男爵令嬢を甘く見ないでください。

冬吹せいら

文字の大きさ
8 / 20

第8話 伯爵家、終了。

しおりを挟む
「はぁ……」

 懲りずに屋敷を訪れたウリアを見て、ロハーナはため息をついた。
 しかし以前のように、ウリアが声を荒げることはなかった。

「こんにちはロハーナ。私はケイトハーグ家の当主、ウリア・ケイトハーグよ」
「えぇ。何の用事ですか?」

 知っていたが、一応聞いておく。

「あなたの領地を譲り受けにきたのよ!」
「そうですか」

 ウリアに連れられ、ロハーナは港まで向かうことになった。

「ふふっ。せっかくだから教えてあげる。昔私のお母様は、ラゼーロ様の命を救ったことがあるのよ?」

 嘘に嘘を塗り重ね、とうとうここまできたかと、ロハーナはむしろ感心していた。
 その後も自慢話は続き、港へ到着。
 そこには、公爵家の雇っている騎士が複数人待っていた。

「お待ちしておりました。ロハーナ様」

 ウリアには軽い会釈のみ。
 イラっとしたが、自分は当主であるから余裕がある。 
 こういうこともあるだろうと、自分を冷静に抑え込んだ。

「見なさいロハーナ! 騎士様がすでに領地を抑えておいてくれたの!」

 ウリアは自分のために公爵家が騎士を送ってくれたと勘違いしているが、実際はロハーナのために送られてきたのである。

「この領地は私のものよ!」
「そうですね……」

 騎士が取り囲んでいる箇所がある。
 ウリアが来たので、そこから離れた。
 ……砂浜に、小さい四角形が彫られており、中央におもちゃの旗が刺してある。
 旗には、伯爵家の領地であることを示す模様が書かれていた。

 本来、領地を示すために置かれる旗は、もっと大きいものであるはずなのだが……。
 首を傾げながらも、ウリアは自分なりに解釈をした。

「わかったわ! あまりに領地が広大すぎるから、ここに一つ旗を立てることで済ませようとしたのね! その方が良いわ! だって仕事も少なくて済むんだから!」
「あははっ!」

 ついに堪えきれなくなったのか、ロハーナが笑い始めた。

「なにがおかしいのよ!」

 こちらも堪えきれず、大声で怒鳴り始める。

「ウリア様。ここがあなたの新たな領地ですよ」

 そう言いながら、ロハーナは小さな四角形を指差した。

「は……?」
「公爵家の命令です。伯爵家の領地は全て没収され、新たにこの領地が送られることになりました」
「なにを――」
「良かったですね! 念願の港の領地です! この四角形の中であれば、自由にしていただいて構わないのですよ!」

 ウリアは、何がなんだかわからず、頭を抱えた。
 するとそこに、一台の馬車が現れた。

 降りてきたのは……。

「お、お父様ぁ!?」

 下着姿になったレンフローだった。

「ふふっ。屋敷から追い出されたのでしょう」
「そんな……」

 レンフローはショックのあまり気絶していた。

「どうしてこんな酷いことするのよ!」
「お教えしましょう。伯爵家は横暴な態度で男爵家の領地を奪い取ろうとしました。それだけではありません。領民への法外な税の押収や、酷い暴力。まだまだありますよ? 闇組織との裏やり取り、それから……」
「うるさい! 黙れぇ!」

 ロハーナに殴りかかろうとしたウリアを、騎士が羽交い絞めにした。

「国民全員が、伯爵家の崩壊を望んでいたのです。不幸にもその引き金を自ら引いたのが、あなたですよ。ウリア・ケイトハーグ」
「いやああぁああ!!! 離せぇ!」

 広い砂浜に、ウリアの叫び声が響いた。
 こうして伯爵家は、全てを失ったのである。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

愛する人のためにできること。

恋愛
彼があの娘を愛するというのなら、私は彼の幸せのために手を尽くしましょう。 それが、私の、生きる意味。

不機嫌な侯爵様に、その献身は届かない

翠月るるな
恋愛
サルコベリア侯爵夫人は、夫の言動に違和感を覚え始める。 始めは夜会での振る舞いからだった。 それがさらに明らかになっていく。 機嫌が悪ければ、それを周りに隠さず察して動いてもらおうとし、愚痴を言ったら同調してもらおうとするのは、まるで子どものよう。 おまけに自分より格下だと思えば強気に出る。 そんな夫から、とある仕事を押し付けられたところ──?

悪役令嬢は断罪されない

竜鳴躍
恋愛
卒業パーティの日。 王太子マクシミリアン=フォン=レッドキングダムは、婚約者である公爵令嬢のミレニア=ブルー=メロディア公爵令嬢の前に立つ。 私は、ミレニア様とお友達の地味で平凡な伯爵令嬢。ミレニアさまが悪役令嬢ですって?ひどいわ、ミレニアさまはそんな方ではないのに!! だが彼は、悪役令嬢を断罪ーーーーーーーーーーしなかった。 おや?王太子と悪役令嬢の様子がおかしいようです。 2021.8.14 順位が上がってきて驚いでいます。うれしいです。ありがとうございます! →続編作りました。ミレニアと騎士団長の娘と王太子とマリーの息子のお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/mypage/content/detail/114529751 →王太子とマリーの息子とミレニアと騎士団長の娘の話 https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/449536459

婚約者様への逆襲です。

有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。 理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。 だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。 ――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」 すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。 そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。 これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。 断罪は終わりではなく、始まりだった。 “信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。

悪役令嬢は間違えない

スノウ
恋愛
 王太子の婚約者候補として横暴に振る舞ってきた公爵令嬢のジゼット。  その行動はだんだんエスカレートしていき、ついには癒しの聖女であるリリーという少女を害したことで王太子から断罪され、公開処刑を言い渡される。  処刑までの牢獄での暮らしは劣悪なもので、ジゼットのプライドはズタズタにされ、彼女は生きる希望を失ってしまう。  処刑当日、ジゼットの従者だったダリルが助けに来てくれたものの、看守に見つかり、脱獄は叶わなかった。  しかし、ジゼットは唯一自分を助けようとしてくれたダリルの行動に涙を流し、彼への感謝を胸に断頭台に上がった。  そして、ジゼットの処刑は執行された……はずだった。  ジゼットが気がつくと、彼女が9歳だった時まで時間が巻き戻っていた。  ジゼットは決意する。  次は絶対に間違えない。  処刑なんかされずに、寿命をまっとうしてみせる。  そして、唯一自分を助けようとしてくれたダリルを大切にする、と。   ────────────    毎日20時頃に投稿します。  お気に入り登録をしてくださった方、いいねをくださった方、エールをくださった方、どうもありがとうございます。  とても励みになります。  

【完結】見えるのは私だけ?〜真実の愛が見えたなら〜

白崎りか
恋愛
「これは政略結婚だ。おまえを愛することはない」 初めて会った婚約者は、膝の上に女をのせていた。 男爵家の者達はみな、彼女が見えていないふりをする。 どうやら、男爵の愛人が幽霊のふりをして、私に嫌がらせをしているようだ。 「なんだ? まさかまた、幽霊がいるなんて言うんじゃないだろうな?」 私は「うそつき令嬢」と呼ばれている。 幼い頃に「幽霊が見える」と王妃に言ってしまったからだ。 婚約者も、愛人も、召使たちも。みんな私のことが気に入らないのね。 いいわ。最後までこの茶番劇に付き合ってあげる。 だって、私には見えるのだから。 ※小説家になろう様にも投稿しています。

悪意には悪意で

12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。 私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。 ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

処理中です...