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「あれ……」
南の国の魔法学園。
一人の少女が、何度も杖を振りながら、悪戦苦闘している。
「どうしたの?」
「リンダ様……。あの、どうしても回復魔法が使えないんです」
「あら」
リンダはかつての自分のことを思い出した。
回復魔法は扱いが難しい。
少女の年齢では、まだ魔力のコントロールが不安定なので、唱えることは厳しいと言えるだろう。
「どうして回復魔法を唱えたいの?」
「その……」
少女は頬を赤らめ、モジモジしながら言った。
「リンダ様みたいに、なりたいからです……」
今度は、リンダの顔が赤くなった。
「テオ様と一緒に、各地を回って、病人や森を癒している……。そんなかっこいい姫様に、私もなりたいんです!」
「嬉しい……。ありがとうね」
リンダは少女の頭を撫でた。
この魔法学園の講師を務めるようになって、数年経つ。
しかしながら、自分に憧れて回復魔法を覚えたいという生徒と出会うのは、初めての経験だった。
「だけど、回復魔法はもう少し大人になってからにしましょう。基礎的な魔力が身に付かないことには、唱えられないわ」
「うぅ……」
「大丈夫よ。私だって、あなたくらいの年齢の時は、林檎を宙に浮かすことすらできなかったんだから」
「ほ、本当ですか?」
「えぇ。でも今は、木々を宙に浮かせることだってできる……。人は必ず成長するものよ。向上心さえ持ち続ければね」
「リンダ様……」
目をキラキラと輝かせて、リンダを見つめる少女。
この力強い熱意があれば、きっと回復魔法を唱えられる日がくるだろう。
そう思いながら、リンダは少女の頬にキスをして、その場を後にした。
◇
「なるほどね……。君に憧れて」
「はい……。とても嬉しかったです」
「ははっ。君が笑っていると、僕まで嬉しくなるよ」
王宮の一室にて、テオとリンダが食事をしている。
話題は、今日の魔法学園での出来事だ。
「他の講師たちの評判も良いし、どうやら君は教えるもの上手いらしいね」
「どうでしょうか……。子供たちの頑張りもあると思いますが」
「そりゃあ、姫様に直接魔法を教わることができる機会は、そんなに多くないからね」
「……あまり、姫として接してほしくはないのですが」
リンダは苦笑した。
「ありがとう。リンダ」
「……いきなりどうされたのですか?」
「君が僕と結婚してくれたおかげで、国はとっても美しくなったよ」
「そんな。私よりもむしろ、テオ様の力が大きいと思います……」
「僕が力を発揮することができるのも、君のおかげだよ」
二人は見つめ合う。
徐々に、顔が近づいて……。
ゆっくりと、触れるだけのキスをした。
「……好きだよ。リンダ」
「私も……。大好きです」
南の国の魔法学園。
一人の少女が、何度も杖を振りながら、悪戦苦闘している。
「どうしたの?」
「リンダ様……。あの、どうしても回復魔法が使えないんです」
「あら」
リンダはかつての自分のことを思い出した。
回復魔法は扱いが難しい。
少女の年齢では、まだ魔力のコントロールが不安定なので、唱えることは厳しいと言えるだろう。
「どうして回復魔法を唱えたいの?」
「その……」
少女は頬を赤らめ、モジモジしながら言った。
「リンダ様みたいに、なりたいからです……」
今度は、リンダの顔が赤くなった。
「テオ様と一緒に、各地を回って、病人や森を癒している……。そんなかっこいい姫様に、私もなりたいんです!」
「嬉しい……。ありがとうね」
リンダは少女の頭を撫でた。
この魔法学園の講師を務めるようになって、数年経つ。
しかしながら、自分に憧れて回復魔法を覚えたいという生徒と出会うのは、初めての経験だった。
「だけど、回復魔法はもう少し大人になってからにしましょう。基礎的な魔力が身に付かないことには、唱えられないわ」
「うぅ……」
「大丈夫よ。私だって、あなたくらいの年齢の時は、林檎を宙に浮かすことすらできなかったんだから」
「ほ、本当ですか?」
「えぇ。でも今は、木々を宙に浮かせることだってできる……。人は必ず成長するものよ。向上心さえ持ち続ければね」
「リンダ様……」
目をキラキラと輝かせて、リンダを見つめる少女。
この力強い熱意があれば、きっと回復魔法を唱えられる日がくるだろう。
そう思いながら、リンダは少女の頬にキスをして、その場を後にした。
◇
「なるほどね……。君に憧れて」
「はい……。とても嬉しかったです」
「ははっ。君が笑っていると、僕まで嬉しくなるよ」
王宮の一室にて、テオとリンダが食事をしている。
話題は、今日の魔法学園での出来事だ。
「他の講師たちの評判も良いし、どうやら君は教えるもの上手いらしいね」
「どうでしょうか……。子供たちの頑張りもあると思いますが」
「そりゃあ、姫様に直接魔法を教わることができる機会は、そんなに多くないからね」
「……あまり、姫として接してほしくはないのですが」
リンダは苦笑した。
「ありがとう。リンダ」
「……いきなりどうされたのですか?」
「君が僕と結婚してくれたおかげで、国はとっても美しくなったよ」
「そんな。私よりもむしろ、テオ様の力が大きいと思います……」
「僕が力を発揮することができるのも、君のおかげだよ」
二人は見つめ合う。
徐々に、顔が近づいて……。
ゆっくりと、触れるだけのキスをした。
「……好きだよ。リンダ」
「私も……。大好きです」
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