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帰郷
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「ただいま~!」
晴れて自由の身となったアンリカは、生まれ故郷である辺境の村、ピジュ村へと帰ってきた。
王都ジャベットからは、馬車を使って、三時間程度の距離にある。
久々にアンリカの姿を見た、アンリカの母の、リリン・ジェネッタは……。
「まぁ! どうしたの!? クリスマスでもないのに!」
と、驚きながら、アンリカを強く抱きしめた。
一年に、多くても二回ほどしか家に帰らないアンリカが、突然帰ってきたのだから、当然である。
「あのねお母さん! 私、メイド辞めたの!」
「辞めた!?」
「そう! 貯金もあるし、しばらく遊んで暮らすことにしたわ!」
「まぁ……。あんなに、辞めたくないって言ってたのに」
アンリカは、照れくさそうに頭を掻いた。
……元は、確かに、辞めたくないと思っていたのだ。
もし辞めたら、わがまま令嬢や、わがまま奥様に、負けたような気がするから。
なので、せめて……わがまま令嬢が、家を出て行く時までは、我慢しようと、考えていたのである。
しかし、コストカットとなれば、あんな家で働く意味など、何一つ存在しない。
「とりあえず、村のみんなに挨拶してきなさいな。アンリカに会いたがってる人も、大勢いるんだから」
「そうかな……」
「そうよ。あぁ、こんな時に限って、パパは遠出しているのだから、不幸なものよね」
「遠出?」
「山に登りたいんだって」
「変わらないね……」
「変わらない、と言えば……」
リリンが、アンリカのすぐ横にやってきた。
「な、なに?」
「……ハーリスへの気持ちも、まだ変わってないの?」
「ちょっ、お、お母さん!」
アンリカの顔が真っ赤になった。
ハーリス・エンネットは、アンリカの幼馴染で、アンリカと同じく、十二歳で、この村を離れることになった。
王都ジャベットに次ぐ、国内で二番目の都市、コレンドの学園に入学したのだ。
そして、それ以来、一度も顔を合わせてない。
しかし、文通などは続けていたので、お互いの近況に関しては、ある程度知っていた。
ハーリスは、十五歳で学園を卒業し、そのままコレンドで、農業関係の研究者となって、日々励んでいるらしい。
つまり……。自分のように、村へ帰ってくる可能性は、かなり低いと、アンリカは考えていた。
「どうしたの? アンリカ」
「……きっと、ハーリスは、もっと素敵なお嫁さんを見つけると思う」
「何言ってるのよ。あなたたち、絶対に両想いなのよ?」
「でも……」
「どうせ暇なら、コレンドに行ってきなさいな。文通は続けているのでしょう? どこに住んでいるのか、知っているわよね?」
「そ、そんな。会うだなんて……。それに、私は、その前にやることがあるから」
「やること?」
そう。アンリカには……。まだ、仕事が残っていた。
「お母さん。明日もう一度、王都に行ってくるから」
「え? なんでよ。忘れ物?」
「そんな感じかなぁ」
「全く。ドジっ子ね。あなたは」
「へへ……」
ドジっ子。と言われながらも、頭を撫でてくれる母に、アンリカは心温まる思いだった。
……あの家であれば、ドジっ子、と言われた後には、きっと何か、物が飛んでくるだろう。
自分の時のように、この状況を放置したまま辞めてしまえば、悲劇を繰り返すだけ。
次のメイド長を、救うためにも、行動しなければいけない。
晴れて自由の身となったアンリカは、生まれ故郷である辺境の村、ピジュ村へと帰ってきた。
王都ジャベットからは、馬車を使って、三時間程度の距離にある。
久々にアンリカの姿を見た、アンリカの母の、リリン・ジェネッタは……。
「まぁ! どうしたの!? クリスマスでもないのに!」
と、驚きながら、アンリカを強く抱きしめた。
一年に、多くても二回ほどしか家に帰らないアンリカが、突然帰ってきたのだから、当然である。
「あのねお母さん! 私、メイド辞めたの!」
「辞めた!?」
「そう! 貯金もあるし、しばらく遊んで暮らすことにしたわ!」
「まぁ……。あんなに、辞めたくないって言ってたのに」
アンリカは、照れくさそうに頭を掻いた。
……元は、確かに、辞めたくないと思っていたのだ。
もし辞めたら、わがまま令嬢や、わがまま奥様に、負けたような気がするから。
なので、せめて……わがまま令嬢が、家を出て行く時までは、我慢しようと、考えていたのである。
しかし、コストカットとなれば、あんな家で働く意味など、何一つ存在しない。
「とりあえず、村のみんなに挨拶してきなさいな。アンリカに会いたがってる人も、大勢いるんだから」
「そうかな……」
「そうよ。あぁ、こんな時に限って、パパは遠出しているのだから、不幸なものよね」
「遠出?」
「山に登りたいんだって」
「変わらないね……」
「変わらない、と言えば……」
リリンが、アンリカのすぐ横にやってきた。
「な、なに?」
「……ハーリスへの気持ちも、まだ変わってないの?」
「ちょっ、お、お母さん!」
アンリカの顔が真っ赤になった。
ハーリス・エンネットは、アンリカの幼馴染で、アンリカと同じく、十二歳で、この村を離れることになった。
王都ジャベットに次ぐ、国内で二番目の都市、コレンドの学園に入学したのだ。
そして、それ以来、一度も顔を合わせてない。
しかし、文通などは続けていたので、お互いの近況に関しては、ある程度知っていた。
ハーリスは、十五歳で学園を卒業し、そのままコレンドで、農業関係の研究者となって、日々励んでいるらしい。
つまり……。自分のように、村へ帰ってくる可能性は、かなり低いと、アンリカは考えていた。
「どうしたの? アンリカ」
「……きっと、ハーリスは、もっと素敵なお嫁さんを見つけると思う」
「何言ってるのよ。あなたたち、絶対に両想いなのよ?」
「でも……」
「どうせ暇なら、コレンドに行ってきなさいな。文通は続けているのでしょう? どこに住んでいるのか、知っているわよね?」
「そ、そんな。会うだなんて……。それに、私は、その前にやることがあるから」
「やること?」
そう。アンリカには……。まだ、仕事が残っていた。
「お母さん。明日もう一度、王都に行ってくるから」
「え? なんでよ。忘れ物?」
「そんな感じかなぁ」
「全く。ドジっ子ね。あなたは」
「へへ……」
ドジっ子。と言われながらも、頭を撫でてくれる母に、アンリカは心温まる思いだった。
……あの家であれば、ドジっ子、と言われた後には、きっと何か、物が飛んでくるだろう。
自分の時のように、この状況を放置したまま辞めてしまえば、悲劇を繰り返すだけ。
次のメイド長を、救うためにも、行動しなければいけない。
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