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辞めます
エイリャーン家の当主、ビアール・エイリャーンは、わがまま娘、わがまま奥様に比べれば、幾分かマシな存在である。
幾分か。というだけであって、忙しいにも関わらず、肩を揉んでほしいなどという、しょうもない理由で、呼び出されることも、多々あった。
どうせその類だろう。
アンリカは、暗い気持ちのまま、ビアールの部屋のドアをノックした。
「入ってくれ」
「失礼します」
ビアールは、椅子に座り……。
なにやら、いつもよりも、引きつった笑みを浮かべている。
「どういった、ご用件でしょうか」
「あぁ……。その、まぁ、座りなさい」
促され、アンリカは、ソファーに腰かけた。
テーブルを挟んで、向かいのソファーに、ビアールが腰かける。
この構図は……。メイドと当主、ではなく。
雇い主と、労働者……。である。
アンリカは、何かを察した。
「……仕事を増やすおつもりで?」
「え~……っと」
バツの悪そうなビアールに、アンリカはイライラしている。
「それならそうと、おっしゃってください」
「いや、仕事が増えるわけじゃないんだ。それはこのまま。うん。だ、だってアンリカは、今でさえ、たくさん仕事をしてくれているからね! もちろん、当主である僕も、感謝しているよ!」
気味が悪い……。こんなことを言う人間ではないはずだ。
「でしたら、どういったご用件で?」
「……うん。アンリカ。単刀直入に言うとね。君の給料を、半分にしたいんだ」
「……は?」
耳を疑った。
高給であるというメリットを除いてしまえば、貴族の家のメイドなど、やる価値は無い。
「いやぁ~。っていうのもね? 僕は今度、釣りを始めたいと思っているんだが、フリスラが良い顔をしなくてね~。ほら、僕って、道具にこだわるタイプだろう? 余計な出費が増える~って。難色を示されたんだ!」
これ以上、話を聞く意味は無かったが、アンリカは、怒りで頭が真っ白になっており、動くことができなかった。
「それで! 思いついたんだ! アンリカの給料を、半分にすれば、釣り道具を買う、足しになるんじゃないかなぁ~ってね! 良い考えだろう?」
「ははっ、そうですね」
「おっ、わかってくれるか! じゃあ――」
「私、辞めますから」
「え?」
アンリカは、サッと立ち上がり、部屋を出て行く。
しかし、すぐにビアールが、アンリカの前に立ちふさがった。
「ま、待ちなさい。どうしたんだい急に。給料が半分になるくらいで!」
半分になるくらいで……?
アンリカは、怒りを通り越して、悟りの領域へと突入していた。
こうなれば、もう後は、おだやかな笑顔を浮かべるのみである。
「ビアール様。私、元々辞める予定だったんです」
「なっ……。考え直しなさい! 君ほどの働きものはいないのだから!」
なぜこうも、神経を逆なでするような言葉ばかり、選択することができるのだろう。
「今までお世話になりました。ビアール様」
「まっ――」
アンリカは、ビアールを無視して、部屋を出た。
さて、これで自由の身である。
思わずアンリカは、スキップをしてしまった。
「アンリカ! なんてはしたないの!」
その様子を見たフリスラが、アンリカを注意するが、無視してスキップを続ける。
「ア、アンリカ!? あなた何を考えているのよ!」
庭から、ミリスが慌てて駆け寄ってきて、アンリカの腕を掴んだ。
「メイド如きが、人の家でスキップなんて、するんじゃないわよ! お尻を出しなさい! 叩いてあげるわ!」
「結構です」
「なんですって……!? あんた、どうなっても知らないわよ!?」
「はい。私も知りません」
わがまま令嬢を振り切って、アンリカは、エイリャーン家を後にした。
そして、この日が、エイリャーン家にとって、大きな境目となることは、アンリカ以外、誰も知らなかった……。
幾分か。というだけであって、忙しいにも関わらず、肩を揉んでほしいなどという、しょうもない理由で、呼び出されることも、多々あった。
どうせその類だろう。
アンリカは、暗い気持ちのまま、ビアールの部屋のドアをノックした。
「入ってくれ」
「失礼します」
ビアールは、椅子に座り……。
なにやら、いつもよりも、引きつった笑みを浮かべている。
「どういった、ご用件でしょうか」
「あぁ……。その、まぁ、座りなさい」
促され、アンリカは、ソファーに腰かけた。
テーブルを挟んで、向かいのソファーに、ビアールが腰かける。
この構図は……。メイドと当主、ではなく。
雇い主と、労働者……。である。
アンリカは、何かを察した。
「……仕事を増やすおつもりで?」
「え~……っと」
バツの悪そうなビアールに、アンリカはイライラしている。
「それならそうと、おっしゃってください」
「いや、仕事が増えるわけじゃないんだ。それはこのまま。うん。だ、だってアンリカは、今でさえ、たくさん仕事をしてくれているからね! もちろん、当主である僕も、感謝しているよ!」
気味が悪い……。こんなことを言う人間ではないはずだ。
「でしたら、どういったご用件で?」
「……うん。アンリカ。単刀直入に言うとね。君の給料を、半分にしたいんだ」
「……は?」
耳を疑った。
高給であるというメリットを除いてしまえば、貴族の家のメイドなど、やる価値は無い。
「いやぁ~。っていうのもね? 僕は今度、釣りを始めたいと思っているんだが、フリスラが良い顔をしなくてね~。ほら、僕って、道具にこだわるタイプだろう? 余計な出費が増える~って。難色を示されたんだ!」
これ以上、話を聞く意味は無かったが、アンリカは、怒りで頭が真っ白になっており、動くことができなかった。
「それで! 思いついたんだ! アンリカの給料を、半分にすれば、釣り道具を買う、足しになるんじゃないかなぁ~ってね! 良い考えだろう?」
「ははっ、そうですね」
「おっ、わかってくれるか! じゃあ――」
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「え?」
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半分になるくらいで……?
アンリカは、怒りを通り越して、悟りの領域へと突入していた。
こうなれば、もう後は、おだやかな笑顔を浮かべるのみである。
「ビアール様。私、元々辞める予定だったんです」
「なっ……。考え直しなさい! 君ほどの働きものはいないのだから!」
なぜこうも、神経を逆なでするような言葉ばかり、選択することができるのだろう。
「今までお世話になりました。ビアール様」
「まっ――」
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思わずアンリカは、スキップをしてしまった。
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「ア、アンリカ!? あなた何を考えているのよ!」
庭から、ミリスが慌てて駆け寄ってきて、アンリカの腕を掴んだ。
「メイド如きが、人の家でスキップなんて、するんじゃないわよ! お尻を出しなさい! 叩いてあげるわ!」
「結構です」
「なんですって……!? あんた、どうなっても知らないわよ!?」
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