが作り物だって証明出来れば青井くんの容疑も晴れるじゃん?」
「お前……バカか」
「はい?」
「これのせいで俺はまた女子に暴力を振るった最低野郎になってるんだよっ!!」
「え……えぇーーっ!?」
教室に劈くような叫び声が響いた。甲高い雄叫びが。
「だ、だってあたしはちゃんと補足に書いてたよ! チークやアイシャドーで再現したアザですって!」
「ひょっとしたらアザか本物で説明が嘘なんじゃないかって疑う奴も出てくるだろ! 同級生が全員、俺とお前の関係性を知ってる訳じゃないんだから!」
「むぅ……確かに」
「しかもよりによっていつ誰が見てるか分からないSNSに投稿するなや!」
「えへへ…」
「笑っても可愛くねーんだよっ!」
本能のままに怒鳴り散らす。拳を強く握り締めながら。
「だ、だったらどうすれば良いのさ。今さら消しても遅いだろうし」
「全裸で教室を廻ってアザが偽物ですアピールしてこい」
「えぇーーっ!? やだよ、そんなの! 恥ずかしい!」
「まったく、余計な事をしてくれやがってぇ…」
両手で髪を強く掻きむしった。血でも吹き出しそうな勢いで何度も。
「分かった! あたしが女だからダメなんだ!」
「……は?」
「今度は武藤くんでやってみよ。良いでしょ? ね?」
「え? オレ?」
悩む本人を他所に友人達が盛り上がる。明るいテンションで。ふざけているように見えるが一応は気にかけてくれているようだった。
「ねぇ、やっぱり…」
「女だけじゃなく男も好きだったんだね~」
「何股もかけた挙げ句に暴力を振るうなんて最低だわ」
翌日も自分の話題で学年中が熱気に包まれる。ただし勘違いに勘違いを重ねまくった酷い有り様だが。
「なるとぉおぉおぉおおっ!! ちょっと来い!」
「ひぃいーーっ!? ごめんなさい!」
登校してすぐに隣のクラスへと乗り込んだ。炎上の原因になった人物の元へと。
「お前のせいで余計に俺の立場が悪くなっちまっただろうがっ!!」
「ほんとゴメン! 謝るから許して!」
「浮気するし、男好きだし、すぐ手を出す奴になってるしでどうしてくれんだよぉーーっ!!」
「あはは……欲張りセットだね」
「本気でお前の全身をアザだらけにしてやろうかっ!?」
「やだやだやだっ! そんな事されたらお嫁にいけなくなっちゃう!」
声が枯れる勢いで怒鳴り散らす。心の中では号泣しながら。
「くっそぉ…」
説教をしてやりたいが立場が悪い。周りには真相を知らないどころか思い違いしている同級生達が大勢いるので。そんな状況で制裁でも加えようものなら噂が本当ですと立証しているものだった。
「マジでどうすんだよぉ…」
「ド、ドンマイ」
「あぁあぁああっ…」
僅か数日で学年中のヒールになる。下手したら学校一の嫌われ者に。何も悪い事をしていないのに悪役になってしまっていた。
教室にある自分の椅子に座って漢字のワークに取り組む。授業中ではなく自由行動が許されている休み時間に。
宿題として出された物をやり忘れていた事が判明。提出までは猶予があるので叱責を回避する為に奮闘していた。
「なぁ、これの解答集見せてくれよ」
しかし途中で時間が足りない事に気付く。ペースアップを図る為に反則技を使う事を決めた。
「え……僕が?」
「そうだよ。他に誰がいるんだ」
「で、でも…」
「俺、解答集なくしちゃったんだよ。だから見せてくれって。な?」
すぐ隣に座っていたクラスメートに助けを求める。1人でケータイゲームをやっていた内向的な性格の男子生徒に。
「……ん」
「おい、無視するなよ」
「えっと…」
「別にお前の答えを写させてくれって言ってる訳じゃないじゃん。それぐらい良いだろ?」
だが彼からはまともな返事が返ってこない。明らかに煙たがっている雰囲気でチラ見してきた。
「……トイレ行ってこよ」
「こらっ! 逃げんな!」
会話途中で相手が逃走してしまう。持っていたゲーム機をポケットの中に仕舞いながら。
「くっそ…」
露骨な嫌悪感剥き出しの態度。ただそれは彼だけの話ではない。今朝からクラス中の人間がよそよそしくこちらの様子を窺っていた。
「気分悪いな…」
その原因はネットで拡散されているDVを彷彿とさせる画像の数々。根も葉もない噂のせいで悪人になっていた。
「空輝、どうしたの?」
「忘れた宿題に取り組んでるんだけど協力者がいないせいで達成出来そうにない」
「なんだって!? ならオレが力になってやるよ!」
「ん? 翔弥は漢字のワークやってきたのか?」
「いや、やったんだけど持ってくるの忘れた」
「役に立たねぇ野郎だな」
孤立した場に友人が近付いてくる。他のクラスメート達と違って普段通りに接してきてくれる能天気が。
「しかし皆どうしちゃったのかなぁ…」
「フルーツバスケットの鬼になった気分だぜ」
「え? もしかして何かされたの?」
「嫌がらせはされてないけど話しかけたら逃げられた回数が数回」
「空輝に話しかけられて無視するなんて……オレだったら録音して何度もリピートしてやるってのに!」
「ごめん。今度からお前に声かけられても無視していいか?」
「そ、そんな…」
漫才のようなやり取りを展開。言動はふざけていたが彼といる時だけが唯一の心が安らぐ時間だった。
「んっ…」
遠目に様子を窺う。軋轢の発端となった女子生徒を。彼女は無言で席に座っていた。涙を流していた登校時とは違い無表情で。
「くっそ…」
けれどその周りには数名の女子が群がっている。常に誰かが側にいるので事情を聞きに行く事が出来なくなっていた。
「青井くん」
「あ? 何?」
ターゲットを観察中、視線を遮断するように目の前に人が現れる。スカートを穿いた生徒が。
「聞いたよ。春華さんに怪我させたんだって?」
「はぁ? どうしてお前までその情報を知ってんだよ?」
「だってあたしのクラスでも話題になってるもん。例の画像が出回っててさ」
「……ちっ」
その正体は隣の教室に在籍している同級生。中学時代からの知り合いである女子生徒だった。
「言っとくけど俺は何もしてないからな」
「あ、やっぱり? だと思った」
「あんな写真なんか撮った覚えないし、そもそも女子に暴力を振るった覚えもない」
「そうだよね~。まず青井くんみたいなガサツな人が春華さんと付き合ってるってのがおかしいし」
「いや、交際していたのはあながち嘘ではないというか本当かもしれないというか…」
「どっちなん?」
真実の中に嘘を混ぜる。非モテ男子だと思われたくないプライドからくるハッタリを。
「成戸はわざわざそれを確かめに来たの?」
「いや、名字で呼ぶのやめてよ。下の星香の方で呼んでって前から言ってるじゃん」
「成戸はわざわざそれを確かめに来たの?」
「だから上の名前で呼ぶのやめてって言ってるでしょーが!」
乱入者である女子生徒が大声で叫んだ。机を激しく叩きながら。
「バカ野郎っ! 親から受け継いだ大切な名前を嫌がるとは何事だ!」
「だ、だってさ…」
「お父さんもお母さんもご先祖様もきっとその名字に誇りを持って生きてきたんだぞ! 恥を知れ、恥を!」
「……うっ」
「ところで成戸はラーメンの具材ならどれが好き?」
「ほら、そうやってからかってくるからやめてって言ってるんじゃんかっ!!」
ワガママな同級生に説教をかます。反応が面白いので昔からよくおちょくっていた。
「成戸さんは暴れに来たの?」
「……武藤くんも名字で呼ぶのやめてよ」
「ごめん。でもこの呼び方で慣れちゃってるから」
自分以外の2人が言葉を交わす。彼らも中学時代から面識があるので。
「はぁ……でも元気そうで良かった」
「全然良くない。朝から何度もブチギレそうになってる」
「ほぇ? どして?」
「ずっと陰口を叩かれてるんだぞ。特に女子に」
直接的な被害は受けていないがそれはあくまでも立証出来る嫌がらせの話。こちらを警戒している意識は何度も感じ取っていた。
「まぁ、あたしのクラスでも喧喧囂囂だからね~。3分の1ぐらいは信じてて、3分の1はデマだって主張してて、残りの3分の1は興味なしって感じ」
「ウゼェ」
「あたしや武藤くんみたいに昔から青井くんを知ってたら違うかもって疑えるんだけど」
「噂って怖いよなぁ。中心から離れてる奴ほど間違えた情報を持ってたりするし」
「そうそう」
3人で雑談を始める。それぞれがそれぞれに向き合いながら。
「まず青井くんが人に暴力を振るう奴って認識が間違ってるもんね」
「おうともよ。俺は世界平和を願い続けてる博愛主義者だぜ」
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「ギャァアァアァアアッ!!?」
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「まさか本当に…」
「俺、あの人の連絡先すら教えてもらってないんだぞ。誰かが勝手に嘘情報を流したんだろ」
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「さぁ? 顔がハッキリ写ってないから何とも言えない」
「アザなんて合成出来ちゃうし信憑性は低いな~」
「だとしても誰かが悪意を持って行動してるのは事実だろ?」
「う~ん……まぁね」
誰が何の目的でこんな真似をしたかは不明だが一つだけハッキリとしている点がある。ネットに上げられた画像で多くの人が扇動されてしまっている事だった。
「ねぇ、あたしが聞いてきてあげよっか?」
「ん? 何を?」
「ここに写ってるのは春華さんなのかって直接」
成戸が胸元に手を当てる。興味津々といった表情を浮かべながら。
「やめとけやめとけ。そんなに親しい間柄でもないのに」
「え~、けど少なくともこれが春華さんかどうかは確かめられるじゃん」
「本当の事を言ってくれるかは分かんないぞ。仮に認めたとしても彼女の傷を抉る結果になるだろうし」
「むぅ……そう言われたらそうか」
これが第三者の仕業なら被写体の女子生徒は被害者。ただ自分の脳裏には違う考えが浮かんでいた。
「ん…」
恐らくこれらを撮影したのは本人。ネットに掲載したのも。秘密を握ってしまった男子生徒を陥れる為の遠回しな攻撃だった。
「だったらさ、せめて青井くんの疑惑を晴らさない?」
「疑惑? どうやって?」
「良い人アピールして汚名返上」
「やだよ。面倒くさい」
「あちこちの教室を廻って挨拶とか。1人1人に誠実さを訴えかけるわけよ」
「選挙活動中の政治家かっつの。お断りだ」
全く解決になっていない意見が飛び出す。恥の上塗りにしかならない提案が。
「ちぇっ……なら仕方ない。あたしが一肌脱ぐか」
「ストリップすんの?」
「いや、本当に脱ぐのよ」
「……は?」
否定されてもめげない友人は前向きな発言を連発。それどころか意味不明な事を言い出した。
「一体何する気だ…」
「明日まで待ってくれる? さすがに今日ここでって訳にはいかないから」
「別に構わないけど……変な事はしないでくれよ?」
「ヘーキ、ヘーキ。頼り甲斐のある星香ちゃんに任せなさい」
「ラーメンの具材になるのか?」
「だからそのイジりやめてってば!!」
すぐ側で怒鳴り散らされる。顔に唾がかかりそうな勢いで。
不安はあったが彼女に問題解消を一任する事に。特に打開策も浮かばないので何もしないよりはマシだった。
「うぃ~っす」
翌日、朝の教室でクラスメート達に挨拶を飛ばす。ポケットに手を突っ込みながら。
「ん?」
同時に彼らの様子を窺うが反応がおかしい。奇異の眼差しでこちらを見てきた。
「ねぇ、やっぱり…」
「昨日のヤツも本当だったんだね」
何やらヒソヒソ話をしている。教室のあちらこちらで。
「空輝!」
「おう、翔弥。はよっす」
「マズイよ! また変な噂が立ってる!」
「はぁ?」
入口で立ち竦んでいると焦り気味の友人が登場。挨拶をしたが彼の口からは返答とは違う台詞が飛び出した。
「これ!」
「ん? 何?」
目の前に端末が出現する。何かの画像が表示されたケータイが。前日の行動を再現するように恐る恐る覗き込んだ。
「え……何これ」
「成戸さんらしいんだけど空輝がやった事になってるんだよ!」
「はぁっ!?」
そこにあったのは体にアザがついた複数枚の写真。ただ構図や明るさが昨日の物と微妙に違っていた。
「ど、どういう事?」
「オレに聞かれてもさっぱり…」
状況が全く把握出来ない。唯一分かるのは画像が載せられているのが助っ人を名乗り出てくれた女子生徒のアカウントだという事。
「ふっふ~ん」
「あっ、成戸!」
「どうどう? 見てくれた? あたしが撮った写真」
混乱の場に本人が現れる。写真を投稿したであろう人物が。しかしその表情は何故か得意気だった。
「お前、これどういう事だよっ!」
「どういう事ってイタズラ画像を再現したんだけど?」
「再現って…」
「お母さんにメイク道具借りてやってみたの。参考動画を見ながらだけど案外簡単だったかなぁ」
「くっ…」
少しずつ理解する。この悲惨な現状が発生した原因を。
「アレが作り物だって証明出来れば青井くんの容疑も晴れるじゃん?」
「お前……バカか」
「はい?」
「これのせいで俺はまた女子に暴力を振るった最低野郎になってるんだよっ!!」
「え……えぇーーっ!?」
教室に劈くような叫び声が響いた。甲高い雄叫びが。
「だ、だってあたしはちゃんと補足に書いてたよ! チークやアイシャドーで再現したアザですって!」
「ひょっとしたらアザか本物で説明が嘘なんじゃないかって疑う奴も出てくるだろ! 同級生が全員、俺とお前の関係性を知ってる訳じゃないんだから!」
「むぅ……確かに」
「しかもよりによっていつ誰が見てるか分からないSNSに投稿するなや!」
「えへへ…」
「笑っても可愛くねーんだよっ!」
本能のままに怒鳴り散らす。拳を強く握り締めながら。
「だ、だったらどうすれば良いのさ。今さら消しても遅いだろうし」
「全裸で教室を廻ってアザが偽物ですアピールしてこい」
「えぇーーっ!? やだよ、そんなの! 恥ずかしい!」
「まったく、余計な事をしてくれやがってぇ…」
両手で髪を強く掻きむしった。血でも吹き出しそうな勢いで何度も。
「分かった! あたしが女だからダメなんだ!」
「……は?」
「今度は武藤くんでやってみよ。良いでしょ? ね?」
「え? オレ?」
悩む本人を他所に友人達が盛り上がる。明るいテンションで。ふざけているように見えるが一応は気にかけてくれているようだった。
「ねぇ、やっぱり…」
「女だけじゃなく男も好きだったんだね~」
「何股もかけた挙げ句に暴力を振るうなんて最低だわ」
翌日も自分の話題で学年中が熱気に包まれる。ただし勘違いに勘違いを重ねまくった酷い有り様だが。
「なるとぉおぉおぉおおっ!! ちょっと来い!」
「ひぃいーーっ!? ごめんなさい!」
登校してすぐに隣のクラスへと乗り込んだ。炎上の原因になった人物の元へと。
「お前のせいで余計に俺の立場が悪くなっちまっただろうがっ!!」
「ほんとゴメン! 謝るから許して!」
「浮気するし、男好きだし、すぐ手を出す奴になってるしでどうしてくれんだよぉーーっ!!」
「あはは……欲張りセットだね」
「本気でお前の全身をアザだらけにしてやろうかっ!?」
「やだやだやだっ! そんな事されたらお嫁にいけなくなっちゃう!」
声が枯れる勢いで怒鳴り散らす。心の中では号泣しながら。
「くっそぉ…」
説教をしてやりたいが立場が悪い。周りには真相を知らないどころか思い違いしている同級生達が大勢いるので。そんな状況で制裁でも加えようものなら噂が本当ですと立証しているものだった。
「マジでどうすんだよぉ…」
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【※第17回らぶドロップス恋愛小説コンテスト最終選考の結果が出たので再公開しました。改稿済みですが、キャラ名を一部変更しただけで内容に大きな変更はありません🙇♀️】
思い入れのあるレストランで婚約者に婚約破棄された挙げ句、式場のキャンセル料まで支払う羽目になった穂乃香。
帰りに立ち寄ったバーでしつこいナンパ男を撃退しようとカクテルをぶちまけるが、助けに入ってきた男の優れた見目に見蕩れてしまった穂乃香はそのまま意識を手放してしまう。
目を覚ますと、見目の優れた男とホテルにいるというテンプレ展開が待ち受けていたばかりか、紳士だとばかり思っていた男からの予期せぬ変態発言により思いもよらない事態に……!
数ヶ月後、心機一転転職した穂乃香は、どういうわけか社長の第二秘書に抜擢される。
驚きを隠せない穂乃香の前に社長として現れたのは、なんと一夜を共にした、あの変態男だった。
しかも、穂乃香の醸し出す香りに一目惚れならぬ〝一嗅ぎ惚れ〟をしたという社長から、いきなりプロポーズされて、〝業務の一環としてのビジネス婚〟に仕方なく応じたはずが……、驚くほどの誠実さと優しさで頑なだった心を蕩かされ、甘い美声と香りに惑わされ、時折みせるギャップと強引さで熱く激しく翻弄されてーー
嗅覚に優れた紳士な俺様社長と男性不信な生真面目秘書の遺伝子レベルで惹かれ合う極上のラブロマンス!
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*竹野内奏(タケノウチカナタ)32歳・働きたい企業ランキングトップを独占する大手総合電機メーカー「竹野内グループ」の社長・海外帰りの超絶ハイスペックなイケメン御曹司・優れた嗅覚の持ち主
*葛城穂乃香(カツラギホノカ)27歳・男性不信の生真面目秘書・過去のトラウマから地味な装いを徹底している
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※この作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません
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✧エブリスタ様にて初公開23.1.9✧
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