伯爵家に仕えるメイドですが、不当に給料を減らされたので、辞職しようと思います。ついでに、ご令嬢の浮気を、婚約者に密告しておきますね。

冬吹せいら

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わがまま令嬢 わがまま奥様

「アンリカ! ここに埃が残っていましてよ!!!」
「……申し訳ございません」
「ふんっ! もう、ちゃんとしなさいな! エイリャーン家には、塵一つあってはいけないの! わかる!?」
「申し訳ございません」
「はぁ……。朝から気分悪いわね!」

 気分が悪いのは、こっちなんですけど。
 と、階段を下る、わがまま令嬢の背中に言ってやりたい気持ちを、ぐっと抑えたのは、メイドのアンリカ・ジェネッタ。

 十二歳のころから、エイリャーン家のメイドとして働き、今年で五年目。
 まだ十七歳の彼女は、諸事情により、メイド長を務めている。

「くそっ……。くそっ……」

 諸事情と言っても、なんてことはない。
 前のメイド長が、令嬢のわがままに耐え切れず、辞めてしまったのだ。

「はぁ~~~」

 大きなため息をついたアンリカは、気持ちを入れ替えるため、一旦外に向かった。
 エイリャーン家のわがまま令嬢、ミリス・エイリャーンには、本当に腹が立つ。これがまだ、十歳くらいの小さな女の子であれば、耐えられたのだが、ミリスは今年で、十八歳になる。立派な年頃だ。

 あんなにわがままな娘が、自分より年上だという事実を、どうしてもアンリカは、受け入れられなかった。

 さっさと二十歳になって、結婚して、この家を出て行ってくれればいいのに……。
 そう願うばかりである。
 あと二年。しかし、その二年が、アンリカにとって、果てしなく遠いように思えた。
 
 仮に、ミリスが出て行ったところで、エイリャーン家には、もう一人のわがまま女がいる。

「あらアンリカ! ちょうど良かったわ! 庭の手入れをしなさい!」
 
 外で、気持ちを静めようと、深呼吸をしていたアンリカに、声をかけたのは、ミリスの母親、フリスラ・エイリャーンである。

「奥様。庭の手入れでしたら、昨日庭師が来ましたので、既に終わっているかと思われます」
「そんなことはわかっているのよ。なんとなく気に食わないから、あなたがなんとかしなさい」
「あの……。私は、他にも仕事がたくさん――」
「この私に、逆らうと言うの!?」
「……わかりました」
「最初から、素直に言うことを聞けばいいのよ」

 アンリカは、拳を握りしめた。

 わがまま令嬢に、わがまま奥様……。さすがに、我慢の限界だ。
 何か一つ、きっかけでもあれば、自分はこの仕事をやめるだろう。
 
 そう考えながら、庭の手入れをしていたところ、馬車の音が聞こえた。
 入り口で止まり……。中からは、男爵家の令息、ダリル・オーセイアが、姿を現した。

 ミリスの婚約者は、別にいる。
 リーブレット侯爵家の令息、ハミル・リーブレットだ。
 ……にも関わらず、ミリスは、堂々と、ダリルを家に呼び、よろしくない関係を育んでいる。

 バレるのも時間の問題だろう。アンリカはそう思っていたが、リーブレット侯爵家は、とても忙しいのか、なかなかこの場面に遭遇することが無い。
 だから、ミリスもどんどん大胆になる。

 時に二人は、今、アンリカが手入れしている庭で、仲睦まじく、お互いに愛を囁き合っていることすらあるのだ。
 当然、外から丸見えである。見ているこっちが、ヒヤヒヤする光景だ。

 自分には関係ない。アンリカはそう思って、庭の手入れを続けていたのだが……。

「あら、アンリカ。邪魔よ。さっさとそこを退きなさい」

 ダリルと手を繋いだミリスが、庭にやってきた。

 アンリカは、何も答えず、ただ礼をして、その場を去ろうとする。

「そう言えば、お父様が、あなたを探していたわよ!」

 早足で去って行くアンリカの背中に、ミリスが声をかけた。

 ビアール様が……?
 どうせ、ろくでもない雑用を、押し付けられるのだろう。

 また、ため息をついて、アンリカは、ビアールの部屋へと急いだ。
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