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第7話 最後の罠

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「ウリア。よく来たわね」

 ジブステン公爵家当主の妻、ラゼーロ・ジブステンがウリアを出迎えた。

「驚いたわ。執事に聞いたわよ。当主になったの?」
「その通りでございます! 今朝、お父様から当主を引き継ぎましたわ」
「ふふっ。おめでとうございます。お座りになって? 紅茶を飲みましょう」
「その前に……」

 ウリアは袋から、レンフローの部屋から持ってきた高級品を取り出し、次から次へと並べ始めた。

「まぁ。どうしたの? そんなにたくさん」
「これを……。ラゼーロ様に差し上げようと思いますの」
「あら嬉しいわね。でもどうして?」
「……男爵家の領地が欲しいのです」

 ラゼーロが不敵な笑みを浮かべた。

「随分面白いことをおっしゃるのね。領地ですって?」
「はい。……我がケイトハーグ家なら、もっと港で成果を出すことができます。男爵家に任せておくわけにはいきませんわ」
「なるほど。だからこの高級品をくれるというわけね?」
「その通りでございます。どれもお父様から譲り受けた高級品。全て差し上げます」
「交渉がお上手なのね。わかったわ。でも、紅茶が冷めてしまうから、とりあえず飲みましょう」

 ウリアは紅茶を冷ましながら、ゆっくりと飲んだ。
 美味しい。さすが公爵家だ。
 あるいは、当主として初めての交渉が成功した故の、勝利の味かもしれない。

 こぼれそうになる笑みを抑えながら、ウリアは紅茶を楽しんだ。
 当主となった以上、一つ一つの交渉で喜ぶわけにはいかない。

「どうしたの? 難しい顔をして」
「いえ……」
「ウリア。あなたのお母様と、私の仲だもの。これからも困ったことがあれば、なんでも言ってちょうだい」
「ありがとうございます」

 これ以上は顔の綻びを堪えきれない。そう思ったウリアは、早々にジブステン家を去った。
 しかし、屋敷を出てからは、すぐにスキップを始め、鼻歌を交えながら自分の家に帰ったのだという。

 その報告を聞いて、ラゼーロは思わず笑ってしまった。

「馬鹿なのね。あの子って」

 辛辣な一言だったが、実際その通りだろう。
 
「もはや脳みそがきちんと働いているのかどうかも怪しいわ」

 ウリアが高級品と紹介した品々は、公爵家から見ればどれもゴミ同然だった。
 メイドに指示を出し、全て捨てさせた。

「あの子の母が、私と同じくらいの年齢なのよ。昔一緒に学んだこともあったわね。その時多少仲良くしていたことを、未だに自慢げに他の人々に語っているんですって。何かあれば公爵家が黙っちゃいないぞ~って。良い加減うっとおしかったから、ロハーナから手紙が来た時は、正直ホッとしたわ」

 もちろん、例によって今回も、ラゼーロは全てを知った上で演技をしていた。

「でも、約束は守らないとね。あの子に領土を授けましょう」

 ラゼーロは、ウリアが口を付けたカップをメイドに渡した。
 ……先ほどのゴミと一緒に、捨てろという意味だ。
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