悠久のクシナダヒメ 「日本最古の異世界物語」 第三部

Hiroko

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2 龍宮

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「なにをしておるのですか、こんなところで」一匹のサメが、僕に声をかけてきた。僕はその声に目を開けると、自分が水の中にいることに気が付いた。
 あれ? どうして僕はこんなところにいるんだろう。
 上を向いて水中を揺らいでいたので、開けた目にはキラキラと遠くに光る水面が見える。けれど今は夜のようだ。辺りは暗い。どうやら水面を光らせているのは月の光らしい。
「僕? 僕かい? 僕は泳いでいるんだよ」
「そなたは魚ではなかろう。こんな海深く、溺れて死にかけているようにしか見えませぬ」
「そうかい? でも気持ちいいんだ。ずっと歩いていたからね。まるで空を飛んでいるようさ」
「そう申されるのなら放っておかぬこともありませぬが、まだそなたに死なれては困る者がいるのではありませぬか? わらわとて海の神。命を救ってもらった恩人を、この海で死なせるわけにはいきませぬ」
「命を助けた? 僕がかい? 君は、その、誰だっけなあ。声は知っているんだよ。でもどこで会ったかなあ」
「ええ。遠い先の世界で、わらわはそなたに命を救われました、セミのお方」

 どこかで聞いたことあるんだよなあ、「セミのお方」って呼び方。僕はそんなことをぼんやり考えながら、どうやら亀の背中に乗せられ、海の中をどこかに向かって進んでいるようだった。でも、サメに友達はいないんだよなあ。
 海の水は冷たくなったり温かくなったりした。
対馬島つしまより温かい水が流れ込みます」とサメは説明した。その中を泳いでいる間に温かさを感じるのだと。けれどもその海流は僕たちの向かっている方向とは逆に流れているため、なかなか前に進まないのが困ったものだと説明した。
「どこに向かっているんだい?」
阿児奈波おきなはと言うところでございます」
「そこにはいったい何があるんだい?」
「そなたに会わせねばいけぬお方がいらっしゃいます」
 いったい誰に会うんだろう。僕はそう考えながら、昼が二回、夜が二回の間、亀の背中に乗せられたまま海の中を進んだ。

「さあ着きました」そう言われたのは、三回目の昼のことだった。亀の背中を下りて目にしたものは、まるで花畑に舞う蝶のような色とりどりの魚たちと、小さなお城のように立派な石でできた神社だった。
「すごい! 海の中なのにこんな場所があるなんて!」
「ここは龍宮と呼ばれる場所です。時の流れを止めておりますゆえ、ここで思うがままに心と体をお安めください、セミのお方」声は確かにサメだったのだけれど、振り向いて見たその姿は、僕よりも年下の美しい女の子に変わっていた。
「僕はどこかで君に……」
「ええ、ええ、思い出せないのですね。大丈夫です。心が少し疲れているのです。ですがそなたが海に流され、再び私と会ったのも深いご縁でございましょう」



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