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ハルカ
8.内偵
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休み時間に教室の一角を陣取る。2人の同級生達を従えて。
「てわけで春華さんの私生活を調べたいと思う」
斜め向かいには翔弥が、そのすぐ横には隣のクラスから呼び出した成戸が座っていた。それぞれ神妙な面持ちを浮かべながら。
「調べるって具体的には何を?」
「そうだなぁ。住んでる家とか趣味や特技とか」
「スリーサイズも?」
「うむ。必要ならもちろん調べるぞ」
「いや、それは絶対いらないでしょ…」
会話がスタート直後から脱線してしまう。生物の本能とも言える下心に逆らえずに。
「とにかくアザに関係ありそうな事は徹底的に追及してみよう」
「本人に気付かれないように?」
「当然。誰かに打ち明けてくれてるならそもそもこんな事にはなってないだろ?」
「まぁ確かに…」
恐らく彼女は全てを秘密にしておきたいハズ。探ろうとする行為に感づかれれば余計に隠される可能性があった。
「まず春華さんて日常生活が謎なんだよね。部活も入ってないし、地元も分からないし」
「俺も帰宅部」
「オレもオレも」
「青井くんも武藤くんもどこかに入りなよ。どうせバイトもやってない暇人学生なんだからさ」
会議内容を修正するが再びズレてしまう。無関係な自分達の話題へと。
「成戸は家庭科部なんだっけ?」
「そだよ~。好きな時に集まってお菓子を作ったり裁縫したり自由な部活なんだ」
「練り物も作るの?」
「……ラーメンの具材とか絶対やんねぇからな」
「ちっ…」
返ってきた質問の答えに反応して舌打ちを打った。対してすぐ目の前には不機嫌な仏頂面が存在。至近距離で睨み合う展開になってしまった。
「あと春華さんって浮いた話も聞かないんだよね~」
「確かに。男子の人気高いけど彼氏いるのかな?」
「う~ん……いるって話は1回しか聞いた事ないぞ」
「え? あるの?」
「いや、ここに当事者いるし」
「……は?」
友人達が揃って指を伸ばしてくる。無礼にも顔を目掛けて。
「だから俺は違うって言ったじゃん! 勝手に嘘を広められたんだよ!」
「空輝以外だと聞いた覚えは無いなぁ」
「でも暴力を振るうってなったらかなり近しい人じゃないと無理じゃない?」
「てことは…」
「いる可能性が高いとあたしは思います」
場に漂う空気が微妙に変化。一気に重苦しくなってしまった。
「やっぱりそうか…」
「あんだけモテてるんだから別に不思議じゃないもん。公言してないだけでさ」
「ちなみに成戸は何人ぐらいに告られた事ある?」
「え? 知りたい? 気になっちゃう感じ?」
「翔弥は小学生の時にラブレター貰ってたよな?」
「そうだね。1つ下の子に手紙を貰った事あるよ」
「……ねぇ。人に聞いておいて無視するの辛いからやめない?」
ボケとツッコミを反復させる。立場を何度も逆転させながら。真面目な話し合いのハズなのに誰も真剣に取り組んでいなかった。
「とりあえず付き合ってる相手を特定しよう。そいつが犯人の可能性が一番高い」
「了解。んで、あたし達は何をすればいいわけ?」
「成戸は春華さんの交遊関係を調べてくれ。女子の方がいろいろ聞きやすいだろ?」
「ほ~い」
「翔弥は直接本人を追跡。俺がやると怪しまれるからさ」
「OK。でもどうせなら他の連中にも協力してもらった方が良くない?」
「いや、大人数で動くと目立っちゃう。このまま少数精鋭でいこう」
それぞれの役割分担を決める。選手に指示を出す監督のように。
「青井くんは何をやるの?」
「男子の方を調べるよ。それっぽい奴がいないかを」
「ほいほい。まるであたしら探偵みたいだね」
「いいか? 失敗したら事件が明るみになる前にその場で舌を噛んで自決しろよ!」
「余計に事件にならない?」
ただ問題はその人選。翔弥も成戸も成績はイマイチ。自分も含めて賢い人間が誰もいなかった。
「え~と…」
友人達と別れた後は単独で廊下を歩く。辺りを見回しながら。
「なぁなぁ」
「へ?」
「ちょっと話があるんだけど良いかい?」
「な、何?」
その途中で気の弱そうな男子生徒を発見。近付いて首元に腕を回した。
「俺達の学年で一番人気ある男子って誰?」
「はい?」
「女子にモテてる奴。憶測でいいから教えてくれよ」
続けてアンケートを開始する。これまであまりしてこなかった色恋沙汰についての話題を。
ターゲットは学年でトップクラスと言い表してもいいレベルの人気者。となれば当然その相手も同ランクの可能性が高い。上から順に犯人探しをしていこうという算段だった。
「そ、そんな事をいきなり聞かれても…」
「別に難しい質問はしてないじゃん。お前がイケメンだと思う生徒の名前を挙げてくれればいいんだって」
「えぇ…」
「ほれ、早く」
「なら……青井くん」
「はぁっ!?」
焦らしていると回答者が思わぬ答えを口にする。人生で最多に聞かされている名字を。
「バカ、お前! 俺がイケメンって……バカ!」
「ご、ごめん…」
「他にも格好いい奴いるだろ。なんでよりによって俺なんだよ~」
「いや、僕は青井くんは格好いいと思うけど…」
「まったく、しゃ~ねぇ。とりあえずサンキューな」
「あ……うん」
要求に応じてくれたのですぐに解放。礼の言葉を告げながら肩を優しく叩いてその場を離れた。
「やれやれ、困ったもんだぜ」
1人になった後は再び廊下を進む。ズボンのポケットに手を突っ込みながら。
「ひっひっひ…」
口では不満の声を漏らしていたが心の中は僥倖でいっぱい。頬の緩みを抑えきれなかった。
「むぅ、ダメか…」
その後も地道な聞き込みをするが進展は無し。範囲を他の学年の男子に拡大しても。それらしき有力候補を絞る域にすら辿り着かなかった。
「どうだった?」
翌日の休み時間に再度3人で集まる。教室で不在中の人物達の机や椅子を無断で借りて。
「あたしの方は全然。誰に交際相手を尋ねても知らぬ存ぜぬの一点張り」
「おいおい、名前が星香のクセに成果なしか」
「う、うるさいなっ! 名前は関係ないじゃん!」
「俺の方も手がかり無し」
「う~ん……ひょっとして水前寺以外の生徒なんじゃない?」
「……そうか。別の学校の人間って可能性もあるんだよな」
「うむ」
お互いに首尾を確かめ合うが空振りという結果に。何度もバットを振ったにもかかわらず掠りもしなかった。
「もしくは先生達の誰かとお付き合いしてるとか」
「うひょ~、教師と生徒の禁断の愛」
「けどさすがにこれは無いか。あったら誰かしらが勘づいてるハズだし」
「俺はそれ系の動画なら美人女教師が大勢の男子生徒に襲われるシチュエーションの方が好きだぞ」
「……何の話をしてるのさ、スケベマン」
目の前にいた友人に睨まれてしまう。軽蔑の意思を露骨に表した表情に。
「あれ? どしたん?」
その眼差しを受け流す形で視線を隣に移動。もう1人の友人がずっと無言を貫いていた。
「オレさ、空輝に言われた通り放課後に春華さんを尾行したんだ」
「彼氏っぽい奴出てきた?」
「いや、途中で見失っちゃって」
「はぁ? 何やってるんだよ!」
彼の口からも芳しくない報告が飛び出す。失敗という期待外れの結果が。
「だって向こうは駅からチャリなのにオレは徒歩なんだよ?」
「むぅ……なら撒かれても仕方ないか」
「後ろに乗せてもらっても良いかなって尋ねたんだけど断られちゃった」
「直接話しかけちゃってんじゃねぇか、無能無能無能!」
理由を問い詰めるも原因を聞かされて納得。直後に怒りの声をブチまけた。
「ただ一つ気になる事があってさ」
「何?」
「走って追いかけたんだけど春華さん、自宅には帰らず公園のベンチに座っちゃったんだ」
「寄り道したかったんだろ? 気分転換に」
「でも夜の10時ぐらいまでいたんだけど」
「10時!?」
「うん。正確には10時過ぎ」
続けてマヌケな探偵が別の情報を伝えてくる。理解が出来ない行動のデータを。
「オレの予測なんだけど家に帰りたくなくて粘ってるって感じだった」
「誰かと待ち合わせしてたとかじゃなく?」
「それは無いと思う。ケータイを気にする素振りも見せなかったし、最後は1人で自転車に乗って去って行ったし」
「なら違うか…」
「ていうか武藤くん、ずっと春華さんを監視してたの?」
「そうだよ。4時間以上道路に立ってた」
「怖ぇよっ! 背後霊か!」
戦きながら後退った。友人の異常すぎる任務の遂行具合が恐ろしくて。
「春華さんが自転車に乗ってからまた走って追いかけたんだけど見失っちゃった。ごめん」
「ひょっとして翔弥の尾行に気付いてて家バレを回避したんじゃ…」
「あ、そういえばあたしも自宅の事で気になる事があったんだ」
「ん?」
猜疑心を増幅させている途中で成戸が会話を遮る発言をする。その切り出し方が何かを思い出したかのような口調だった。
「春華さんと親しくしてる子達に家の情報を聞いてみたんだ。もしかしたら写真を撮るのに協力した相手が分かるかもしれないし」
「ほう。それで?」
「そしたら誰も自宅に行った事ないんだってさ」
「はぁ?」
自ら意見発信した割には大した事のない内容を返してくる。告げる必要性の無い報告を。
「その子達が嘘ついてるんじゃねぇの?」
「うぅん、違うの。地元すら教えてもらってないんだってよ」
「中学からの知り合いは? 1人ぐらいいるだろ」
「それがまったくのゼロ。仮に嘘をつくとしてもそんな口裏合わせすると思う?」
「……しないよな。誰かしらからボロが出るし、卒アルとか調べたら本当かどうかすぐ分かっちゃう訳だし」
「でっしょ?」
ただの不必要な情報かと思ったがよく考えたら不自然。学年の人気者が素性を知られていないのは本人が隠匿しない限り有り得なかった。
「こうなってくると家が怪しいな」
「うん。あたしも恥ずかしいから隠してるぐらいにしか考えてなかったんだけど武藤くんの話を聞いておかしいって感じた」
「……よし! 今度は俺が聞いてこよう」
「え? 誰に?」
「本人に直接」
「へ?」
心の中に大きな決意を固める。危険なテリトリーに踏み込む覚悟を。それは数日前の嫌われ者に再び戻る可能性が存在。だけど不思議と躊躇いはなかった。
「さ~て、行きますか」
放課後になると鞄を携えて教室を出る。友人達とは共に行動せず単独で。
「んっ…」
予想通りターゲットは今日も1人きりでの下校。尾行する側からしたらうってつけのシチュエーションだった。
「またね~」
多くの生徒が次々に校舎を出ていく。運動部の部室に向かったり、友達とお喋りしながら。1日の授業に疲弊していてもテンションの高い者がほとんどだった。
「う~ん…」
そんな生徒達とは対照的に前を歩くクラスメートは覇気が無い。魂でも抜き取られてしまったかのように。
「お?」
しばらくすると彼女がある施設に入っていく。水前寺の学生にも多く利用されている駅へと。
「直帰か…」
寄り道して行く気はないらしい。地元に移動してから道草を食う可能性はあるが。どちらにしろこの町を離れるのは確定なので追跡続行の為に一緒に改札をくぐった。
「うぃっす」
「……え?」
「隣いい?」
「ちょっ…」
電車に乗り込んだタイミングで声をかける。すぐ横の座席に図々しく腰掛けながら。
「な、何の用ですか?」
「いやぁ、ちょっと聞きたい事があって」
「……まだ私に言いたい事があるんでしょうか」
「うん。いっぱいある」
「え?」
当然だが相手から返ってきたのは困惑のリアクション。抵抗されはしたがその反応を無視して言葉を繋げた。
「アザの写真。あれ誰が撮ったの?」
「私……です」
「嘘だね。誰がネットに載せたか分からないように工作したのなら、今ここで真相を俺にバラす意味ないし」
「そ、それは…」
「親に虐待されてるんじゃないの?」
「……っ!?」
核心にせまる台詞を直球にぶつける。周りにいる他の乗客には聞こえないように気を配りながら。
「……そんな事はされてません」
「本当に?」
「まず青井くんには関係の無い事ですよね? どうしてそこまで人様の内情にズカズカ踏み込んでくるのですか?」
「もし誰かに暴力を振るわれてたら俺がそいつをブッ飛ばしてやる」
「へっ!?」
握った拳を対話相手の視線の先に移動。悪行の予告を悪びれもせず見せつけた。
「け、警察に捕まりたいんですか?」
「誰かさんが万引きした件を自首するなら俺も付いて行くぞ。その辺の交番に」
「んっ…」
「でもそれが追い詰められた末にした行動なら元から断たないとな。元凶そのものからよ」
「あ…」
恐らく彼女が犯罪に走ったのはただの快楽行為ではない。まともな金銭を与えられていないか、もしくは傷付けられた精神を慰める為の現実逃避。どちらにしろ見過ごせない由々しき事態だった。
「……いますよね。そうやって何でも暴力で解決しようとする人」
「野蛮だという自覚はある」
「口先だけならいくらでも威勢を張れますし」
「ん? 疑ってるの? まぁ有言実行するかは状況次第だけども」
「けど……余計なお節介です」
「あっ!?」
春華さんが立ち上がる。会話を打ち切るように勢いよく。
「げっ!」
そのまま開いていたドアの外に移動。次の停車駅のホームへと。追いかけようとしたが寸前で閉まってしまった。
「くっそ、逃げられた…」
窓の外に姿が見えるが声をかけられない。叫んだところでそもそも止まってくれるハズもない。
「ぐっ…」
別の車両に乗り換えて折り返してきても彼女は既にいなくなっているであろう。事前に翔弥に聞いていた話ではここは地元ではない。逃走する為に下車したのは明白だった。
「あ~あ、本屋の時と同じかよ」
追いかけたがまともに取り合ってもらえず。ただ相手を混乱させただけで終わってしまった。
「てわけで春華さんの私生活を調べたいと思う」
斜め向かいには翔弥が、そのすぐ横には隣のクラスから呼び出した成戸が座っていた。それぞれ神妙な面持ちを浮かべながら。
「調べるって具体的には何を?」
「そうだなぁ。住んでる家とか趣味や特技とか」
「スリーサイズも?」
「うむ。必要ならもちろん調べるぞ」
「いや、それは絶対いらないでしょ…」
会話がスタート直後から脱線してしまう。生物の本能とも言える下心に逆らえずに。
「とにかくアザに関係ありそうな事は徹底的に追及してみよう」
「本人に気付かれないように?」
「当然。誰かに打ち明けてくれてるならそもそもこんな事にはなってないだろ?」
「まぁ確かに…」
恐らく彼女は全てを秘密にしておきたいハズ。探ろうとする行為に感づかれれば余計に隠される可能性があった。
「まず春華さんて日常生活が謎なんだよね。部活も入ってないし、地元も分からないし」
「俺も帰宅部」
「オレもオレも」
「青井くんも武藤くんもどこかに入りなよ。どうせバイトもやってない暇人学生なんだからさ」
会議内容を修正するが再びズレてしまう。無関係な自分達の話題へと。
「成戸は家庭科部なんだっけ?」
「そだよ~。好きな時に集まってお菓子を作ったり裁縫したり自由な部活なんだ」
「練り物も作るの?」
「……ラーメンの具材とか絶対やんねぇからな」
「ちっ…」
返ってきた質問の答えに反応して舌打ちを打った。対してすぐ目の前には不機嫌な仏頂面が存在。至近距離で睨み合う展開になってしまった。
「あと春華さんって浮いた話も聞かないんだよね~」
「確かに。男子の人気高いけど彼氏いるのかな?」
「う~ん……いるって話は1回しか聞いた事ないぞ」
「え? あるの?」
「いや、ここに当事者いるし」
「……は?」
友人達が揃って指を伸ばしてくる。無礼にも顔を目掛けて。
「だから俺は違うって言ったじゃん! 勝手に嘘を広められたんだよ!」
「空輝以外だと聞いた覚えは無いなぁ」
「でも暴力を振るうってなったらかなり近しい人じゃないと無理じゃない?」
「てことは…」
「いる可能性が高いとあたしは思います」
場に漂う空気が微妙に変化。一気に重苦しくなってしまった。
「やっぱりそうか…」
「あんだけモテてるんだから別に不思議じゃないもん。公言してないだけでさ」
「ちなみに成戸は何人ぐらいに告られた事ある?」
「え? 知りたい? 気になっちゃう感じ?」
「翔弥は小学生の時にラブレター貰ってたよな?」
「そうだね。1つ下の子に手紙を貰った事あるよ」
「……ねぇ。人に聞いておいて無視するの辛いからやめない?」
ボケとツッコミを反復させる。立場を何度も逆転させながら。真面目な話し合いのハズなのに誰も真剣に取り組んでいなかった。
「とりあえず付き合ってる相手を特定しよう。そいつが犯人の可能性が一番高い」
「了解。んで、あたし達は何をすればいいわけ?」
「成戸は春華さんの交遊関係を調べてくれ。女子の方がいろいろ聞きやすいだろ?」
「ほ~い」
「翔弥は直接本人を追跡。俺がやると怪しまれるからさ」
「OK。でもどうせなら他の連中にも協力してもらった方が良くない?」
「いや、大人数で動くと目立っちゃう。このまま少数精鋭でいこう」
それぞれの役割分担を決める。選手に指示を出す監督のように。
「青井くんは何をやるの?」
「男子の方を調べるよ。それっぽい奴がいないかを」
「ほいほい。まるであたしら探偵みたいだね」
「いいか? 失敗したら事件が明るみになる前にその場で舌を噛んで自決しろよ!」
「余計に事件にならない?」
ただ問題はその人選。翔弥も成戸も成績はイマイチ。自分も含めて賢い人間が誰もいなかった。
「え~と…」
友人達と別れた後は単独で廊下を歩く。辺りを見回しながら。
「なぁなぁ」
「へ?」
「ちょっと話があるんだけど良いかい?」
「な、何?」
その途中で気の弱そうな男子生徒を発見。近付いて首元に腕を回した。
「俺達の学年で一番人気ある男子って誰?」
「はい?」
「女子にモテてる奴。憶測でいいから教えてくれよ」
続けてアンケートを開始する。これまであまりしてこなかった色恋沙汰についての話題を。
ターゲットは学年でトップクラスと言い表してもいいレベルの人気者。となれば当然その相手も同ランクの可能性が高い。上から順に犯人探しをしていこうという算段だった。
「そ、そんな事をいきなり聞かれても…」
「別に難しい質問はしてないじゃん。お前がイケメンだと思う生徒の名前を挙げてくれればいいんだって」
「えぇ…」
「ほれ、早く」
「なら……青井くん」
「はぁっ!?」
焦らしていると回答者が思わぬ答えを口にする。人生で最多に聞かされている名字を。
「バカ、お前! 俺がイケメンって……バカ!」
「ご、ごめん…」
「他にも格好いい奴いるだろ。なんでよりによって俺なんだよ~」
「いや、僕は青井くんは格好いいと思うけど…」
「まったく、しゃ~ねぇ。とりあえずサンキューな」
「あ……うん」
要求に応じてくれたのですぐに解放。礼の言葉を告げながら肩を優しく叩いてその場を離れた。
「やれやれ、困ったもんだぜ」
1人になった後は再び廊下を進む。ズボンのポケットに手を突っ込みながら。
「ひっひっひ…」
口では不満の声を漏らしていたが心の中は僥倖でいっぱい。頬の緩みを抑えきれなかった。
「むぅ、ダメか…」
その後も地道な聞き込みをするが進展は無し。範囲を他の学年の男子に拡大しても。それらしき有力候補を絞る域にすら辿り着かなかった。
「どうだった?」
翌日の休み時間に再度3人で集まる。教室で不在中の人物達の机や椅子を無断で借りて。
「あたしの方は全然。誰に交際相手を尋ねても知らぬ存ぜぬの一点張り」
「おいおい、名前が星香のクセに成果なしか」
「う、うるさいなっ! 名前は関係ないじゃん!」
「俺の方も手がかり無し」
「う~ん……ひょっとして水前寺以外の生徒なんじゃない?」
「……そうか。別の学校の人間って可能性もあるんだよな」
「うむ」
お互いに首尾を確かめ合うが空振りという結果に。何度もバットを振ったにもかかわらず掠りもしなかった。
「もしくは先生達の誰かとお付き合いしてるとか」
「うひょ~、教師と生徒の禁断の愛」
「けどさすがにこれは無いか。あったら誰かしらが勘づいてるハズだし」
「俺はそれ系の動画なら美人女教師が大勢の男子生徒に襲われるシチュエーションの方が好きだぞ」
「……何の話をしてるのさ、スケベマン」
目の前にいた友人に睨まれてしまう。軽蔑の意思を露骨に表した表情に。
「あれ? どしたん?」
その眼差しを受け流す形で視線を隣に移動。もう1人の友人がずっと無言を貫いていた。
「オレさ、空輝に言われた通り放課後に春華さんを尾行したんだ」
「彼氏っぽい奴出てきた?」
「いや、途中で見失っちゃって」
「はぁ? 何やってるんだよ!」
彼の口からも芳しくない報告が飛び出す。失敗という期待外れの結果が。
「だって向こうは駅からチャリなのにオレは徒歩なんだよ?」
「むぅ……なら撒かれても仕方ないか」
「後ろに乗せてもらっても良いかなって尋ねたんだけど断られちゃった」
「直接話しかけちゃってんじゃねぇか、無能無能無能!」
理由を問い詰めるも原因を聞かされて納得。直後に怒りの声をブチまけた。
「ただ一つ気になる事があってさ」
「何?」
「走って追いかけたんだけど春華さん、自宅には帰らず公園のベンチに座っちゃったんだ」
「寄り道したかったんだろ? 気分転換に」
「でも夜の10時ぐらいまでいたんだけど」
「10時!?」
「うん。正確には10時過ぎ」
続けてマヌケな探偵が別の情報を伝えてくる。理解が出来ない行動のデータを。
「オレの予測なんだけど家に帰りたくなくて粘ってるって感じだった」
「誰かと待ち合わせしてたとかじゃなく?」
「それは無いと思う。ケータイを気にする素振りも見せなかったし、最後は1人で自転車に乗って去って行ったし」
「なら違うか…」
「ていうか武藤くん、ずっと春華さんを監視してたの?」
「そうだよ。4時間以上道路に立ってた」
「怖ぇよっ! 背後霊か!」
戦きながら後退った。友人の異常すぎる任務の遂行具合が恐ろしくて。
「春華さんが自転車に乗ってからまた走って追いかけたんだけど見失っちゃった。ごめん」
「ひょっとして翔弥の尾行に気付いてて家バレを回避したんじゃ…」
「あ、そういえばあたしも自宅の事で気になる事があったんだ」
「ん?」
猜疑心を増幅させている途中で成戸が会話を遮る発言をする。その切り出し方が何かを思い出したかのような口調だった。
「春華さんと親しくしてる子達に家の情報を聞いてみたんだ。もしかしたら写真を撮るのに協力した相手が分かるかもしれないし」
「ほう。それで?」
「そしたら誰も自宅に行った事ないんだってさ」
「はぁ?」
自ら意見発信した割には大した事のない内容を返してくる。告げる必要性の無い報告を。
「その子達が嘘ついてるんじゃねぇの?」
「うぅん、違うの。地元すら教えてもらってないんだってよ」
「中学からの知り合いは? 1人ぐらいいるだろ」
「それがまったくのゼロ。仮に嘘をつくとしてもそんな口裏合わせすると思う?」
「……しないよな。誰かしらからボロが出るし、卒アルとか調べたら本当かどうかすぐ分かっちゃう訳だし」
「でっしょ?」
ただの不必要な情報かと思ったがよく考えたら不自然。学年の人気者が素性を知られていないのは本人が隠匿しない限り有り得なかった。
「こうなってくると家が怪しいな」
「うん。あたしも恥ずかしいから隠してるぐらいにしか考えてなかったんだけど武藤くんの話を聞いておかしいって感じた」
「……よし! 今度は俺が聞いてこよう」
「え? 誰に?」
「本人に直接」
「へ?」
心の中に大きな決意を固める。危険なテリトリーに踏み込む覚悟を。それは数日前の嫌われ者に再び戻る可能性が存在。だけど不思議と躊躇いはなかった。
「さ~て、行きますか」
放課後になると鞄を携えて教室を出る。友人達とは共に行動せず単独で。
「んっ…」
予想通りターゲットは今日も1人きりでの下校。尾行する側からしたらうってつけのシチュエーションだった。
「またね~」
多くの生徒が次々に校舎を出ていく。運動部の部室に向かったり、友達とお喋りしながら。1日の授業に疲弊していてもテンションの高い者がほとんどだった。
「う~ん…」
そんな生徒達とは対照的に前を歩くクラスメートは覇気が無い。魂でも抜き取られてしまったかのように。
「お?」
しばらくすると彼女がある施設に入っていく。水前寺の学生にも多く利用されている駅へと。
「直帰か…」
寄り道して行く気はないらしい。地元に移動してから道草を食う可能性はあるが。どちらにしろこの町を離れるのは確定なので追跡続行の為に一緒に改札をくぐった。
「うぃっす」
「……え?」
「隣いい?」
「ちょっ…」
電車に乗り込んだタイミングで声をかける。すぐ横の座席に図々しく腰掛けながら。
「な、何の用ですか?」
「いやぁ、ちょっと聞きたい事があって」
「……まだ私に言いたい事があるんでしょうか」
「うん。いっぱいある」
「え?」
当然だが相手から返ってきたのは困惑のリアクション。抵抗されはしたがその反応を無視して言葉を繋げた。
「アザの写真。あれ誰が撮ったの?」
「私……です」
「嘘だね。誰がネットに載せたか分からないように工作したのなら、今ここで真相を俺にバラす意味ないし」
「そ、それは…」
「親に虐待されてるんじゃないの?」
「……っ!?」
核心にせまる台詞を直球にぶつける。周りにいる他の乗客には聞こえないように気を配りながら。
「……そんな事はされてません」
「本当に?」
「まず青井くんには関係の無い事ですよね? どうしてそこまで人様の内情にズカズカ踏み込んでくるのですか?」
「もし誰かに暴力を振るわれてたら俺がそいつをブッ飛ばしてやる」
「へっ!?」
握った拳を対話相手の視線の先に移動。悪行の予告を悪びれもせず見せつけた。
「け、警察に捕まりたいんですか?」
「誰かさんが万引きした件を自首するなら俺も付いて行くぞ。その辺の交番に」
「んっ…」
「でもそれが追い詰められた末にした行動なら元から断たないとな。元凶そのものからよ」
「あ…」
恐らく彼女が犯罪に走ったのはただの快楽行為ではない。まともな金銭を与えられていないか、もしくは傷付けられた精神を慰める為の現実逃避。どちらにしろ見過ごせない由々しき事態だった。
「……いますよね。そうやって何でも暴力で解決しようとする人」
「野蛮だという自覚はある」
「口先だけならいくらでも威勢を張れますし」
「ん? 疑ってるの? まぁ有言実行するかは状況次第だけども」
「けど……余計なお節介です」
「あっ!?」
春華さんが立ち上がる。会話を打ち切るように勢いよく。
「げっ!」
そのまま開いていたドアの外に移動。次の停車駅のホームへと。追いかけようとしたが寸前で閉まってしまった。
「くっそ、逃げられた…」
窓の外に姿が見えるが声をかけられない。叫んだところでそもそも止まってくれるハズもない。
「ぐっ…」
別の車両に乗り換えて折り返してきても彼女は既にいなくなっているであろう。事前に翔弥に聞いていた話ではここは地元ではない。逃走する為に下車したのは明白だった。
「あ~あ、本屋の時と同じかよ」
追いかけたがまともに取り合ってもらえず。ただ相手を混乱させただけで終わってしまった。
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✧エブリスタ様にて初公開23.1.9✧
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