男爵令嬢を甘く見ないでください。

第５話 伯爵家の崩壊

「ぬ、ぬわああああああ！！！」

　自室でレンフローは叫びながら暴れていた。
　これまで円滑に取引を進めていた企業から、一斉に取引中止を言い渡す手紙がきたのだ。

「なぜだぁ！！！　なぜなのだぁ！！！！」

　これでは経営が成り立つはずもない。
　聞けば侯爵家の通達だと言う。

「くぅう……。裏切られたぁ……」

　涙を流しながら、机をバンバンと叩く。
　その音を聞いたウリアが、慌てて部屋に飛び込んできた。

「お父様！？　どうなさったの！？」
「ウリア……。伯爵家はもう終わりだ。侯爵家を敵に回してしまった……」
「当主が弱気になってどうするのですか！　いつでも自分の家に誇りを持ち、立派に皆をまとめあげるのが当主であると、お父様は教えてくださったでしょう！？」
「うるさぁあああい！！！」

　頭のおかしくなったレンフローは、ベッドに飛び込んでしまった。

「私は一歩もここを出ない！　もうお前に全部任せたから勝手にしろ！」
「か、勝手にって。それ……」

　ウリアは、飛び上がって喜んだ。

「今日から私が当主ってこと！？」

　跳ねるようにレンフローの部屋を出て、執事の部屋へと向かう。

「ねぇねぇ！　今日から私が当主なの！」
「……はい？」

　事情を聞いた執事の顔が青ざめた。
　こんな家にいたら、自分まで酷い目に遭いそうだ。
　屋敷中に噂が広まり……。

「あら？　みんなどこに行ったのかしら」

　使用人は、全員逃げ出した。

「もしかして、私が当主になったことをお祝いするパーティを開いてくれるつもりなのかしら！」

　お気楽なウリアは、再びレンフローの部屋へと戻る。
　豪華な椅子に座りながら、誇らしげに胸を張った。

「当主当主～。あっ、そうだわ！」

　ウリアは何かを思い出したように部屋を出た。
　屋敷の外では、うっかり逃げ遅れたメイドが一人。

「ウ、ウリア様……」
「あらあなた。ちょっと手伝いなさい」
「何をですか……？」
「良いから来なさい！　当主に口答えするんじゃないわよ！」

　メイドに命令して、レンフローの部屋にある金目の物を、ありったけ袋に詰めさせた。

「今から公爵家に行くわよ」
「え……」
「子爵も侯爵もダメでも、公爵家が裏切るはずはないわ！　だって、過去の恩があるもの！」
「し、しかし。奥様は……」
「わかってるわ。こんな時に旅行していて、国外に行っている。でも私だってお話したことあるんだから！　しかも当主なのよ！？　絶対お願いを聞いてくれるに決まってるわ！　行ってくるわね！」

　ウリアは自信満々の様子で、公爵家へと向かった。